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【過去編開幕】終焉の謳い手〜破壊の騎士と旋律の戦姫  作者: 柚月 ひなた
第一部 第二章 忍び寄る闇と誓い

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番外編 ルーカスさんはどんな人?

 ※本編よりも主人公を称賛する描写が過剰にあります。それはちょっと……って方は回れ右です。


 時間軸はお茶会の後~ルーカスと再会前。

 イリアに吹き込んだアレのお話です。

 質問者、イリア・ラディウス。



 証言一、リシア・ヴェセリー。



 エターク王国騎士団の治癒術師(ヒーラー)

 怪我を負った私を治癒してくれた笑顔が素敵な子。

 多分、記憶をなくして初めて会った人。



 問一、ルーカスさんはどんな人ですか?



「団長さんは国民の(あこが)れですよ。特務部隊の団長で〝救国の英雄〟それにあの美形! 女性なら一度はときめいてしまうと思います!」



 問二、私との関係、何か知っていますか?



「ごめんなさい、何も知らないんです。団長さんがイリアさんを連れて行ったのは見てたけど、それは私がお願いしたからだと思ってたし……」






 証言二、シャノン・フォン・グランベル。



 ルーカスさんの妹。双子の姉妹のお姉さん。

 桃色でふわふわの髪はハーフアップで(まと)められいて、くりっとした紅の瞳がとっても綺麗な、お兄さんが大好きで、明るくて元気な女の子。



 問一、ルーカスさんはどんな人ですか?



「お兄様? お兄様はね、とっても強くて格好良いのよ。刀っていうちょっと特殊な武器と剣術を扱うんだけど、抜刀の所作が芸術的なの。

 居合、抜刀術って言うんだっけ?

 あとは破壊の力って言う特別な力を持っていて、それで数々の戦争で功績を上げて——一番有名なのは〝ディチェス平原の争乱〟ね。

 〝救国(きゅうこく)英雄(えいゆう)〟って呼ばれるようになったのもそれがきっかけだもの」



 問二、私との関係、何か知っていますか?



「恋人でしょ? 知り合いって言ってたけど、照れ隠しだと思うわ。私も最初は信じたくなかったけど……イリアさんなら納得」






 証言三、シェリル・フォン・グランベル。



 ルーカスさんの妹。双子の姉妹の妹さん。

 双子なだけあって、容姿は見分けがつかないほどそっくりだけど、桃色でふわふわの髪はシャノンさんより長くて、腰まで伸びている。

 しっかりしていて丁寧な口調の気配りが上手な女の子。



 問一、ルーカスさんはどんな人ですか?



「お兄様ですか? そうですね……切れ長の紅い瞳に、左目の目尻には泣き黒子(ほくろ)が二つあります。

 鼻筋は通っていて、真横に引き結ばれた形の良い唇——その容姿は誰が見ても端正に整っていると思います。

 肩下まで伸びた漆黒の後ろ髪を一つに束ねているのも特徴ですね。

 軍人なので服装は軍服が多く、色は赤と黒を基調とした布地、金のラインと勲章や記章、細工が施されてたものを着こなしています。

 あとはマントですね。国旗である獅子(しし)(えが)かれた赤いマントを羽織(はお)っていますよ。

 それから歳と誕生日は——」



 問二、えっと、私との関係、何か知っていますか?



「大切なお客様、友人であると聞いています。

 ……けれど、その、これは私の憶測(おくそく)なのですが、恋人ではないかと思っています」






 証言四、侍女さんたち。



 いつもお世話してくれるビオラさん、シャノンさん、シェリルさんの専属侍女のカトレアさんとその他の侍女さんたち。



 問一、ルーカスさんはどんな人ですか?



「ルーカス様は紳士(しんし)な方ですよ。私共使用人にも礼を尽くして接して下さいます」

「ええ。それにお嬢様方をとても大切にしてらっしゃいますね。仲が良くて見ていて微笑ましいですよ」

公爵(こうしゃく)様と奥様——いまはご不在ですが、お二人とも良好な関係を(きず)いていますね。公爵家の跡取りでもあります」

「ただ、浮いた話もなくて、婚約者もいらっしゃらないので心配していたのですが……」

「ふふ、杞憂(きゆう)でしたね」

「こんなに可愛らしい想い人がいただなんて。驚きましたが嬉しいお話です」

「お嬢様、どうかルーカス様をお願いしますね」



 問二を聞く前に、侍女さん達に懇願(こんがん)されてしまった。






 証言五、メンデル・ファルネーゼ(きょう)



 お医者様。

 熟年のおじい様で柔和(にゅうわ)な雰囲気のとても温かい人。



 問一、ルーカスさんはどんな人ですか?



「若様ですか? ふむ……、昔はやんちゃなところもありましたな。いまではすっかり落ち着いて、冷静沈着な方です。

 ああ、でもお嬢さんの事となると話は別ですな」



 問二、私との関係、何か知っていますか?



「若様は否定しておられましたが恋人でしょうな。

 いやはや、(わし)は嬉しいのです。

 記憶の事で不安はあるだろうが、(わし)も力になる。心配はいらないよ」






◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇






 ——手紙を残して長期の任務に出かけてしまったルーカスさん。


 彼の事が知りたくて、思いつく限りの人に(たず)ねて見たが返って来る答えは似たような話だった。


 イリアは部屋のベッドへ横になり、天蓋(てんがい)(あお)ぎ見て考える。


 話を聞いてわかったのは、彼は凄い人だと言う事。


 国民の(あこが)れ、救国の英雄、特務部隊団長。

 団長を任せられるくらい強くて実績もあり、美形で格好良くて、紳士で公爵家の跡取りの若様で——。


 自分との関係を問えば、リシアさん以外からは〝恋人〟だと(ほの)めかす様な事を口を(そろ)えて言われた。



「恋人……なのかな?」



(ルーカスさんみたいな凄い人と?)


 ——実感がない。

 記憶がないのだから当たり前なのだけど。


 過去を思い出そうと思考を(めぐ)らすと——頭が痛んだ。

 そして決まって頭が真っ白になり、それ以上考える事が出来なくなる。


 何度か試したがいつも同じだった。

 思い出せない。


 記憶の手掛かりはやっぱり彼しかいない。



(次に会えるのはいつかな……)



 長期の任務へと行ってしまった彼に思いを()せる。


 感謝を伝えたいし、話も聞きたい。

 会える日が待ち遠しい。


 ——けれど、恋人だなんて話を聞いたせいか恥ずかしさも込み上げて来る。



「ルーカスさんと恋人……」



 彼の事は思い出せないし、良く知らない。

 けれど、一瞬見た彼の姿形は確かに、リシアさんの言う通り美形で魅力的だった。


 怒った表情は少し怖かったけど、女性なら一度はときめいてしまうと言うのもわかる。


 柘榴石(ガーネット)を思わせる(あか)い瞳に、片方の目尻には泣き黒子が二つ。

 整った綺麗な顔立ちに、束ねられた長い漆黒(しっこく)の髪が(つや)めいていて。


 背が高く体格も良くて——あんな素敵な人の恋人?


 想像したら一気に顔へ熱が集まって行くのが分かった。



「うう……聞かなければ良かった」



 余計な事を聞いてしまったとイリアは思った。

 変に意識してしまって、どうすればいいかわからない。



(こんな状態で、いざ再会した時まともに会話が出来るの……?)



 ——何事もなく平静を(よそお)う自信がなくて、近くにあった枕を抱き締めて顔を(うず)めた。

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