『幕間 不穏の影②』
双子月が輝く月夜の刻——。
『首尾はどうなっているの?』
「どうもこうも、ご存知でしょ?」
閑散とした街中で黒いローブを纏った少女は、腕輪型のリンクベルで会話をしていた。
相手は高い声色の、女性である。
『失敗って訳ね。全く使えない事……』
声と共に「はあ」とため息が聞こえてくる。
少女はローブに隠された髪を、指先でくるくると弄りながらむっとした様に頬を膨らませた。
「あれもこれもと無茶ぶりされたら、そりゃー結果を出せるわけないじゃない。タダでさえいまはお使いで忙しいってのに」
『まあいいわ。しっかりやりなさい』
その言葉を最後にプツリと通話が途絶えた。
一方的に終わった会話に少女は不満を募らせる。
「はあ、やんなっちゃう」
あっちもこっちも、人使いが荒すぎる。
わざわざ言われなくとも自分の役目はしっかり認識しているし、そのためにしなくて良い苦労を強いられているのだから「少しは労って欲しいなぁ……」と、少女は心の中で一人ごちた。
ともかくあっちの件は後回しだ。
まずはお使い——宝石の回収が先だった。
少女は小声で『風よ』と詠唱を口にする。
すると、小さな竜巻が足元に発生して絡みつき、風を纏った足で地を蹴ると、通常では考えられない様な跳躍力を生み出した。
ふわり、と羽根の様に建物の屋根へと降り立てば、街を一望とはいかないが、辺りの見通しが良くなった。
背の高い時計塔や監視塔であれば更に良いのだが、そう言ったところは生憎と警備の目が厳しく近寄れない。
「さてと」
少女は左手を額に当て、街中の構造を観察した。
「宝石は花の中で輝き、紅き獅子の守護を得る——か」
【星】の導きに従って来たはいいものの、少しばかり面倒な事になっていた。
宝石は別の宝石箱へと、大事に大事にしまい込まれていたのだ。
「んー。どうしようかなぁ」
時間制限も近い。
手がないわけではないが、余裕ぶって悠長にし過ぎたかもしれない。
少女は己の行動をほんのちょぴっとだけ後悔していた。
「あんまり派手には出来ないけど、出し惜しみも出来ないわよね」
じっくりと街並みを見下ろした。
下調べは重要だ。
そうして大体の構造を把握したところで、下の方が騒がしい事に気付く。
視線を落とせば忙しく走る数名の騎士の姿があった。
どうやらこちらを見つけたらしい。
指を指し示して何やら話し込んでいる。
「あは。この街の騎士は優秀ね」
隠蔽魔術も使っているのに気付くなんて流石だと、少女は口角を上げ——妖しく微笑んだ。
パチンと指を弾いて鳴らす。
そうすれば暗闇が少女を包み込んで——夜の闇に溶けるように、少女はその場を後にした。
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