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【過去編開幕】終焉の謳い手〜破壊の騎士と旋律の戦姫  作者: 柚月 ひなた
第一部 第一章 救国の英雄と記憶喪失の詠唱士
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第一話 特務部隊のとある日常

 聖歴(せいれき)二十五(にじゅうご)年 エメラルド月五日。

 エターク王国騎士団本部おうこくきしだんほんぶ特務部隊執務室とくむぶたいしつむしつ


 時刻は早朝、静謐(せいひつ)な執務室にペンを走らせる音が木霊(こだま)していた。

 音の主は三人の青年で、各々目の前に積み上がる紙の山と戦っているところである。


 沈黙を(やぶ)ったのは一人の青年のため息だった。



「——はあ。だんちょー、これいつになったら終わるんすか?」



 団長と呼ばれたルーカスは、書類に落とした視線を持ち上げ、不満を()らした青年へ向けた。


 青年は机に突っ伏しており、女性ウケの良い容姿を忌々(いまいま)し気に(ゆが)め、指で(つま)んで宙にひらひらと泳がせた書類を、淡緑玉(エメラルド)の瞳で(にら)んでいる。


 清潔感を感じさせる刈り上げられたハチに、頭頂部にかけて立ち上がる髪型が特徴的な金色の髪が、朝日に反射して(まぶ)しかった。



「しゃべってる暇があったら手を動かせハーシェル。……いつかは終わる」

「うええ、答えになってないですよー。一晩中頑張ったってのに……この有様じゃないっすか。そこで黙々と書類を(さば)く『執務の権化(ごんげ)』と違ってオレはこう言う仕事苦手なんすよ」



 ハーシェルに『執務の権化(ごんげ)』と揶揄(やゆ)されたもう一人の青年が、長めに揃えられた銀髪の()れる黒縁(くろぶち)の眼鏡越しに、紺瑠璃色(ダークブルー)の瞳を(するど)く光らせた。



「変なあだ名で呼ぶな。こっちまで集中力が切れるだろ。黙って仕事をこなせよ」

「へいへーい。そんな(にら)むなよアーネスト」



 アーネストと呼ばれた青年はピリピリと苛立(いらだ)っている。


 普段は知的で落ち着いた雰囲気(ふんいき)のアーネストだが、ハーシェルが絡むと彼の素行の悪さも相まって、感情的になり(やす)いところがあった。


 今は終わらぬ書類仕事に、神経が()り減って余裕がないのもわかる。


 ルーカスは部下である二人を尻目に、書類に向き直った。

 仕事が溜まっているのに、手を止める訳にはいかない。



「それにしてもここのところ忙しすぎやしないか? ほぼ連日緊急招集(しょうしゅう)魔獣(まじゅう)討伐、多い時には日に数回だろ」

「確かに、騎士団の手に負えず、要請が回ってくる事が増えてるな」

「だろー? お陰で書類仕事まで増やされてさー。本当なら今日は休日で、女の子達とデートする予定だったのに、ぐすん」

「気持ち悪い泣き真似してる余裕があるなら、筆を動かせ筆を!」

「アーネストは冷たいなぁ……」

「お前が無駄口を叩くからだ!」



 聞く耳は持ちながらも口は挟まず、ルーカスは黙々と仕事をこなした。


 ハーシェルが愚痴(ぐち)(こぼ)したくなるのもわかる。

 このところの異様な忙しさは、ルーカスも申し訳なく思っていた。


 団長と呼ばれたように、ルーカスは団を指揮する(おさ)である。

 近年の帝国との戦争で戦果を上げ、その功績を(たた)えられての抜擢(ばってき)だ。


 まだ二十七(にじゅうなな)歳と年若い内の出世である事から、(ねた)(ひが)まれ、また父親のグランベル公爵(こうしゃく)が軍部の最高位〝元帥〟(げんすい)の地位に()るため、「親の七光り」と(あざけ)られる事も多かった。



(親の力で生き残れるほど、戦場は甘くないんだがな)



 安全な場所で(まつりごと)だけ(おこな)う、頭の固い貴族連中にはわからないらしい。


 とはいえ、(あなど)られてしまうのは、少なからず自分の実力不足もある。

 団長として恥じる事がないよう精進しなければ、とルーカスは己を叱咤(しった)した。


 ルーカスが(ひき)いるのは、軍部の中でも独立した特務部隊。


 総員五百(ごひゃく)名と少数ではあるが、武力または智略(ちりゃく)、あるいは技術等に長けたプロフェッショナルが集まる精鋭部隊だ。


 有事・災時・戦時と状況に(おう)じ、多様な任務を()け負うのだが——ここ最近は魔獣討伐任務に駆り出される事が増えていた。


 近年増加の傾向にある〝魔獣〟——。


 発生の原因が特定されておらず、いつ何時、何処(どこ)に出現するか読めない。

 突如(とつじょ)として近隣に現れ、被害をもたらすので〝天災〟と怖れられている。


 魔獣に備え、王国軍部は騎士団の拡充(かくじゅう)や警備体制の見直しを行ってきたが、被害は増える一方。


 最近では、騎士団の戦力で対処しきれない凶暴化した魔獣が増えており、そうした魔獣の対処に特務部隊は連日引っ張りだこ。


 それに加え、マナ欠乏症(けつぼうしょう)と言う体内を巡るマナが(いちじる)しく低下することにより体調不良に(おちい)ると言う病も、各地で増加の傾向がある。


 魔獣増加・凶暴化になんらかの関係があるのでは?

 とも疑われている。


 だが両者の因果関係は証明されておらず、魔獣の増加と凶暴化についても、未だに原因の解明がなされていないのが現状だ。


 そのため根本的な解決策が見出せず、軍部の政策は後手に回っていた。



(原因不明とは、頭の痛い話だな。せめて何らかの糸口を掴めればいいんだが……)



 仕方がないと言えばそれまでだが——他の任務と並行して魔獣討伐へ、と言うパターンも珍しくない。


 団員達への負担は増すばかりだ。



「——だああっ! 一向に減る気配がねえ、やってらんねー!!」

「愚痴ばっか(こぼ)して、さっきから手を動かしてないんだ、当然だろ!」



 ハーシェルとアーネストは飽きずに口論を続けている。


 そんな二人をよそに、思案に(ふけ)りながらもルーカスが仕事を続けていると——。


 「コンコン」と執務室の扉を叩く音が聞こえて来た。


 返事を待たず「失礼します!」と女性特有の高い声が響いて扉が開く。


 部屋の中へ入って来たのは、やや紫みを帯びた深い青色の長髪を、高い位置で(まと)めて垂らした女性。


 紫水晶(アメジスト)のように美しい瞳が、真っ直ぐルーカスへ向けられる。

 少し吊り上がった目尻と、引き締まった美しい顔の造形からキツそうな印象を受ける彼女は、特務部隊の団員の一人。


 ハーシェル、アーネスト同様ルーカスの側近であるアイシャだった。



「ルーカス団長、騎士団からの応援要請です!」



 通りが良く、覇気(はき)のある声が告げた言葉に、ルーカスは筆を走らせる手を止めた。



「詳細は?」

「場所は王都南部の森、約三メートルの熊型魔獣——魔熊(まゆう)

 王都へ続く林道付近に現れたとの事です。

 昨日(さくじつ)夜半前に丁度港町との中間辺りで通りがかった商人が目撃し、幸い何事もなく王都へ辿り着いたそうです。

 しかし王都との距離が近い事、通行量の多い道であった事、このニ点を踏まえ討伐が決定。

 夜半過ぎに騎士団三十八名が派遣され、夜明けと共に戦闘を開始。現在交戦中ですが予想以上に凶暴な魔熊(まゆう)で負傷者多数。

 決定打に欠け防戦一方で苦戦を強いられている模様です。

 それと未確認ですが、民間人が巻き込まれたとの情報もあり——」



 すらすらと情報が告げられ、詳細を聞いたルーカスはすぐさま筆を置いて立ち上がった。


 聞く限りでも状況が良くないとわかる。

 刻一刻と悪化が予想され、迅速な対処が必要だ。


 ハーシェル、アーネストもルーカスを(なら)って筆を置き、立ち上がるのが見えた。



「すぐに出る。ロベルトは?」

「団長ならそう言うだろうと(おっしゃ)って、副団長は馬の準備と必要物資を取りに行かれてます」

「流石だな。念のため七班、十班にも出撃を通達。ハーシェル、アーネスト、アイシャ、準備が整い次第出発するぞ」



 団員達から「承知(しょうち)しました!」と、威勢のいい返事が返る。


 ルーカスは机に立て掛けた刀を腰に(たずさ)えると、王国の国旗(こっき)でもある獅子(しし)(えが)かれた赤のマントを羽織(はお)り、襟足(えりあし)で一つに束ねた黒髪と共に(ひるがえ)して、団員を(したが)え執務室を後にした。


 ——その日、騎士団から魔獣討伐の救援要請を受けた特務部隊は、ルーカス(ひき)いる一班を含めた計三班、二十名を現場へと急行させた。

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