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【過去編開幕】終焉の謳い手〜破壊の騎士と旋律の戦姫  作者: 柚月 ひなた
哀歌~追憶~

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第七話 殉ずる≪sacrifier≫

 ルーカスは、先陣を切るカレンを追って、西へ進んだ。


 何故、西かと言えば、探知魔術を行使する護衛の騎士から進言があったからだ。

 「西側は魔獣の数が少ない」と。


 カレンが雷の魔術、もしくは紫電を宿した矢を放ち、それを起点に魔獣を斬り崩して、突破口とした。


 そうやって、命からがら。

 魔獣の壁をルーカス達は抜けた。



(突如として現れた、魔獣の大群。その襲撃に合った後方部隊は……多くの者が、抵抗すら許されず死んでいった。運良く生き延びた、ほんの一握りの者が俺達と共に進んで……。

 ……けど、彼らも……)



 ——抜けた先で、軍旗(ぐんき)——上部に翼を模した装飾のある杖に双頭の蛇が絡みつく絵柄——を(かか)げる兵達が待ち構えていた。


 あの象徴(シンボル)は、帝国のものだ。



「どうして、帝国兵がここに!? 魔術の索敵には、何も——」



 探知魔術を使っていた護衛の騎士はこの言葉の後、前方の兵が放った矢に額を射貫かれて、地へ伏した。


 間髪入れず、雨のように矢と炎の魔術が、逃げ延びてきたルーカス達へ降り注ぐ。



『マナの光よ、我らを(まも)(たま)え 顕現(けんげん)せよ、災厄を拒む光の盾!』



 カレンと何人かの騎士達が〝守護結界(ラプロテージュ)〟を展開して、防ごうとした。



(だが、とてもじゃないが全員を守り切ることなど出来なくて……)



 一人、また一人と。

 撃たれて命を散らして行った。



(逃げ場はどこにもなかった。行く手は包囲されていたし、引き返しても魔獣の群れの中。

 ……それでも、カレンは希望を捨てることなく)



「もう、ダメだ……おしまいだ……」


「オレ達は、全員ここで死ぬんだ!」


「あぁ……うあぁああ!」


「落ち着きなさい! まだ私達は生きている、諦めなければ、道は拓けるのよっ!」



 カレンが凛と背筋を伸ばして矢をつがえ、反撃の一矢を報いた。


 彼女自身、魔獣の群れを突破するために魔術を酷使して、気力だけで立っている状態に見えるというのに。

 生きる事を諦めなかった。



(それを嘲笑(あざわら)うように、あの男は現れたんだ)



「活きがイイのがいると聞い飛んで来てみたが……くはッ! アタリだなァ?」



 逆立った短い銀髪に月明かりを受けて、漆黒を纏った男が、包囲網を築く帝国兵を押し退けて前へ。


 肩に担いだ男の剣にはべっとりと血糊(ちのり)がついている。

 赤黒い飛沫(しぶき)の跡がある顔は、心底楽しそうに歪ませていた。



(ヤツの、憎たらしい笑顔が今も脳裏に焼き付いてる。

 そして、あの瞳……!)



 男の一番の特徴とも言えるそれ。

 輝く黄金のように光沢感があり、富と最高の存在であることを想起させる金色(こんじき)——。


 瞳を見て、一目でわかった。



「〝黄金眼(レジュー・ドール)〟……アディシェス皇族(こうぞく)!」



 男が、帝国の皇子(おうじ)であると。



「察しがいいなァ。ま、この瞳をみりゃ、一目瞭然(いちもくりょうぜん)か」



 上機嫌に(わら)う男とルーカスの視線が結ばれる。

 と、そこで男も気付いてしまう。



「んん? 紅眼(ルージュ)……エターク王族かぁ?」



 ルーカスの出自に。

 それから、ギョロリと黄金眼(レジュー・ドール)が動く。

 カレンの方へと。


 「しまった」とルーカスは慌てて、セイランと共にカレンを背へ隠すが——。



「くははっ!! これはいい」



 手遅れだった。

 迂闊(うかつ)にも自分ばかりか、カレンの存在を知られてしまった。



「皇太子に逃げられて興醒(きょうざ)めしてたんだ。お前達はせいぜい楽しませてくれよ?」



 (なぶ)りがいのある玩具(おもちゃ)を見つけた、と言わんばかりに、男の顔が醜悪(しゅうあく)さを増していく。


 帝国の皇族が、残虐(ざんぎゃく)な性格である事は有名だった。

 目をつけられたが最後、どのような目にあわされるかわかったものではない。


 ルーカスはギリギリと奥歯を噛み締めた。



(守ると、誓ったんだ。カレンを……俺が、命に代えても守ると……!

 ……必死に考えた。守る(すべ)を。どうすれば、カレンを生かす事が出来るのか。

 この身を捨て石としてヤツの注意を惹き付ければ、彼女が逃げる時間くらいは稼げるんじゃないか。

 ……俺は、そんな風に、考えて)



 刀を正面に構え、最前へ出る。



「セイラン、頼みがある」


「……何でしょう」


「カレンを連れて、逃げてくれ。

 この場は俺が食い止める。だから……!」


「ルーカス!? 何言ってるのよ!」



 論じている時間などない。

 ルーカスは背を見せ続ける事で、己の決意を示した。


 セイランならば、自分の考えに賛同してくれるだろうと信じて。



「それは……聞けない頼みですね。貴方を犠牲にして生き延びても、姫様は喜びませんよ」



 けれども、期待を裏切って、短くふんわりと切り揃えた花紺青(スマルト)の髪を揺らした彼女が、ルーカスの前をゆく。



「第一、ルーカス殿がいなくなったら、誰が姫様を幸福(しあわせ)にするというのですか。

 この場は私が残ります」


「セイラン、貴女まで何を!!」


「姫様。我がアムソニアは、このような時の為に存在しているのです。

 あの男は、皇太子——ゼノン殿下に逃げられたと言った。きっと……父、アムソニア師団長も、同じ事をしたのでしょう」



 セイランが剣の切っ先を男へ向ける。


 と、彼女の周囲を青と赤、二色のマナが舞い、これまで目にした事のない(まばゆ)い輝きを、全身に(まと)わせた。



「心配はいりません。模擬戦ではルーカス殿に及ばなかった私ですが、アムソニアの真髄(しんずい)をもってすれば、何者にも負けません」



 それは、アムソニア侯爵家の門外不出の秘技。



「この命を燃やし、血路を開きます!」

 


 セイランが命の煌めきを乗せた剣を振り抜く。

 煌めきに触れた敵は滅却され、包囲網に穴が開いた。



(アムソニアの秘技は、言葉通り……生命力をマナに変換し、限界を超えて身体能力を強化する、あるいは熱量として放出する有限の力だ)



「行って下さい、姫様、ルーカス殿!!」



 身命を賭すと決めた彼女の想いを無碍(むげ)にできない。


 ルーカスはカレンの手を取った。



「……っ! 行くぞ、カレン!」


「ダメよ、セイランを残していけないわ!」


「姫様、剣を捧げた主の為、(じゅん)じられるなら私は本望です。ただ……そうですね。もし彼に……、アシュリー公子に会えたら、代わりに謝っておいてください」



 アシュリー公子とは、ディーンの事だ。

 二人の間に何があったのかはわからないが——ルーカスは頷いた。


 カレンの手を引いて、包囲網の穴へ走る。



「セイラン殿!」


「貴方達も生きなさい! 姫様を守り、一人でも多く——!」



 生き残っていた騎士達も、セイランに背を押されてルーカスに続いた。



「セイラン! セイラン!!」



 彼女の名を呼ぶカレンに、また友人を置き去りに逃げるしかない自分に後ろ髪を引かれながら、ルーカスは駆ける。


 それが最善であると言い聞かせて。






 ——けれども、現実は残酷だ。


 セイランの行動は悲劇をほんの少し遅らせただけ。

 悪夢はすぐに追いついて来た。



(結局……皆、殺された……。

 ……あいつに、嗜虐(しぎゃく)の狂王子に……っ!

 無力だった俺は、何も……。何も……守れなかった。セイランの覚悟さえ……無駄に、してしまった)

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