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【過去編開幕】終焉の謳い手〜破壊の騎士と旋律の戦姫  作者: 柚月 ひなた
第一部 第五章 女神のゆりかご

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『間奏曲 悪魔達の狂詩曲(ラプソディ)②』

 惑星延命術式わくせいえんめいじゅつしき、通称〝女神(めがみ)のゆりかご〟。


 女神がその身を十の宝珠(セフィラ)に転じて、それを要石(かなめいし)に展開する惑星規模の結界——。



「あの方の御手(みて)から被造物(ひぞうぶつ)である人類を守るために、女神が施した強固なる守り。女神の愛。

 もう少しで鬱陶(うっとう)しい愛のベールを()がせたのに、残念ねぇ」



 凝固(ぎょうこ)した血のように赤黒く染まる空は素敵だったのに、と()み渡る青い空を見上げて、アインは溜息を吐いた。



「レーシュも残酷(ざんこく)な事をするわ。

 (あらが)ったところで、この惑星(ほし)はあの方に飲み込まれる運命。

 悪戯(いたずら)(かな)しみを増やし、苦痛の時間を引き延ばすだけなのよ。

 ……まあ、二人を仕留め損ねた私が言えた事ではないでしょうけど」



 女神の血と想いを継いだ世界の守り人、女神の血族(けつぞく)

 一族の生き残りであるイリアとノエルの抹殺に失敗したことがやはり悔やまれる。



「あの方とノエル様を想えば、あそこで終わらせる事が最善だったのに。詰めが甘かったわ。

 ……ほんと、可哀(かわい)そうなノエル様。

 これまでにない絶望を(いだ)いて……貴方は今、どんな顔をしているのでしょうね」



 自分の裏切りを知った時も、とても素敵な表情を見せてくれた。

 全てを投げうって守ろうとした最愛の人を失ったとなれば、その絶望は比ではないだろう。


 ノエルの絶望する姿を思い浮かべて——。


 アインは喜びを感じると同時に、胸にチクリとした痛みを覚えた。


 嫉妬(しっと)あるいは憂慮(ゆうりょ)か。


 自分の中にこのような感情が芽生えるなんて、面白可笑しい事だった。


 けれど「不要な感情ね」と、アインは切り捨てた。



「——さて、帰りましょうか。

 こうなったからには、次の舞台(ステージ)を準備しないとだし。

 皇帝陛下(こうていへいか)皇后陛下(こうごうへいか)とおにいさまも。報告を待ち兼ねていることでしょうから」



 アインは左手の親指と中指を擦り合わせて「パチン」と鳴らした。


 すると、風に乗って黒霧(こくむ)が寄り集まり、〝(ゲート)〟と呼ばれる漆黒(しっこく)の大穴を形成した。


 世間一般で認識されている通り、これは(もん)である。

 空間と空間を繋ぐ、時空属性に分類される魔術だ。


 アディシェス皇族(こうぞく)象徴(しょうちょう)である黄金眼(レジュー・ドール)——魔神(まじん)の祝福の証であるそれを持たずに生まれた自分が、代わりに授かった力。


 次元すら越えて、アルカディアとクリフォトを繋ぐ事が出来る、稀有(けう)な力を(もたら)したのは【悪魔(あくま)】の神秘(アルカナ)だ。


 そして、皇女(こうじょ)として生を受けたにも関わらず、黄金眼(レジュー・ドール)を持つことが出来なかった原因も神秘(アルカナ)のせいだった。


 生まれながらに女神の祝福を受けていたため、魔神の祝福を受け取れなかったらしい。


 皇族の象徴を持たない皇女。


 魔神を信奉する帝国で、自分がどのような扱いを受けたかは言うまでもないだろう。



「でも、あの方——魔神様は……みすぼらしく、(みじ)めな生を送るしかなかった私を、必要としてくれた」



 (しいた)げられている最中、思いがけず力を発現させてクリフォトに繋がり——アインは魔神と邂逅(かいこう)した。


 あれこそが運命の出会い。


 この力を必要とされた事が嬉しかった。


 使徒である事を知ったのもその時だったが、女神が自分に何をしてくれただろう。


 アインにとって女神は〝ただ、力を与えた存在〟というだけ。

 敬愛(けいあい)する気持ちなど微塵(みじん)もない。


 時に本能に突き動かされる事はあっても、気持ち悪いだけだった。



「あの方が私を(こま)としか考えていないのはわかっているわ。この力にしか興味がないことも、十分理解している。

 でも、いいの」



 アインは「ふふ」と妖艶(ようえん)に微笑みながら、作り出した(ゲート)(くぐ)った。


 行く先はアディシェス帝国、首都ラクスムにある皇宮。


 あの場所こそ本来、自分の()るべき場所だ。



「私は演出家、そして役者。

 これからもあの方の望みを叶えるために、舞台を回し続けるわ。

 次はどんな演目にしようかしら?」



 凜々(りんりん)と響く鈴のような高音を鳴らして、アインは帰路へ着く。


 悪魔達が待つ居城へと——。











 第一部 第五章

 「女神のゆりかご」

 終幕。




 次章

 「哀歌(エレジー)追憶(ついおく)〜」


 ルーカス、イリア、ノエル。

 それぞれの過去が語られる。






◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇






 拝読ありがとうございます!

 第一部はこれにて終幕となります。


 どん底に突き落としての決着ですが……終焉(しゅうえん)はハッピーエンドです、このままでは終わりません。


 第二部ではルーカスとノエルが立ち直り、奮闘(ふんとう)して行く様が(えが)かれる事となります。

 ファンタジー要素も更に色濃くなる予定です。


 その前に執筆の時間を取るため、少し更新のお休みを挟み、過去編→第二部の流れで公開の予定です。


 また、第一部の完結を記念して、ここまでに散りばめた伏線・意味注釈の語りを五章の用語辞典の章に入れようと思っています。


 ハイテンションで書き綴っていますので、本編のテンションとはちょっと掛け離れているかもですが、ご興味のある方はそちらも目を通して頂けると嬉しいです。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



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