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【過去編開幕】終焉の謳い手〜破壊の騎士と旋律の戦姫  作者: 柚月 ひなた
第一部 第五章 女神のゆりかご

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第六話 ~生命の円環~【運命】と【死神】

 『(みんな)の力になってあげて』と、忠誠を(ささ)げた主——イリアに言われたフェイヴァは、王国の騎士達と共に女神の使徒(アポストロス)と対峙していた。


 フェイヴァの存在理由は、イリア()の盾となり生きる事。

 それに尽きる。


 故に、主が一人でアインと戦う事に、思うところはあった。


 しかしながら、彼女の意思と目的を無視し、一方的に我を通す事はしない。


 尊重(そんちょう)すべきは、自分の想いより主の意思だ。


 彼女の成したい事を第一に、その上で障害となるものから護り、時に道を切り開く。

 それが自分の役目であり、信条とフェイヴァは心得(こころえ)ていた。


 窮地(きゅうち)(おちい)ったならばすぐに駆け付ける心積もりだが、今はまだ、その時ではない。


 それに——と、フェイヴァは並び立つ五人の使徒達を一瞥(いちべつ)して、一人の使徒を目に留める。


 髪色と同じ、黒塗りの大鎌を構える女性。

 【死神】の神秘(アルカナ)を宿した使徒に。



(ヌンの相手は、オレが適任だ)



 フェイヴァの宿す神秘(アルカナ)は【運命】。

 その特性が【死神】の力に対抗し得る鍵となる。


 主もそこを見越しての采配だろうと、フェイヴァは考えた。






「それじゃあ、始めようか。聖下の〝守護聖域(サンクテュエール)〟がこの場所を護ってくれる。手加減はなしだ」



 使徒ベートが告げて、十色の魔輝石(マナストーン)が輝く杖を地へ打ち付けた。


 すると空中に無数の魔法陣が出現して、炎の弾丸(だんがん)が降り注ぐ。

 それに(まぎ)れて【正義(ラメド)】と【死神(ヌン)】が斬り込んで来るのが見えた。



「最初から飛ばして来るなぁ」

「スピード勝負ならオレも自信あるっすよ!」



 炎を(かわ)しながらディーンが大振りの大剣でラメドの剣を、ハーシェルが双剣を十字に交差させてヌンの鎌を受け止める。

 

 フェイヴァは飛んでくる魔術の粗方を槍で打ち消すと、ヌンと切り結んだハーシェルの元へ駆けた。


 【死神】とただの人間が戦うのは、自殺行為だからだ。



「——うッ!?」



 案の定、刃を合わせただけだというのに、真っ青になりバランスを崩すハーシェルの姿があった。



退()け」



 フェイヴァは槍の一本を地に突き立て、空いた手でハーシェルを引き()がすと、もう一本の槍で死神の鎌を(はじ)く。


 突くように穂先を振るえば、ヌンは距離を取るため後方へステップした。



「が、げほっ」

「ハーシェルさん!?」



 ハーシェルが吐血して膝を折り、リシアが慌てて駆け寄り両手をかざす。


 (あわ)若草(わかくさ)色、治癒術の光がハーシェルを包んだ。



「あいつと刃を合わせるな、死ぬぞ」



 フェイヴァは二人の様子を横目に突き立てた槍を引き抜き——。



「オレが相手をする」



 と、宣言してヌンを見据(みす)えた。



「大丈夫なのですか?」



 背後から掛けられたロベルトの声に、フェイヴァは振り返らず(うなず)く。


 【死神】の神秘(アルカナ)が持つ能力。

 〝静寂なる死の誘いスィランス・ラ・モール〟——命を刈り取る力。


 対峙した者の命を静かに、相手に気付かせる事なく奪い、死へ(いざな)う、必滅(ひつめつ)の力。

 彼女が〝処刑人(ブロー)と呼ばれ〟(おそ)れられる所以(ゆえん)だ。


 何の対策もなく挑めば、結果は火を見るより明らかだが、フェイヴァには対抗する手段がある。



「ボクの相手は、君?」



 角度によっては赤色にも見える瞳がじっとフェイヴァを見つめた。



肯定(こうてい)だ。来るといい」



 槍を構えて(さそ)う。


 すると、ヌンが言葉を返す代わりに、大鎌を(たずさ)えて向かって来た。


 上段から大振りの一撃。

 フェイヴァは左手の槍を水平に、歪曲する鎌の刃を受け止めた。


 両腕を使って振り下ろされた刃に()められた力は軽くないが、この程度ならば片手で事足りる。


 間髪(かんぱつ)入れず、遊んでいる右手の槍で、ヌンの身体を目掛けて突きを繰り出す。


 彼女は(げき)(つらぬ)く前に身を(よじ)り、軽やかな動きで横へ飛び、フェイヴァはその後を追って距離を詰めた。


 二対の槍を操って攻め込み——槍と鎌、リーチのある武器同士の攻防が繰り広げられた。






 打ち合う中で、ヌンが(いぶか)し気に首を(かし)げる。



「……奪えない、何で?」



 【死神】の力が(およ)ばなくて不思議なのだろう。


 使徒同士でも、全員がその神秘(アルカナ)の力を完全に把握している訳ではなく、表立った行動をしてこなかったフェイヴァの力を、彼女が知らないのも無理はない。

 

 神秘(アルカナ)によってある程度、発現する力の方向性は決まっているものの、必ずしも先代と同じ能力を有しているとも限らないため、尚更だろう。


 【死神】の力を(はば)んでいるのは、【運命】の神秘(アルカナ)が与える力の一つ、循環(じゅんかん)


 身体という器を満たすマナ、神力、生命力——。


 それらをメビウスの輪の(ごと)く巡らせて己の力とし、身体能力を飛躍(ひやく)的に向上させる能力。


 身体へ害をなす魔術や現象の干渉を(こば)む効果——つまりは呪いや毒などを無効化するという特性もあった。


 有用な力だが代償(デメリット)もある。

 マナを外部へ放出できないため、魔術を使う事が出来ないのだ。


 しかし得る力に比べれば利点(メリット)の方が大きい。


 さらに【運命】の神秘(アルカナ)は、もう一つの力をフェイヴァに(さず)けた。


 それは物事の枠を超えて、凌駕(りょうが)する力——超越(ちょうえつ)だ。


 二つの力が相互作用を生み出し、ヌンの力を完全に遮断(しゃだん)した。



「お前の力が、オレに届く事はない」



 フェイヴァは両手の槍を交互に突き出し、攻勢をかけていく。


 ヌンも戦い慣れており上手く(さば)いているが、体格と身体能力には大きな差がある。


 このまま行けば勝つことは難しくないと思えた。

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