表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【過去編開幕】終焉の謳い手〜破壊の騎士と旋律の戦姫  作者: 柚月 ひなた
第一部 第四章 隠された世界の真実

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

114/190

第十九話 もし、叶うのなら

 自分の事を娘の様に想ってくれるルーカスの両親の優しさに触れて——。



「……ありがとうございます、ユリエルさん、公爵様」



 イリアは目頭(めがしら)に熱が込み上げる感覚を覚え、(こぼ)れてしまわないよう、必死に(こら)えながら、告げた。



「ダメよ、イリアお義姉(ねえ)様。そこはお義父(とう)様、お義母(かあ)様って呼んであげないと」

(わたくし)達はいずれ家族になるのですから、今の内から慣れて行きましょう」



 双子の姉妹がレナートの横へ並んで、(うり)二つな可愛らしい陽だまりのような笑顔を見せた。



「〝旋律(せんりつ)戦姫(せんき)〟は今や王都の危機を救った救世主。暗いニュースが続いたし、二人の慶事(けいじ)告示(こくじ)すれば、国中が歓喜(かんき)()くだろうね」

「はい! 国を挙げての盛大なイベントになる事、間違いなしですね」



 馬上から楽しそうな声が降り、双子達から一歩引いた場所に立つリシアが、夜を思わせる黒瑪瑙(オニキス)の瞳を星のように(きら)めかせた。


 彼らは全てを知っているはずなのに、同情の目を向けるどころか、(あん)にこの先も未来は続くのだと語っている。



(ルーカスが優しくて強いのは、愛情深いご両親と家族、ちょっと癖はあるけど思いやりのあるゼノン王子やディーンさんみたいなお友達がいたからだね)



 彼らの温かさに触れて、語られる未来に想いを()せ——。


 イリアの瞳から熱を(はら)んだ(しずく)(あふ)れた。



(——生きたいよ)



 女神様の血を継ぐ一族、【女教皇】の神秘(アルカナ)を宿し、女神様の代理人である〝イルディリア・フィーネ・エスペランド〟。


 女神の使徒(アポストロス)として【太陽】の神秘(アルカナ)(かん)する〝旋律(せんりつ)戦姫(せんき)レーシュ〟。



(どちらも私。使命を()びて生きる、女神様の(しもべ)としての、私。

 ……だけど——)



 使命を果たすため、何事も躊躇(ためら)わなかった頃の自分は、もういない。


 ルーカスと出会って様々な感情を知り、想いを通わせて得た幸福。

 (みんな)と関わる事で積み重ねた大切な思い出が胸中(ここ)にある。


 知らない頃には戻れない。

 だから、強く願わずにはいられなかった。



(……もし、叶うのなら。

 使命なんて忘れて、どちらでもないただの〝イリア・ラディウス〟として生きたいよ。

 ルーカスと、(みんな)と、この先もずっと……)



 ——頬に流れた雫を(すく)う感触があり、思考を浮上させると、ユリエルの指先がイリアの頬へ触れていた。



「イリアちゃん、辛かったらいつでも言うのよ」

「……はい、お義母(かあ)様。心配してくれて、ありがとうございます」



 最悪の事態を考えて気持ちが沈んでしまったけれど、可能性はある。


 悲嘆(ひたん)に暮れる必要はないのだと、気持ちを(ふる)い立たせてイリアは微笑んだ。


 眉尻(まゆじり)を下げたユリエルが釣られたように美麗(びれい)な花を咲かせ、その表情がルーカスと重なる。


 親子なだけあって、笑った顔がそっくりだ。






 その後、斥候(せっこう)に出ていた兵から帝国軍が至近距離に迫った(しら)せが届き、(みんな)は配置へと戻った。


 公爵様がどことなく(さび)しそうに(たたず)んでいて、首を(かし)げると「お義父(とう)様と呼ばれなくて、残念がっているんですよ」とシェリルに耳打ちされた。


 見た目にそぐわず可愛らしい一面を持つ公爵様に、ほっこりした気持ちになる。


 機会を見て「お義父(とう)様」と、呼んであげようとイリアは思った。






 ——(しばら)くして、地平線に敵軍の影が見えて来た。


 雲行きの怪しかった空からは(つい)に、冷たい雨粒が降り始める。



「レーシュ様、こちらを」



 一部始終を静観していたフェイヴァから、教団で使用していた純白の外套(ローブ)が手渡された。

 イリアは「ありがとう」と告げて衣服の上へ羽織(はお)る。



「……大丈夫ですか?」



 彼は振りしきる雨が衣服を()らし、跳ねた黒柿色(ブラウン)癖毛(くせげ)をなだらかにしていく事も気にならないのか、外套(ローブ)羽織(はお)る素振りも見せず、翡翠(ジェダイト)の瞳で見つめて来た。


 薄暗いせいか、赤い瞳孔(どうこう)が開いている。


 相変わらず感情の読めない無表情で言葉数も少ないが、長年の付き合いもあってフェイヴァが考えている事は大体わかる。


 あんな風に人前で涙を見せるなんて以前には考えられなかった事だから、心配してくれたのだろう。


 イリアは頭巾(フード)に銀糸を収めて(かぶ)ると、フェイヴァに向けた視線を前へ戻した。



「大丈夫、覚悟は出来ているもの。後悔のないように、私は歩むだけよ」



 どのような結末を迎える事になろうとも——。


 女神様の意思を継ぎ、私の意志で()って、(すで)に道は選んだ。

 


「そうですか。ならば盾として、役目を果たす(まで)です」



 フェイヴァが淡々(たんたん)と告げ、後ろ背に収納していた二対(につい)の槍を両手に(たずさ)えた。



「——治癒術師(ヒーラー)隊、防壁展開! 魔術師隊は大規模魔術の詠唱準備だ! (はや)るなよ、十分引きつけろ!」



 ゼノンが黒馬を(いなな)かせ、号令と共に剣を空へと(かか)げると、マナの(きら)めきと共に、光の防壁が陣の上空へ展開した。


 魔術師隊は文言を唱え始め、レナートを皮切りに銀の鎧を(まと)獅子(しし)(えが)かれたマントをはためかせた騎士達が、次々に抜剣して接敵に備えた。


 イリアも左腕を(さや)に添え、右手で宝剣を引き抜くと——左腕へ身に着けた、細身の腕輪(ブレスレット)が揺れて金属音を鳴らした。


 柘榴石(ガーネット)のあしらわれた腕輪。

 

 (おく)り主の瞳と同じ色を見て、彼を思い出してしまう。



(……ルーカス)



 彼も今頃、別動隊として奮闘(ふんとう)している事だろう。


 過去の心的外傷(トラウマ)を乗り越え、未来を切り(ひら)くため迷いなく力を行使すると決めたルーカスはやっぱり強い。



(彼に、そして何より自分に恥じないように、私も()すべきことを()そう)



 イリアは宝剣を垂直(すいちょく)に、持ち手を両手で握り締めると胸の位置に上げ、(ひたい)を銀の剣身に寄せて精神を()()ませた。



(願わくば、この身に宿る力と歌が脅威(きょうい)を打ち払い、世界中の誰もが笑って過ごせる未来を、(つむ)がん事を——)






 開戦の(とき)、戦場には美しき旋律(せんりつ)が響き、アディシェス帝国軍は殲滅(せんめつ)の光に飲まれた。


 そうして優位に立った王国軍は、敵軍ど真ん中へ食い込んだルーカス(ひき)いる特務部隊に迫る勢いで、戦線を押し上げて行った。

 「面白い!」「続きが読みたい!」など思えましたら、ブックマーク・評価をお願い致します。

 応援をモチベーションに繋げて頑張ります。

 是非、よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ