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首の域  作者: しめさば
7/9

6

 学生と隣り合って、ベンチに座り直す。

「この赤い(ネック)をどこで手に入れた?」

 桜木が掌を開いて見せた。

 皮膚片にまみれた、赤いチップ。

 ずいぶん年季が入っている。

 メイは目を細めて、それをまじまじと見る。

「なんですか、それ」

 眉間に皺を寄せて言った。

「知りません」

 桜木はそれをポケットにしまった。


「君はどこから来たの?」

「どこから?」

 メイは首を捻っている。

「さあ、わかりません」

 桜木は頭を抱えた。


「彼女の言っていることは本当?」

『わかりません』

 蒼月が答えた。


「ここに来る前のことを覚えている?」

 桜木の問いかけに、メイは胡乱な様子だったが答えた。

「覚えているのは、ビル」

「ビル?」

「屋上で、誰かと話してた」

「それが最後の記憶?」

「そう」

 そう言いながらメイは息を呑む。

「彼は(ネック)を……」

「彼?」

 桜木が繰り返す。

「赤い(ネック)の彼……」

 言いながら、メイは白昼夢を見ているように笑顔になった。


 そこへ、見慣れた男が通りかかった。

「どうした?」

 男は人事部長だった。

 桜木より15分ほど遅い出社だった。

「その方は?」

 部長は一応、敬語を使った。

 いくら身なりが目下でも、どっかの令嬢かもしれないからだ。

「おはようございます。こちらは……」

 桜木が、なんと紹介しようか考えながら立ち上がった瞬間、事件は起こった。


 学生が、奇声をあげて部長に飛びかかった。

 桜木は、一拍置いて、部長と学生の輪郭が重なるのを認めた。

 次に目に飛び込んできたのは、赤だった。

 床にタララと連続した赤い円が描かれた。

 学生の手にはカッターが握られてた。

 男の低い唸り声が、じりじりとロビーに鳴っている。


 奇声。

 笑い声。

 止まっていた時間がまた動き出した。

 学生が腕を振り上げる。

 次の瞬間ーー。


 学生はいきなり弾き飛ばされ、床に転げ回った。

 そのとき、黄色い液体が散らばった。

 濡れた雑巾が叩きつけられたような音がして、奇声が一瞬にして消え去り、場は静まり返る。


 部長の腕が、べったりと黄色く汚れていた。


 二人組の警官が、おもむろに入ってきて、状況を目視する。

 こめかみに手をやり、応援を呼んだ。


 今度こそサイレンを鳴らした車両が、複数台集まってきた。

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