5
「リジェクトの操作方法は?」
『力ずくで』
「そんな馬鹿な」
桜木は暴れる学生を押さえつける。
皮膚の下に硬いものを認めると、意を決して爪を立て、その部分を抉った。
桜木の手の中が赤く光る。
鮮血ーー。
のように見えたが、そうではない。
出血はなく、それは赤いチップだった。
茜7号、金崎桐人の首。
学生が途端に静かになって、周囲の注目がにわかに増した。
擬似皮膚の抉れた部分が、血は出ていないが痛々しい。
「落ち着いて、大丈夫ですか?」
桜木が問いかける。
しかし、学生は首を傾げている。
「ササザキさん?」
「……」
何か話そうとしているが、言葉が出ない様子だった。
首がなければ、話もできないか。
警備員が、背後から近づいてくる。
「おさまりましたか?」
手元を見られないように体で遮りながら、桜木は素早く、学生の首に新たなチップを装着した。
「蒼月、彼女の自律をサポート」
『はい、通信を試みます』
桜木は振り返り警備員に言った。
「念のため警察に連絡をお願いします」
警備員は頷き、こめかみに手を当てた。
「私は罪に問われる?」
桜木は蒼月に尋ねた。
『複数人の記憶データを開示すれば、正当防衛が立証されます。私の助言のログも役立つでしょう。彼女の首から発信された電波の異常値も記録しています』
桜木は自分のうなじに触れる。
チップは剥き出しではなく、擬似皮膚に覆われている。
自分の意思でなければ、特殊工具がないと自由に取り出せない。
この皮膚カバーは、施工屋でいくらか金を払って取り付けられるオプションだった。
安くはなかった。
破壊した手前、弁償しなければいけないかもしれない。
あんなに騒いでいた不審者は、キョロキョロと周囲を見回している。
「ここはどこですか?」
学生のうなじには、青いチップが輝いている。
白い文字で「3」と刻印がされていた。
「あなたが訪ねてきたんですよ、覚えていないんですか?」
それは桜木が、生後3ヶ月の娘のために買った最新型だった。
妻に返品して来いと言われたが、踏ん切りが付かず、今まで隠し持っていたのだ。
学生がそれを首につけたまま、持ち逃げするのだけは阻止しなければならない。
「私が? はて……」
ゆっくりとした動作だが、わざとらしく頭に指を当てている。
「君は、誰?」
桜木が尋ねる。
「メイです」
学生はスイッチが入ったかのように、一瞬だけハキハキと名乗った。