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首の域  作者: しめさば
5/9

4

「飛び込みで採用面接を受けたい?」

 桜木は出社してすぐに、入り口の受付係員に引き留められた。

「正確には、面接のやり直しを求める方がお見えで……」

「そんなの無理に決まっています。お断りして下さい」

「そちらでお待ちなんです」

 係員が指差す方向を見ると、ベンチに座って俯く一人の学生がいた。

「桜木さん、ご対応いただいてもよろしいですか」

「一言、断るだけでしょう……」

 煮え切らないまま、桜木は係員に一瞥をくれ、学生のもとへ歩み寄った。


「お待たせ致しました」

 近づいてみると、女性のようだった。

 短髪でパンツスーツ姿だったため、遠目からは性別が判断できなかった。

「人事採用担当の桜木です」

 桜木は入射角を意識して学生に声をかけた。

「ご足労いただいたところ、誠に申し訳ないのですが」

 ほぼ横並びの斜め前から、桜木が事務的に言いつけているところに、学生が口を開いた。

「アカネ、ササザキアカネです、ここで働きたいです、よろしくお願いします」

 広いロビーが静まり返る。

 若者のキンキン耳に響く声が、冷たいコンクリートに反響した。

「アカネです、ササザキアカネです、ここで、働かせて下さい」

 桜木はその名前と、学生の見た目に、覚えがなかった。

 やり直しと言っていなかったか?

「ササザキさん?」

「はい!ありがとうございます!」

「ありがとうって、まだ何も」

「やめて!触らないで!」

 突然、女学生は叫び始めた。


 騒ぎを聞きつけた警備員が駆け寄る。

 桜木は、驚いて両手をホールドアップしていた。

「私は触れていません」

 困惑する桜木の姿を見て、警備員も困惑する。

「やめて!触らないで!痛い!」

 女学生は、まるで妄想幻覚と戦っているかのようだった。

 ひとりで、何かを振り払う動作をしながら、叫び続けている。


 呆然と立ち尽くす桜木に、蒼月が語りかけた。

『意味がわかりました』

 冷静に続ける。

『彼女は一時的に(ネック)から意識侵入されています』

「はあ?」

『首のチップを強制排除してください』

 桜木は躊躇する。

「それはできない、違法行為だ」

「いやああああああ!」

 絶叫が一層強くなった。


「ふざけるな!殺してやる!死んでやる!」

 女学生の台詞が、暴力的なものに変わった。

『早く、チップの強制排除を』

「お前を殺して、私も死んでやる!」

 誰かを恨んでいるのだろうか。

 怨恨、個人的な恨み。

 憂さ晴らし。

「絶対に許さない!」

『彼女の名前に聞き覚えがあるでしょう』

「いや、私はあの学生を見たことがない」

『名前です、思い出してください』

「名前?」

 蒼月は囁いた。

(アカネ)7号、自死した金崎桐人の(ネック)です』


 桜木は警備員を見る。

 ジャケットのポケットに手を入れて考える。

 そんなことをしたら、私はどうなる。

 面倒なことになった。

「くそ」

 桜木は飛び出して、暴れる学生を抑え込んだ。


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