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聞き取りは一時間ほどで終了した。
ひとまず、人事採用手続きに不備はなかったという見立てに落ち着いた。
我々は、普通の面接を普通に行なっただけ。
我が社に非はない。
非は、すべて彼自身にある、という結論だった。
「金崎桐人という学生は、どのような人物でしたか?」
他意のない質問だったと思う。
総務部長のその発言は、至極フラットな口調だった。
しかし、桜木は困惑してしまった。
「答えたくありません」
その返答はあまりに不自然だったが、その場にいた全員が目を瞑った。
同日、ニュースが一色に染まった。
「首同盟が動いたぞ」
昼休み、オフィスは騒然とした。
会議用の大きなモニターにワイドショーが映し出され、みな箸を止めながら動向を見守っていた。
キャスターは告げる。
「世界電子頭脳同盟、通称首同盟は、全国自尽解放組合が自殺志願者から所有権を放棄させた補助頭脳の存在について、情報公開を求めるとともに、遺族への返還もしくは同盟への寄贈を求めるという内容の訴えを、ネットワーク上に公表しました」
時折りネットワーク上に声明を発表し、社会に対し要求を突きつけ、叶えられなければ社会システムの停止を図る団体が首同盟である。
「幽霊テロ集団が」
部長が自席で悪態をついている。
構成員は首と見られている。
マザーコンピュータのような首謀AIがいるという説と、一般市民が使用している補助頭脳の一つ一つが裏で繋がり、巨大な組織を形成しているという説が存在するが、どちらも陰謀論じみている。
未だ証拠がないこと、人類に致命的な害をなすような要求がなされていないこと、そして、首がいなくなる方がよっぽど人間社会にとって害悪だとの理由から、真相は曖昧なまま、捨て置かれている。
「知っていたか?」
桜木は蒼月に問う。
「いいえ」
蒼月は短く答えた。
自尽組合を相手にデモを起こした。
同盟は、自尽組合が要求に応じなければ、即座に社会システムを停止するだろう。
交通機関や金融システムはすべて凍結し、政治的意思決定ですら、電子頭脳が担う部分は強制的にストライキを起こす。
「彼らも、仲間を救いたいのでしょうか」
同胞が不当に搾取されている。
その現状を、彼らは憂いているのだろうか。
「彼らとは誰だ?」
部長は不機嫌そうに桜木を睨んだ。