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翌日、リスク管理委員会から招集を受けた。
何をやらかしてしまったかと、桜木は肝を冷やしながら会議室へ入った。
人事部長と課長、総務部長、リスク管理の担当二名と、桜木の計六名が、狭い会議室に鮨詰めになった。
デスクに一枚の電子データが置かれている。
新聞の「お悔やみ」欄のキャプチャ画像であった。
日付けは三日前、桜木が新型の蒼月を購入した翌日のものだった。
「お集まりいただきありがとうございます」
リスク管理担当者が全員の顔を見回したあと、画像を示して、一部分を指で拡大した。
お悔やみの隣に「自尽報」とある。
それは、尊厳死を選ぶ権利を担保する法律に基づき組織された非公務員型の特殊法人「全国自尽解放組合」が幇助した自死者氏名を掲載している欄である。
羅列された名前の一つにクロースアップする。
「ここに記載のある金崎桐人という人物は、四日前、我が社の採用面接に訪れていました」
名前を聞いて、桜木は吐き気を催した。
「自尽組合への申請時刻は、我が社で面接を受けた直後のようです」
担当者が交互に説明する。
「我々の行った採用面接に、過度な圧迫、尊厳を踏みにじるような失言等、不適切な対応が無かったかを内部検証し、杞憂かもしれませんが、今後入るかもしれない外部の調査に、いち早く備えたいと思います」
桜木が顔をあげると、部長がこちらを睨んでいた。
『部長より通信です』
「何も後ろ暗いところはないのだ、堂々としていろ」
桜木の脳内で、部長の声が響く。
桜木は、ただ茫然と、紙面にある彼の名前を、頭のなかで繰り返し読み上げることしかできなかった。