81、何の意味があるだろう
「陛下。私はもうこの仕事から降りたいです」
ヴァイスは、ミリネがエアに殺されたことを皇帝ブランに報告したあと、そう言った。
「うん」
ブランは、ただ頷いて、ヴァイスの目をじっと見つめるばかりだった。ヴァイスは、目を合わせることができず、ただおどおどとした態度で、その場にいることしかできなかった。
「代わりのものを送る、ということでいいかな」
「それも、私は嫌です」
おそらくヴァイスは、生まれて初めて、自分自身の仕事ではなく、他の眷属の仕事について、皇帝に意見をした。
「私以外の子がこの仕事に就けば……その心も体も、無事では済まないでしょうから」
ブランは少し考えるそぶりを見せた後、冷たい表情で口を開いた。
「私も、今回ばっかりはどうすればいいかわからないでいる」
「エアを封印して、それで終わりにすればいいじゃないですか」
ヴァイスは投げやりにそう言った。
「もしそうしたなら、ヴァイス、あなたはこの先、幸せに生きていける?」
ヴァイスは、驚いたような表情をしたあと、ブランの方をちらっと見た。また顔をそらして、少しだけ目に溜まった涙を拭った。
「もしそうするなら、私は死ぬつもりです」
ブランは、表情を変えず、ただ黙ったまま頷いた。
「引き続き、調査と報告を頼むよ、ヴァイス」
「かしこまりました」
この先、どんな顔をして生きていけばいいのだろうとヴァイスは思っていた。仕事はちゃんとこなした。自分が望んでいたような生活はほとんどできなかったけれど、帝国とは異なるこの大陸の空気は好きで、そこで生きる人々のことも、好ましく思っていた。
残酷な現実があること自体は、別に構わなかった。残念に思うだけで終わりだからだ。友達が死ぬのも、仕方のないことだと思う。人はいつか死ぬから。
しかし、自分には何もできないという現実と、それでいて、自分の役割だけはこなし続けているという、自分のある種の冷たさを感じ続けるのは、あまりに苦しい。自分が自分でなくなっていくような感覚と、自分が自分に戻っていく感覚が、あまりにも高い頻度で交互にやってきて、その移り変わりのたびに、自らの魂のようなものが傷ついていくのを感じる。
役割の自分と、自分らしい自分が、互いに憎み合っていくような、互いに、それぞれが、それ自身のことを憎んでしまうような、世界そのものが、自分にとって無価値になっていくような、そんな感覚を、ヴァイスは断続的に感じていた。
そしてヴァイスは、自分の母体である皇帝ブランもまた、自分が抱いているのと同じ感覚を抱えて生きており、それでいて自分とは異なり、自らの役割を永遠に全うする覚悟を持っていることに、あの目を見て気づいてしまった。
「帝国のために、人々の幸せのために、か」
それに何の意味があるだろう、とヴァイスは思った。その中では、エアも、陛下も、自分も、幸せに生きてはいけないのに。