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6、ハードモード

 カタリナは悔やんでいた。

 中央大陸に来たことにではない。見通しが甘くて、準備が十分でなかったことに対してだ。

 いやもちろん、彼女が苛立っているのはそのことについてだけではない。

 中央大陸についてから、彼女の身に起こった出来事は不愉快で不都合なことばかりで、しかもそれは偶然というより、彼女自身の性格に由来するものだった。

「そうねぇ。東の大陸の方はその辺しっかりしてるもんね」

 ミナッツォ行きの馬車に合い乗りしている年配の女性は、カタリナの話を親身になって聞いてくれている。カタリナは、目の前の女性が何とも思わず当たり前のように乗っている馬車の揺れがとても気になって、自分がどこまで話したかわからなくなっていた。ふっと目をつぶって、中央大陸に来てから起こったことを自らの中で整理した。


 カタンツァーロの酒場で中央大陸に渡ることを決めてすぐ、ギルドにその旨を報告しに行ったら、なぜか受付のギルド員はノワールからその話を聞いているとのことだった。私は不審に思ったが、あとで聞いたところによるとノワールは転移の術式で先回りしていたとのこと。私は転移の術式の仕組みをどれだけ勉強してもなんとなくしか理解できなかったし、それに必要な魔力の操作技術も十分でないので、それについてまた別の意味でのいら立ちを覚えたのだった。

 ともあれ、転移魔法を扱えない私は、歩いたり飛んだりして魔力を消費しながら移動して、夜になったら野宿する、というような生活をあまり好んでいなかったので、いつも通り旅用の馬車に運賃を払って、ユーリア大陸西端の港町、レギオンに向かった。

 レギオンについてすぐ、その街のギルドの拠点を訪れて、最低限の義理は果たした。いつかまた戻ってきたときにはギルドに中央大陸で得た情報をすべて提供することも約束して、その代わりに船の手配をしてもらった。船は簡素なもので、定員30名程度の帆船に、20名ほどが乗船していた。操舵手などを含めて、皆どこか落ち着いていて品のある者で、お互いの事情を深く詮索することもなく、暇つぶしにカードで遊ぶ程度に交流し、何事もなく半日で中央大陸東端のメッセナに到着した。


 問題はそこからだった。中央大陸についてすぐ、私はそこでよく用いられる通貨に、魔石とギルド紙幣を両替したのだが、そこでひと悶着あった。明らかにぼったくろうとしてきたのだ。それで、別の両替商に頼もうとしたのだが、結局は手数料を取られたうえに、別の両替商もこちらの足元を見てきて、最初のやつよりはマシだったが、ずいぶん不利な取引をさせられた。

 そのご、私は通行管理局に訪れて通行証を取りに行った。

 今、中央大陸の東側を支配しているのは、この港町メッセナだった。ギルドの支配地域とは異なり、中央大陸では王国や公国といったなじみのある国家は存在せず、都市同士が互いに独立し、時々支配階級の者同士が集まっては税などについて取り決めているそうだった。

 ギルドの支配地域では、辺境以外の都市や街にはほとんど城壁は存在していなかったが、情勢が不安定で大規模な魔物の群れがあちこちにあらわれる中央大陸では、どの町にも高い城壁がそびえており、その入り口には衛兵が、その城壁と比較的安全な街と街を繋ぐ道を維持するための税を取り立てている。

 だからこそ、通行証さえ手に入れば、税の支払いと身元の保証がすでに済んでいるという証明になり、街の出入りをスムーズにできるようになるとのことだった。


 通行証の取得には二日時間を要した。その間に泊った宿は、質が悪かったが、値段はなぜかとても高かった。食べ物もまずく、一刻も早くメッセナを離れたくて急いでいたのだが、そこで私は衛兵に引き留められた。どうやら、私と同じ船に乗った者の中に、ある犯罪グループに所属している者がいるらしく、私は疑われた上に、ギルドまでそれにかかわっているのではないかという話になってしまったのだ。

 結局問題となっている男は捕まらなかったうえに、この街のギルドの関係者は、とても薄情だった。支配地域でないうえに、あくまで情報収集をするだけの仕事をしている者だから、優秀でなかったのかもしれない。全然私の身元を保証してくれなかったうえに、それどころか私に濡れ衣を着せて自分は厄介ごとから一抜けしようとしたのだ。

 私はひどく疑われたものの、何の証拠もなかったので一応解放された。その際になぜか金を要求されて、払わなければまだ拘束されそうだったので、仕方なく払うことにした。


「でも、その方たちだって、あなたの取り調べでなんの成果も得られなかったのだから、何も払わせずに帰すのは都合が悪かったんじゃないかしら」

 のほほんとした、少し太った中年女性は話を途中で遮ってそう意見した。

「それは向こうが勝手に勘違いしたからなので、自業自得だと思いますけど」

「ユーリア大陸からこっちに渡ってきた元冒険者といういで立ちは怪しすぎるわよ。それなら、怪しまれないようにしなくちゃ。すぐお金を払ったり、ね」

「……賄賂ってことですか」

「時と場合によっては、仲良くした方がいいっていうこと」

 カタリナはため息をついて馬車の外を眺めたが、森の中を通る道だったので、木の幹と草しか見えなかった。

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