53、善悪の彼岸の盟主 ザルスシュトラの演説
次に壇上に上がったのは、背の高い痩せた男だった。服装は普段とは異なり、清潔な青い法衣を身にまとっていた。これは、学園の理事が正式な場で身にまとう服装で、ノロイの普段着と同じデザインのものである。
「やぁみなさん。中央大陸に突如現れた怪しげな武装グループ『善悪の彼岸』の盟主、ザルスシュトラです。ま、あんま堅苦しくしゃべっても仕方がないから、けっこう軽い口調で話すけど、気にしないでね。
なんでお前がって顔してる人が――主に講師の方々が――いらっしゃるみたいなんで、先にその説明をしようかな。
まぁ端的に言えばね、学園のお偉いさん方に、頼まれちゃったんだよ。いくつかの交換条件と引き換えにね。まぁ悪い話じゃなかったから、何話せばいいのかわかんないけど、ノリで引き受けちゃったってわけ。ほら、隅の方に、えらそうな人たちいるでしょ? 今ちょっと苦笑いしてる人たち。みんな振り返ってみてもいいよ。あの人たちに、頼まれたってわけ。
さて、悪ふざけはこれくらいにして、少し真面目な話をしようかな。私が盟主を務めている善悪の彼岸は、今m中央大陸の西側の都市でとても強い影響力を有している。さらに、最近だとシラクサの復興など、大きな計画に着手し、成功をおさめている。
私たちは、国家や都市といったこれまでの共同体の枠組みとは異なる、もっと大きくて縛りの緩い結社的な共同体を作り上げている最中だ。
君たち魔術師は、研究を行う際、魔術師たちだけでなく、魔術師でないもっと多くの人の協力を得なければならない場合がある。そうしたとき、これまで君たちは、国家や都市と取引してきた。しかし今、ここ中央大陸において、国家や都市の力が弱まり、個人の力が強まっている。そこで、多くの異なる地域、種類、文化を持つ人々を、経済的、思想的なネットワークでつなぐことのできる善悪の彼岸は、君たちにとって極めて有益な組織になりうるということなのだ。
私たちは、興味深い魔術の研究に対しては積極的に投資するし、人員だって派遣する。そういったことを可能とする、時間と金を持っている。君たち魔術師は、そういった俗的なものを軽蔑する傾向にあるが、それは、そのままでいてほしいと思う。だが同時に、そういった俗的な事柄、つまり、労働や、経済、政治、福祉など、そういった魔術師以外の人間の努力の成果によって、君たちはご機嫌に魔術を研究できるということを忘れないでほしいし、それが必要になったときに、どのような組織が君たちの役に立つのかも、知っておいてほしい。
私たち善悪の彼岸は、君たち魔術師の卵に好意を抱くし、全面的に支援するつもりだ。
こんなものでいいかな。うん。理事の皆さまもうなずいてくださっていることだし、これくらいで失礼するよ。あでゅー」
拍手は、学長に対するのより少し多かった。
エアはふざけて、彼の背中に向けて「よっザルスシュトラ!」と叫んで、また悪目立ちしていた。