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50、食事会にて

 決闘を見に来ていた生徒たちを、手当たり次第エアは誘いはじめ、最終的には二十名ほどが参加する大きな食事会をすることになった。


 会場では、エアはほとんどずっとルティアの隣にいて、ふたりで話をしていた。

 エアがそうしていた理由は、単にエア自身、ルティアに興味を持ったというのがひとつで、もうひとつは、エアの性格的な特徴として、困っている人や、悩んでいる人、傷ついている人のそばにいて、彼らの心を癒すことに心地よさを感じるというのもあった。

「そっか。それじゃあ決闘は初めてだったんだね」

「うん」

 ルティアは、質問攻めをしてくるエアの目を見ることができなかった。何度かちらっと見たが、エアの目はらんらんと楽し気に輝いており、目が合うと、彼女はにこっとかわいらしい笑みを浮かべる。ルティアは、そのたびに胸が締め付けられるほど痛い思いをした。

「でも、なんで決闘することになったの?」

 本当はただ、兄であるレスフィスのせいであったが、そんな風に人のせいにするのは、かっこ悪いとルティアは思った。だから、自分がこの学園に来た理由を語ることにした。

「自分を変えたくて」

「どういうこと?」

「ケイロス家は魔術の名門だけど、俺は体内循環魔力量が少なくて、それで、いつも出来損ないだと思われてきたし、自分でもそう思ってた。そういうのが嫌で」

 ルティアの魔力量が少ないことは、繊細な魔力的感受性を有しているエアにも感じることができた。

 カタリナやイグニス、ノロイといった高位魔術師たちは、常人を何十人集めても足りないような魔力を体内に維持することができ、それをいつでも放出することができる。体内循環魔力量は、魔法を使う上でかなり重要な要素だということは、エア自身もよくわかっていた。

 エア自身の魔力量は、エクソシアに触れて以来飛躍的に増大したが、それ以前は平均的か、それより少し多いくらいだった。

 ルティアは、以前のエアの半分にも満たないほどに、少なかった。だから、安易に共感することは、エアにはできなかった。ルティアの苦しみは、ルティア自身にしかきっとわからない。

「ティア君はすごいな。そうやって、不利な部分があっても、ちゃんと勉強して、努力してきたから、あの子……イリーナちゃんだっけ? あの子といい勝負できたんだもんね」

「まぁ、それは……そうかもしれない」

 ルティアは、エアに褒められてほほを赤く染める。エア自身は、ルティアを褒めたり、慰めたりしているという自覚はなく、ただ自分が楽しいように話しているだけだった。

「あの、相手の魔法を利用して攻撃する、みたいなのもあらかじめ考えていたの?」

「ううん。とっさに、自分の攻撃じゃイリーナを倒すことができないから、イリーナ自身の攻撃を当てれば、もしかしたらって思ったんだ」

「ほえー。はじめての戦いで、思いついたことそのまま試せるのはすごいな。リナちゃんはどう思った?」

 隣で酒をちびちび飲んでいたカタリナは、首をかしげて、ルティアの方を見る。ルティアは、カタリナとは普通に目を合わせることができた。ルティアは、ほっと落ち着いた。

「君、ほんとに魔力量少ないよね。なんで戦技科に入ろうと思ったの?」

 カタリナの言葉には、敵意はなかったが、まったく気遣いが感じられなかった。カタリナは酔うと、言葉選びが少し雑になる。カタリナ自身、それを自覚していたが、大して問題にはならないだろうと考えていた。

「リナちゃん……」

 エアは残念そうな顔でリナを見つめている。カタリナは、咳払いをして、言い直す。

「魔力量が少なくても、魔術師として問題なくやっていける分野はあると思う。でも、なんでわざわざ、魔力量のごり押しになりやすい戦闘っていう分野を選んだのかなって」

「さっきも言ったけど、自分を変えたかったんだ」

「精神的な部分で?」

「すぐ誰かに甘えて、すぐ何かを諦める自分はもう嫌だったんだ」

「よくわかんないな。君、そういうタイプじゃないと思うけど」

 カタリナは、生まれつき魔術の才能があり、その努力もほとんど苦にならないようなストイックな気質を持った人間だった。それゆえ、無能な人への同情の仕方がわからなかったし、その必要もないと思っていた。

 カタリナには、ルティアの言葉の意味のほとんどはよくわからなかった。

 エアも、ルティアがなぜそれほどまでに自分の劣等感というものを大きく捉えているのか理解はできなかった。でも、彼が、衆人環視のもと、不利な決闘を挑んで、善戦したという事実と、彼がここに来た覚悟のことを考えると、彼が頑張ってきたということだけは、はっきりとわかるような気がしていた。

「リナちゃんは多分、ティア君が、自立してて、粘り強い人間に見えるって言いたいんだと思う。きっと男の子と話慣れてないから、照れてるんだよ」

 カタリナは、反論しようと思ったが、めんどくさくなったのでやめた。

「その、俺は、ずっと家族や友達からダメなやつだって思われてて……」

「ティア君はダメなやつなんかじゃないよ!」

「そうかな?」

「そうだよ」

 またチラっとエアの方を見ると、彼女は力強い目で、真剣にルティアを見つめていた。ルティアはまた、心臓が飛び出しそうになって、目を背けた。

「その、エアさん」

「エアでいいよ」

「じゃあ、エア。君は、どうしてこの学園に?」

「私たちはね、エクソ……」

「エア」

 エクソシアという魔王を討伐するために、とエアは言おうとしたが、カタリナに咎められる。

「その、強くなりたくて」

「強く?」

「うん。悪いやつに負けないくらい、強くならなくちゃって思ったから、私と、リナちゃんと、イスちゃ……あれ? ヴァイスいなくない?」

「ヴァイスは酔っぱらって外に出ていった」

「えー」

 エアは、酒は飲まなかった。最初は飲んでみようと思ったが、匂いを嗅いだだけでもうダメだった。

「ともあれ、ティア君。これからよろしくね」

「うん」

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