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46、ルティア・ケイロス

「ルティ君、ほんとに行くの?」

 彼を呼び止めるのは、背の低いおっとりとした顔つきの女性。振り返ったルティアは、うんざりしたような顔で彼女の最も年の近い姉に、乱暴な口調で返す。

「もう決まったことなんだよ!」

「でも、ルティ君は……」

 ルティアは苛立っていた。

 昨日も一昨日も、姉のアイルは、魔法学園都市ウスティカに入学することがいかに無謀で間違ったことかルティアに説得しようとしていた。

「うるさいな!」

 ルティアは、なぜそこまで姉が自分を止めるのかわからなかった。ルティアには三人の姉と、二人の兄がいたが、ルティアにそこまで構うのは二つ年上のアイルだけだった。

「私、ルティ君に傷ついてほしくなくて」

 アイルがルティアの入学に反対する理由は、ふたつあった。ひとつは、心配だったから。もうひとつは、寂しかったから。

 逆にルティアの方は、アイルにうんざりしていた。彼は生まれつき魔力の保有量が少なく、姉であるルティアもまた、同じように肉体が優れていなかった。ケイロス家は代々魔術師の家系で、二人以外の家族は皆順調に自分の道を歩んでいる。

 長男はパレルモの都市防衛局の重要なポストについており、次男は善悪の彼岸という新興の武装グループの幹部として活動している。長女は東の大都市ターニアの商家に嫁ぎ、次女アリシアはルティアが行こうとしている魔法都市ウスティカにある学園の准教授を務めている。

 ルティアは子供のころからずっと、才能が乏しく、期待されることよりも、馬鹿にされることが多かった。兄たちは自分など眼中になく、次女のアリシアと三女のアイルは自分をかわいがってくれたものの、アイルのそれは「自分より弱い者がいる現状を維持したい」という本能によるものであった。

 事実、アイルは、ルティアが一緒にいる限りにおいて、魔術的な才能のないかわいそうな三女ではなく、不出来な弟の面倒を見るけなげな姉として自分を認識することができた。

 ルティアは、意識こそしていなかったが、数年前からアイルのことを好ましく思わなくなっていた。パレルモの魔術学校にふたりは通っていたが、ルティアの方は実技の方はてんでダメだったが、筆記の方の成績はよかった。アイルは、どちらもダメだった。

 ルティアは、自分には魔術の才能がないわけではないのだと思っていた。事実、次女のアリシアはルティアが中等学校の成績と、簡単な魔法の行使を見て、魔法学園に来ることを勧めてくれた。

「あのねルティア。たとえ体内循環魔力量が少なくても、それをカバーするような方法はたくさんあるし、並み程度の魔力量でも、不老の術式を完成させられた人だっているんだ。ルティアは物覚えがいいし、概念理解力も高い。何よりも、魔力に対する繊細な感覚を持っている。自分の人生を、諦めないでほしい」

 次女であるアリシアは、何事もまっすぐにものをいう人間だった。だからこそ、ルティアはその言葉を信じて、入学の準備を整えていた。

 入る学科は、アリシアが准教授を務めている戦闘技術科にすることに決めていた。戦闘はおそらく、もっとも体内循環魔力量の影響を大きく受ける分野であり、本来であれば最初に選択肢から外すべき学科である。さらに、戦闘技術科はとびぬけて実践主義であり、実力主義でもある。そのポストも、研究成果などの実績によってではなく、単純な強さによって選ばれている部分も多い。

 事実、次女アリシアの魔力量は並外れており、それゆえに彼女は異例の速さで出世することができたのだ。


「自分を変える。これまでの、親やアイルに甘えてきた自分を捨てて、魔術の名門ケイロス家に恥じない人間として生きる」

 ルティアは、その意気で、魔法学園都市ウスティカに乗り込んでいったのだった。

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