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45、アルブム・リコン

 ヴァイスは帝国で一通りの教育を受けてはいるが、魔法についてはあまり詳しくなかった。

 学問全般にほとんど興味がなく、他者から影響を受けやすい性格でもないヴァイスは、多分学園生活はつまらないものになるだろうと考えていた。

 とはいえ、色々な種類の人たちと関わりながら生活するのは好きだったし、何より仕事が楽だ。ただ学園で起こったことを皇帝か、皇帝の遣わしてきた別の眷属に定期的に報告するだけでよい。


「それにしても、この街の飴はおいしいですね」

 今日は、カタリナとふたりで商店街を食べ歩いていた。

「だね。帝国のものと比べても遜色ないの?」

「そうですね。遜色ないと思います」

 ふたりはこぶし大ほどもある巨大なりんご飴を舐めながら、世間話に花を咲かせている。

 そんな時、正面から変な二人組が迫ってくる。魔法都市では、様々な格好をしている人たちがいるため、そうとうおかしな姿をしていないかぎり、目立つようなことはない。しかしそのふたりは、珍しい白髪であるだけでなく、身長差がきわめて大きい上に、ぎゃーぎゃーわめき合っていたのだ。

「リコン! だからここは魔王に支配されているのだと言っておろう! 我々が退治しなくては、我らが帝国、ひいては、最愛の主、唯一帝ブラン陛下に危害が加わるであろう!」

「アルブム様。皇帝陛下は我々に、あくまで調査と連絡の任務をお任せになられました。たとえこの都市が魔王に支配されていたとしても、剣を抜くのではなく、まずは報告からだと申しております」

「しかし、ここを離れて帝国に戻るとなると、どれほど時間がかかるかわかるまい」

「だからそれは……あ、ヴァイスさん!」

「アルブム、リコン……どうしてここに?」

「おお! わが部下、ヴァイスではあるまいか! 久しいな!」

 アルブムと呼ばれた長身の白竜人は、嬉しそうにヴァイスの肩をばしばしと叩く。ヴァイスは嫌そうな表情で顔をそむけた。

「ねぇ、このふたりも眷属なの?」

 隣のカタリナが、ヴァイスに問う。ヴァイスは、少し恥ずかしそうに顔を赤らめながら、こくりとうなずいた。

「私今、特別任務についてて、ふたりに構っている暇はないんですよ」

「何? 特別任務だと? 奇遇だなヴァイス。私も特別な指令を陛下より直々に仰せ仕ったところだ」

「どんな?」

「ここ、魔法都市ウスティカで……すまぬ。リコン、任務を忘れてしまった」

「アルブム様。私どもは、皇帝陛下から、このヴァイスの指示に従うよう命ぜられています」

 そう言ったあと、リコンがヴァイスの耳元に近づいて、アルブムには聞こえないように囁いた。

「他の眷属の子がアルブムに、ヴァイスが中央大陸で魔王討伐の任務をしていると話しちゃったらしくて、いつもの妄想で勝手に来ちゃったんですよね」

 ヴァイスはため息をつきながら、もっとも重要なことを問う。

「陛下はなんと?」

「アルブムの好きにさせろと」

「マジですかそれ……」

 カタリナは相変わらず飴をおいしそうに舐めていると、ふとアルブムと目が合った。

「ところで、君は何者だ? ヴァイスの従者か?」

「ん? あー。ヴァイスの……友達かな?」

「ですね。こちら、カタリナさんです。進蝕の二つ名を持っていて、腐蝕属性と得意とする高位魔術師です」

「ふむ。ではカタリナ殿も、魔王討伐を?」

「まぁね」

「なら、肩を並べる日も遠くないかもしれないな。その時は、よろしく頼む」

 アルブムは手を差し出してくる。カタリナも、飴を舐めながらという失礼な態度ではあったが、その手をしっかり握った。

「では、またな」

 アルブムはその大きな手をぶんぶん振って去っていった。リコンは、頭をぺこりと下げて、アルブムの隣を歩いて行った。

「ねぇヴァイス。あのふたり何なの?」

「問題児です。私なんかとは比べようもないほどの。アルブムは、脳の病気か何かで頭がすごく悪いうえにすぐ妄想に取り付かれる出来損ないで、リコンの方は、まぁアルブムと比べたらまともなんですけど、魔力障害を持って生まれてきてて、ちびっこで、運動音痴のうえ魔法もダメで、頭も普通なんで、こうなんというか、アルブムの手綱を握ることに自分の役割を見出しているみたいな感じなんです」

「そのさ、眷属って一応皇帝の手足なんでしょ? あんなんでいいの?」

「ダメですね。アルブムの方は処分すべきっていう意見があるくらいですから。まぁでも、あのふたり実は私の同時期に生まれた子で、なんというか……放っておけないんですよね。陛下もけっこう大目に見ているというか。そういう子が少しくらいいてもいいかなぁって」

「でもあんな大声で皇帝がどうとか魔王がどうとか言って大丈夫なの?」

「狂人の言うことなんて誰も信じないでしょう?」

「まぁそれもそうか」

 話が止まったとき、後ろからアルブムが走ってきて、二人は振り向く。

「おぬしら、聞いたか!」

「え? なんですか?」

 アルブムは、商店街の先に見える森の方を指さして叫ぶ。

「ルムーブラ森林にて、魔王がしもべ、魔毒龍ボービュリムが潜んでいて、村人を困らせておるそうじゃないか! それなのになぜおぬしらはそうも平然としていられる? 特にヴァイス! 偉大なる皇帝陛下の眷属として恥ずかしくないのか!」

 ヴァイス、首をかしげてリコンの方を見る。リコンは口を隠してぷぷぷと笑いつつ、手を合わせてごめんとヴァイスに謝る仕草をした。

「あの森、土壌の魔力を調整するための人工森林ですよ? 龍とかいるわけないじゃないですか」

「なんと! そういうことだったのかヴァイス。つまり、あの森は悪の魔術師が禁忌に手を染めて人工的に作り出したもので、その中で人造龍を飼い、人々の生活を脅かしているというかの。断じて許せん!」

 そう言ってアルブムは、走り去っていった。取り残されたリコンは、背伸びをしてヴァイスの肩に手を置いた。

「仕事が一つ増えましたね、ヴァイス。陛下に貢献できますよ。よかったですね」

「いやですよ」

「でも私ひとりじゃ、アルブムが他の人に迷惑をかけるのを止められません」

「いーやーでーす!」

「私、エアの様子見てくるから、ふたりともごゆっくり」

 カタリナは、厄介ごとにまきこまれる前に退散することにした。

 結局ヴァイスはアルブムの第二の下僕として、彼女が人に迷惑をかけないよう奔走することになった。

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