37、精神の成長
「ねぇエア」
カタリナは、エアと再会したら話したいと思っていたことがたくさんあった。どれから話せばいいかわからなかったが、最初に口から出てきたのは、ザルスシュトラのことだった。
「エアが眠っている間にさ、ザルスシュトラに言われたんだ。お前は浅くて、薄っぺらで、幼稚な人間だって。だから、エアやザルスシュトラみたいな、複雑で、深い人間に惹かれているんだって。エアは私のことをどう思う?」
エアは首をかしげてカタリナを見つめたあと、にこっとかわいらしく笑った。
「リナちゃんは、ちょっと子供っぽいところがあるけど、そこがいいんだと私は思うな」
ヴァイスは首をかしげて、異を唱えた。
「私、カタリナさんを子供っぽいと思ったことありませんけど」
「イスちゃんもそういうところあるからなぁ」
「そうですか?」
「ねぇエア。じゃああなたにとって、大人らしいっていうのはどういうことなの?」
「よく悩み、考えて、その通りに実行できることだと思う」
「私たちは、そういうふうにはできていない?」
「できてるよ。でも、そういうふうに自分から動くよりも、人に動かしてもらう方が気楽だと思っているんじゃない?」
カタリナもヴァイスも、互いに思い当たるところがあった。
「でもさ、エア。人間の社会っていうのは、自分で自分を決められる人間よりも、誰かに決めてもらう人間の方が多くないと成り立たないんじゃない。少なくとも、現状は、エアのいう子供っぽい大人の方が多いんだから、それを大人っぽい子供っぽいって表現するのは、ちょっと変じゃない?」
「リナちゃん。多分、私やるーくんが言っているのは、成長の話なんだよ。たとえば、同じ種類の木でも、高く高く伸びていく木もあれば、あるところで成長が止まってしまう木もある。高い木は、低い木のことを、子供だと思う。これから大きくなっていくものなのだと思う。だって、私たちは同じ人間なんだから」
「つまりエア。人間はみな、最初は自分で自分を決められなくて、経験や知識を積み重ねていくうちに、成長して、自分で自分を決められるようになっていくって言いたい?」
「そんな簡単なものではないと思うけれどね。木が通常より大きく育つのに必要なのが、どこにでもある日の光と水分と大地の栄養だけではないのと同じように」
カタリナは、エアにどこかザルスシュトラと似ている部分があるのを確かに感じ取った。その比喩の語り方は、ザルスシュトラのそれによく似ていたのだ。
「もちろん、人間は木よりもずっと複雑で難しいもので、私にもわからないことばかりなんだけどね。ただ、私は、そういうふうに感じているんだってだけ」
「私は多分、どれだけ長い時を生きてもエアのように感じられるようにはならないと思う」
「それでいいんだよ、リナちゃん。人はそれぞれ別々の成長をしていくものだから。高く伸びる木もあれば、横に広がる木もある」