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第五章 八十五話

 イブリース一の早馬を使って、俺達はエーギルの炎へ向かう。元首が用意してくれた護衛は十人ほどだ。他にも、別のルートから同じ場所を目指す部隊が五十ほどあるという。

 炎がある場所……クネパスという企業が持つ迎賓館の地下は三つの階層から成り、その様相は要塞とも言えた。

「あるいは牢獄かも知れません。一度彼らの手に落ちれば、生きて外に出ることはかなわないでしょう」

 迎賓館から一番近い町で馬を止めて宿を取る。全員をミチザネの部屋に集めて、部屋の中央にあるテーブルに広げた紙を眺めた。なかなか味のある線で書かれた手書きの見取り図だった。

「おおよそ、こんな構造だったと思います。細かい所が間違っていても御愛嬌ということで。エーギルの炎までの道のりは合っているはずです。これをご覧ください」

 ミチザネの針金のような指が、地図の左下を指して止まった。

「ここがエンジンルームです。炎を動かすにはここへ行くしかない。ゲヘナが用意したマギテックもそこにいると思われます。炎は遠隔操作を受け付けませんからね。この炎はマギテックを器とし、マギテックの精神を触媒とします。そうすることで地上にある微弱なマギを集めるのです。その間、マギテックは身動きできません。意識もありません。しかし、そうなってからでは遅い」

「確かだな?」

「もちろん」

 俺の念押しに、自信に満ちた声でミチザネが答える。

「迎賓館には侵入者を捕える為の衛兵と罠が仕掛けられています。それらについて、一つ一つ説明しましょう。全員分の地図を描く余裕はありませんから、頭の中にしまっておいて、いつでも引き出せるようにしておいてください。別行動を取らざを得ない状況もありえますから」

 迎賓館に着いたのは、二日後の昼だった。炎が安置された地下への隠し通路には、まずイズルだけ行かせて、道中に配置された見張りを気絶させた。その後、全員で彼の後ろをついていく。彼の耳と足は信用に足り、偵察兵として申し訳なかった。

「第一階層は迷路になっています。侵入者をふるいに掛ける為ですね。ループ構造になっています。いずれ侵入者が衛兵とはち合わせるようにするように」

 ミチザネが指摘した通りで、何度も同じ場所を歩かせる為か、曲がり角が多く、今自分がどこを歩いているのか分からなくなる。前へ進んでいるのかどうかさえ見失う。感覚が麻痺して、角を曲がる度にくるくる回るコンパスの針を見ていると気が狂いそうだ。

 途中、何度も遭遇する衛兵を始末しながら先を急ぐ。虫を殺したこともなさそうな顔をしておきながら、リゼルグの剣筋には迷いが無かった。隙のない立ち回りで、岩でできた団子のように屈強な巨体が自慢の衛兵達を捌いていく。その様子を見ていて、ふと気付いた。

「その剣……」

 リゼルグはこちらを振り返って、にこりと笑った。その顔のまま、ゆるりと切っ先をこちらに向ける。

「ええ、レプリカです」

 そう言う通り、刃は研がれていなかった。ということは、リゼルグは剣を振り下ろしたり、薙いだりした時の力で衛兵達を叩きのめしたことになる。衛兵達は鎧や兜を着こんでおり、全身を甲冑で覆っていた。それを、力だけで気絶させたというのか。確かに、鎧の鳩尾部分は、ちょうど刃の形に歪んでいる。

 俺は思わず、半歩後ずさった。

「その剣はハンデというわけですか。自信と実力が無ければ、なかなかできない芸当です」

「臆病なだけだ」

 リゼルグの力量に気づいたミチザネの感想に、イズルが冷たく返す。

「あなたの飛び道具も大概恐ろしいですけどね」

 そう声を掛けると、イズルが面倒くさそうにこちらを振り返った。

「タメ口で構わねえよ」

 それだけ言うと、ぷいと視線を逸らしてイズルはさっさと歩き始めてしまった。

「照れてるんですよ。素直じゃないんだから」

 こそっとリゼルグが俺に耳打ちするのを見て、カタロスも思わず顔をほころばせた。

 ルーシェは意外にも、このメンバーの中で、唯一素手で衛兵に応戦していた。軽装の兵士の相手は彼女に任せることにする。ルーシェは手にグローブをはめ、ロングブーツに覆われた白い足を振り回していた。靴底に鉄でも仕込んでいるのか、ハイキックをくらった衛兵の頭から鈍い音が響く。

「短いスカートを履いてるのに、よくやるな」

 俺の独り言にミチザネが答える。

「スパッツを履いてましたけどね」

「確認するなよ」

「足技に気を取られがちですが、一番やばいのは肘での攻撃ですね」

「肘?」

「人体破壊を目的とした攻撃ですから。彼らは上着の中に防弾チョッキを着ているのか、命拾いをしておますが、素通しでくらったら死ねますよ」

「足での攻撃は囮ってわけか」

「肘と膝にサポーターを仕込んでるんでしょうね。あんな細い体のどこに、そんな筋肉があるんだか」

 ようやく第二階層への階段を見つけて、俺達は我先にと階下に向かって駆け降りた。

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