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第4章 七十六話

 リゼルグは盗賊団の中では、ただの使い走りだった。剣を習っていたというが、実際に人を斬ったことがないのだろう。いざ追っ手を前に刃を抜いても、てんで腰が引けていて、全く使い物にならないと判断されたのだ。

 アジトの掃除、団員全員の服の洗濯、荷物の整理、馬の世話、食事の用意、ナイフの手入れ……。それを終えると、リゼルグの一日は終わっていた。

 いざ盗賊団壊滅を実行に移した時、真っ先に彼を始末できるとイズルは考えていた。一番「チョロい」と思っていたのだ。そして――最も弱いと思っていた者に寝首をかかれることになった。二年後、エペに入団したイズルの前に現れたのは、第一武隊の制服に身を包んだリゼルグだったのである。

 一目見て、イズルはすぐリゼルグのことを思い出した。リゼルグはイズルを見るや、すぐに声を掛けてきた。今までどこに居たのか、どうしていたのか、何故エペに入団したのか……。そんなことを早口でまくし立てる。

 まるでイズルとの再会を喜ぶように。

「結局、盗賊団の中で生き残ったのは俺とリゼルグだけだ。必要最低限の爆弾、完全な不意打ち。アジトの構造や団員達の生活習慣を熟知していて、初めてできる芸当だ。俺がリゼルグなら、あれは俺の仕業だったと真っ先に疑う。でも、あいつはリゼルグは……何も言わなかった。いや、『あの爆発の中、お互い生き残れて良かった』と……そう、それだけ言ってたな」

「自分を殺そうとした男に笑顔を見せるばかりか、同じ部屋で生活して寝顔まで晒すなんて、並みの胆力じゃできませんな」

「今となっては、俺にはあいつを殺す理由がない。口封じ……なんて、する意味が無いし。あんな稼業じゃいつ死んでもおかしくないし、口が裂けても家族に本当のことを伝えている奴なんていなかった。だからみんな、お互いの身内どころか素性も知らない。俺を告発しようにも相手がいないから無意味だ」

「前にも言いましたけど、彼は素直すぎる所がありますが、馬鹿ではありますまい。当然、アジトの爆破があなたによるものである可能性に気づいているでしょう」

「計画が事前にバレいていたとは思えない。しくじった……と考えるべきだが、あいつがどうやって生き延びたのが、全然見当がつかないな。建物の外側から内側へ火が回るように手配したし、直前まで、確かにリゼルグは熟睡していた」

「目を覚ますと部屋は蒸し風呂、煙で肺と目をやられて三十苦……。恐ろしいおそろしい」

「あいつとは同室だった。警戒心なんかまるで感じなかったが、もし隠していたとしたら、大した役者だぜ」

 しかし――。今回も、こっそり部屋を抜け出したつもりだった所を、リゼルグに尾けられていたことが発端だったのだ。

「このまま、彼を連れていくつもりですか?」

「事と次第によっちゃ捨てて行くさ。俺自身で始末するかも知れないが」

「三人全員が、五体満足でイブリースに着くことを祈りましょうか」

「そうだな。今は、まだな……」

 イズルは再び部屋に入って、罠の穴を覗き見た。かびた臭い、淀んだ空気、乾いた風。そこには全く命の気配を感じられなかった。あらゆる生命を失ったまま形を留める、この城そのものを感じさせる。

「まず、また三人で集まれるかどうかも分からないけどな」

「信じましょう。彼と彼女を」

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