貼り紙
少子高齢化の世の中に一石を投じる産婦人科があった。
謳い文句は『充実のアフターサービス』である。
他県から引っ越してきたわたしは、出産を控えた妻とともにこの病院を訪れると、受付から掲示されたポスターでも見て待つように促された。
貼り紙にはこう書いてある。
『当院でお生まれになったお子様へ、優先的な託児所の手配を約束』
妻は胸をなでおろした。
『さらにお子様の勉学のため、学資保険も充実しています』
わたしも安堵した。
「この病院は良さそうだね」
待合室の椅子に妻を座らせると、わたしはもう少しだけ貼り紙を眺めることにした。
『ご学友が不安なお子様のために、お友達紹介サービス始めました』
『また、悩めるお子様と親御様たちへの、厚いお受験&進学・就活サポート』
ここまできて、ふと違和感を覚えたわたしはさらに貼り紙を読み進めた。
字が小さいながらも、まだまだ特典項目は続いているようだ。
『お子様には伴侶が必要です! 当院は婚活サービスも実施』
『子育てからシニアまでを想定したファイナンシャルプランをご提供』
『老後が心配? 大型の特別養護老人ホームも完備』
『葬儀に備えて斎場と火葬場も敷地内に併設』
『一律料金で永代供養も引き受けます。ぜひ当院にお任せください』
『最後に当院でお生まれになった方へは墓石も格安セール』
ひと通り読み終えたタイミングを見計らって、受付の女性が再び我々に声をかけた。
「紹介状の確認ができました。まずは問診票の記入からとなりますが、本日はそのままお子様の葬儀と墓石の予約までなさいますか?」
当然と言えば当然だが、ポスターの特典項目を最初しか読んでいない妻は激怒して病院を飛び出した。
(すこし・ふしぎシリーズ『貼り紙』 おわり)