第5話 やるぜ!
落ち着いたところで早速伏見の改造レクチャー。
まずはコンタクトレンズの怖さをなくそう。やっぱ、家政婦さんになんでもして貰ったから、ビビりになっちゃってんのかなぁ。
「ほら。翼くん。洗面所でコンタクト入れてみよう」
「いやぁ~。やっぱり怖いなぁ」
「だって昨日は入れられたでしょ?」
「あれは、店員さんに無理矢理──」
「大丈夫。私もコンタクトだから」
「え? 聖子さんも?」
「そーだよ。一緒にやろう」
「う、うん」
洗面台に立ち、私は自分のコンタクトレンズのキットを出す。一つずつ外してキットの薬液へと落とす。
「じゃつけてみるから見てて」
「は、はい」
指の上に乗せて、瞳に近づけてぺたりと吸着。こんな簡単なことがなぜ怖いのか?
「す、すごい」
「子どもでもやってるよ。翼くんもやってごらん」
「あの~」
「どうしたの?」
「なんかご褒美ください」
「キミね……」
条件付きかよ。このやろう。自分のためでもあるっつーのに。
「ハァ。なにがいいの?」
「キスっす!」
はー!?
こやつ! なんだぁ!?
顔がニヨニヨと好色だぞ? いや。思い出した。今日は泊まり!
しかも、こやつは彼氏だった!
つーことは、まさかコイツ、やる気!?
だーッ!
しまった! 私は蜘蛛の巣にかかった蝶!
まんまと騙された! 大人しそうな顔して、コイツとはすでに関係済み。ということは、コイツは今日の泊まりに期待してるってことじゃんかぁ!
「あのぉ、翼くん?」
「順番逆ですよね。俺たち、キスまだですもん」
知らねーよ!
そうだったのかよ。コイツ~。
こりゃ今日のレクチャーにいろいろと条件付けてくるかもしれねー!
生意気だぞ! 伏見のクセに。
「翼くん。そういうのは条件にしちゃダメ。キスっていうのは、したくなってするものよ。そういう雰囲気を作るのも男の魅力じゃないかな?」
「──あっ……。スイマセン……」
シュンと反省した顔。
ちょっとキュンとするわ。しかしダメ。
しっかりしろよ。伏見。
「コンタクトレンズ入れる度胸もない人にキスはできないなぁ」
「やるッス」
「ようし。頑張って」
「ッス!」
急に発奮したぞ。やる気出そうと思えばできるんじゃねーか。手はぎこちないけど、コンタクトレンズを入れることに躊躇はない。
伏見は、コンタクトレンズをマスターした!
まるでRPGのレベルアップ。
しかし、まさにそんな感じ。
その、イケメン顔をこちらに向ける。
「どうすか? 聖子さん」
「いいよ。眼鏡の百倍いい」
伏見はそう言い終わらないうちに、私の腰を抱き、後頭部に手を添えて顔を近づけてきた。
「ちょっ! 翼くん!」
「この顔、好きでしょ?」
な、なんてこと?
甘く蕩ける声。不覚。私としたことが。こんなダサ坊にキスされてる。
なのに、抗えない。
「んん──」
伏見のキスに声を出してしまった。やばい。クソ。伏見如きに。伏見如きにィィーーッッ!!
伏見の腕や指先に力が入るのが分かる。いつしか唇に貼り付いていた伏見の唇は頬に、耳に、首筋に──。
「翼くん!」
私は伏見の胸を突き飛ばした。キョトンとしたイケ顔。しかし調子に乗らせてはダメ。
「ダメ。ちゃんとしなさい。次は髪型でしょ? 中途半端だよ。それにコンタクトだって一人でできたわけじゃないのに、自分のお手柄みたいな顔しないで」
「は、はい」
「自信を持つのはいいことだけど、それと欲望を満たすのは違うわ。それは後でちゃんとしましょう」
後で?
なんだそれ。伏見の顔がみるみる笑顔に変わる……。太陽みたいな笑顔に。
「はいッス!」
聞き分けがいい、良い子なんだけどなぁ。やっぱりコイツも男なんだよなぁ。
伏見は私の手を取る。片手にワックスを持って、早く早くとせかすようにリビングのソファに腰を下ろした。
「どのくらいの分量とるか分かんないんスよね。聖子さん、教えて下さい」
「私も男の人のはよく知らないんだよね。髪の分量から言ってこんなもんかな?」
2本の指で、ワックスを適量とり手のひらへと塗りつけ、伏見の髪に手早く塗りつけた。そしてドライヤーで乾燥。少し少なかったか? 髪が倒れる。補強して昨日と同じ姿に。伏見は要領を覚えたようだった。
「なるほどッスね! 自分でもやってみるッス!」
「その意気だよ。じゃシャンプーでワックス落として、自分でやってみな」
「はいッス!」
伏見は立ち上がり、私の手を取る。
「聖子さんも一緒に行こ」
「ちょ。なんで。私は休憩」
「いいから。シャンプーしてよ」
「はぁ? 自分でできるだろ?」
「聖子さんの手の動き、気持ちいいもん」
くぅ~。なんかイケ顔に言われると、腹立つけど立ち上がる自分がいるぅ~。調子のんな伏見。テメェ、コノヤロー!
「ほら。横に立ってシャンプーしてよ。お願い。聖子さァん」
洗面台に顔を埋めて、温水を出しながら伏見は懇願の声を出す。つーか、突き出されたコイツの尻もイケ尻だな。結構好きな筋肉の付き方だわ。
「仕方ないなぁ。ホラ、洗うよ」
ワックス落とすだけだから、ちょいちょい。と思ったら、コイツ全身で私の指を感じるように身を震わせている。
なんなのォー。コイツ、なんか変だよぉ。
さっさとシャンプーを終わらせ、ドライヤーで髪を乾かしてやってる間も、伏見は私の体にベタベタと触っていた。ムカつく。
「自分でやってよね~」
「だって、聖子にやって貰う方がいいもん」
コイツーッ!
呼び捨てにしやがった。ドサクサに紛れて呼び捨てにしやがったぞ、うぉいコラ!
私はドライヤーのスイッチを切って、とっととリビングへ戻った。
「あー。聖子さァん。一緒に行こうよぉ」
ムカつく。考えてみればたった二日しかいないのに、なんかコイツのペースになってきてる。そりゃこの部屋はアンタの部屋だろうけど、昨日まで先輩、先輩言ってたヤツが急展開過ぎるだろ。




