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第4話 やる気出して行こう

次の日、会社。

私の部署。総務部からこっそり営業部に顔を出してみると、伏見に女の子が数人群がっていた。

ふふん。キャーキャー言われてるなと思ったら、近づいてみるとどうやらイジられてる……。


「なにー? 急にイメチェン?」

「なんかバランス悪ぅ~」

「変だよ。変」

「そ、そうかな?」


そんな。伏見は最強イケメンになったはず。そんじょそこらの女の子にイジられるようなレベルではなくなったのに。

もともと見向きもされないキャラクターが、声をかけられただけでも御の字とかそういうこと?

そんなはずは……。


「あ」

「あ。先輩、おはようございます!」


立ち上がって深々とお辞儀をする伏見だが、違う。

コンタクトじゃない。眼鏡。

髪もシャンプーした後、なにもしてないらしく、ワックスもつけてない。前髪も上がっていない。

つまり、伏見にあるのは、いつもの着古したスーツと整えられた眉山と目。色を入れたパーマのかかった髪だけ。


「うぬぬぬぬぬ」

「あ、あれ? 先輩、怒ってます?」


正直ムカついた。彼は昨日の一瞬の光で満足してしまったのだ。これでは数日で目の周りに眉毛が生え、数週間で髪が伸び、数ヶ月で髪の色が抜けて全て元の木阿弥。

自分でやる気を出さなくてはイケ顔など維持できないのだ。


「伏見くん」

「は、はい」


「少し話、いいかしら?」

「は、はい」


おどおど、おどおど。

書いて貰う書類があると上司にウソをついて、休憩室へ。

昨日の輝きが若干残る伏見を前にして話を進めた。


「伏見くん。どうして眼鏡なの?」

「あの……コンタクトは怖くて……」


「髪は? どうして洗って終わり?」

「あの。ワックスの使い方分からなくて……」


もじもじ、おどおど。

これで私の彼氏?

仕事だってしてないだろうし、ふざけんなよな。

もっとしっかりしろよ。


「伏見くん」

「は、はい」


「今までキミを馬鹿にした人たちを見返してやりたいと思わない?」

「あの……でも自分には自信がなくて……」


「そんなことない。昨日の顔を見たでしょ? 今どきのイケメンに簡単になれるのよ? 自信がないのは結果がないだけ。結果は自分で作るのよ。誰も元々結果なんてなかった。それを自分で勝ち取ってきたのよ。伏見くんにだってそれはできるわ」

「あの……でも……」


くー。コノヤロー!

昨日の時間がムダってことか?

そして、吉高係長が新婚旅行から帰ってきたら、私は伏見との関係をバラされてデッドエンド。


そんなことさせない。

伏見にも協力してもらうわよ!


「よし。伏見くん。私が泊まりがけで指導してあげるわ!」

「えッ!!!」


そう。その見開かれた目。カッコいい大きな目をしてるんだから、眼鏡で隠すなっツーの。


「泊まり。先輩が泊まり……」


なーに、真っ赤になっちゃってんだか。

こうなれば徹底的にやるわよ!





一度自分のアパートに帰り、バッグにいろいろ詰め込んで伏見のマンションへ。

伏見は、落ち着かない様子で立ったり座ったりしていた。


「伏見くん。ご飯は?」

「あ、まだでした。それどころじゃなくて……。スイマセン。なにか食べに行きましょうか? それとも出前?」


「うーん。しょうがない。私が作るか」

「え? でも食材とかないですよ?」


「お米ある?」

「少しなら……」


「じゃ炊いてる間になんか買って来るわ」

「えーでも。悪いですよ」


「いーのいーの。この前の朝食のお礼よ」


近くのスーパーへ買い出し。あんなバカ高い2000円の朝食の借りを返しとくわ。一食で2000円もかかんないでしょう。肉とかは残ったら次に使えるし。あのウチ、調味料はあるのかなぁ。まぁカレーでいいか。


マンションに戻ると、ご飯の炊きかけの匂い。


「ああ、炊き上がりそう。まぁカレーだから少し蒸らしといた方が美味しいか」


キッチンに入ってテキパキと調理を始めると、伏見は興味深そうに後ろに立って見ていた。


「なにー? どうしたの? 座ってたら?」

「いやぁ、あのぉ」


「なによ」

「すっごく幸せだなぁ~と思って」


──動きが止まる。

うぉい! どうした、私。

こんなダサ坊にキュンとするなんて私らしくない。


「まぁね。親に仕込まれたし」

「凄いなぁ。教えて下さい。先輩のこと」


「聖子」

「え?」


「二人の時は名前で呼びなよ。聖子って言うんだ。私」

「すっごい。ピッタリですよぉ」


「そうかな? 聖の字にほど遠いと思うけど?」

「そんなことないです。自分にとっては聖なる人ですよ。聖子さんは。聖女です」


「ホントに~? 伏見くんの名前は?」

「あ、翼ッス」


「つばさ! 似合わね~」

「ですよね」


「いや。あの格好なら全然、翼を名乗れると思うよ」

「いや~。あれ難しいッス」


「だ か ら、指導に来たんじゃない。簡単だよ。さぁカレー食べよ」


私たちはカレーを食べながら、いろんな話をした。

家族、趣味、仕事。


「へぇ。お母さんいないの」

「ええ。だから父はお金だけは苦労しないようにって。自分を育てたのはほとんど家政婦さんです」


「フィギュア集めが趣味とか、ピッタリ過ぎて笑える」

「聖子さんだって、消しゴム集めとかって」


「なによぉ。2000個の消しゴム、今度見せてあげようか?」

「自分のフィギュアは見せようにも、ほとんど実家だからなぁ~」


「いいいいや、フィギュアは別に見たくないから」

「ホントすか? みんなカワイイのに」


「きーも。きもてぃわるい~」

「あはははははァ~」


やっぱ、コイツの笑顔いいわ。本気の笑顔。太陽みたいな。

声を揃えてごちそうさま。私が洗い物をしている間に伏見は風呂を沸かしに行った。


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