第3話 レベルMAX
鏡を伏見に向けて彼にも今の顔を見せる。
彼は驚いてポーっとしていた。
「すっげぇ。なんかイケメンっすね」
「なんかじゃないよ。これが伏見くんの本来の顔なの」
「ありがとうございます! 自信が出て来ました。あの……先輩に釣り合いがとれる男になりましたかね?」
「まだ!」
「は、はい!」
次は髪型よね。これは簡単。もう、雷名隼人になって貰えばいいんだから。
「伏見くん。次は美容室行ってみようか」
「美容室ッスか?」
「どうしたのよ。行きつけのところあるの?」
「いやぁ行ったことないんで怖いっす」
「は、はぁ?」
「普段は長くなったら床屋で切ってもらってるんで」
うおーい!
今どきの男だよなー!?
長くなったらって、今でも充分長いよ。似合ってないのに、まだ伸ばすのかよ。
「大丈夫。怖くないわよ。私がついていくから」
「ま、マジッスか。先輩が来てくれるならなんとか……」
このぉー! 弱虫、毛虫! 挟んで捨てろとはキミのことよ!
せっかくいい感じの顔になったんだから、自信持って行こう!
この辺の美容室をマップ検索で調べる。ありました。早速予約してみよう。
「伏見くん」
「はい……」
「ネットで予約したわ。今日の14時でやってもらえるから、その間に服を買って、昼食をとりましょう」
「ま、マジですか」
「なによ。不服?」
「い、いえ」
「なによ。おどおどしちゃって……」
「そ、それってデートだなぁと思って。嬉しいです」
コイツ──。
カワイイやつ。育て甲斐もあるし、若干キュンとしてる自分がいるわ。いやいや、こんなダサダサ眼鏡をつけてる伏見に恋なんてしてられないわ。
眼鏡もやめさせないとね~。
大型ショッピングモールへと移動。ここならメンズの服も売ってるし、コンタクトも買える。一石二鳥よ。
「あの。先輩、まずはどこに?」
「まずはコンタクトレンズに代えよっか」
「げ。コンタクトっすか?」
「いちいちうるさいわね~。黙ってついてきなさいよね~」
「目になんか入れるの怖いっす」
「何言ってんの。男のクセに。女の子の方が大変なんだからね?」
「あ、は、はい。そうですよね」
「物分かりがよくてよろしい」
顔を変身させた伏見をさらにコンタクトによって、イケ度をアップ。
さらに服装よね。
雷名隼人みたいに、爽やか~な感じにすればいいよね。フレッシュな感じに。
伏見は今まで貰った二年間の給料を全然手をつけていないとのことで、数百万あるらしい。マジどんだけ。
それをガッツリ使っていこう。なーに。100万円も使わないわよ~。
店員を呼んで、雷名隼人のファッションを伝えると持ってくるわ、持ってくるわ。
それを組み合わせて試着させると店員も驚いていた。
「いやー。マジで隼人くんそっくりっすね」
「でしょ~? 店員さんもそう思うよね」
「あとは髪型ッスね」
「ふふ。それは今から。抜かりなしよ」
「ところでアクセサリーはどうですか? チョーカーに指輪。これと、これなんて隼人くんみたいだと思いますよ」
「オッケー。それも貰うわ」
伏見にカードで支払って貰う。21万円。すごーい。今着てるもの以外は宅配で贈って貰うことにした。
「こ、これでイケてるッスかね?」
「あとは髪型だよね~。整髪料は? ワックスくらいはある?」
「ワックスってなんすか?」
「コノヤロ……」
原始人に教えるのは大変だ。
しかし着実に階段を登ってる。
あとは本人の意識とかが大きく左右するけどさ……。
14時。美容室に到着。
ダッサい、オタクみたいな長髪をフレッシュ、雷名隼人を目指す。
「隼人くんと頭の形違うんで、お任せで変化つけさせて貰っていいですか?」
「そーなんだ。いいですよ。やっちゃってください」
「カラーリングは?」
「カラーチャートある?」
「もちろんですよ」
「肌の色に合わせて見てみましょう」
余り休日に外に出ないので、色白な伏見には、濃いブラウンの髪色へと決めた。
そして、髪型は短く耳上までにし、パーマをあて、ツーブロックに。
みるみるイケ度が上がる伏見に美容師さんも驚きの声。
「おお~。イケてますよ。お客様」
「ふっふーん。どう? 伏見くん。磨かれたダイヤモンドの気分は」
「さ、最高っす!」
よーし。これで外見は完璧。
明日、会社でキャーキャー言われるわよ。
美容室を出ると、伏見は感動に打ち震えているようだった。
「うわ。なんかすげー。今どきだー」
「そうでしょう。そうでしょう」
「これで……自分、先輩の彼氏……?」
う、うーん。そうか。
吉高係長にもそんなふうに言っちゃったもんね。
でも、ここまで育てたんだから、もっともっといい男になって貰わなくちゃね。
仕事。出世。
う~ん。今までイメージから、どうなんだろ~?