第2話 変身!
吉高係長と聡美の背中を見送ると、笑顔で手を振るお人好しの伏見を睨んだ。
「行くわよ! 朝食!」
「え? あ、はい。じゃ着替えないと」
いそいそとマンションの自室に帰る伏見にイライラ。戻ってきてさらにイライラ。緑のネルシャツにジーンズ。オタクかゾンビの服装につい目を閉じる。
髪型、服装。今日はこれを何とかしないと。
整髪料も何もつけていない中途半端な長い髪。
服装も羽織ればいいってだけ。
眼鏡もなんだそれ。今どき銀縁のダサ眼鏡。それでいいのか?
「朝食って? どこに行くの? つか、パンツにシャツ入れない。ボタンも外してみようと思わない?」
「あ、は、はい。あの、朝食はホテルでいつも食べてるんで」
伏見は私に言われたとおりにシャツを出してボタンを外し、中のTシャツを整えながら言う。まぁ見られる格好になったか。
つかホテルで朝食?
どんだけボンボンなんだよ。
「かー。ホテルで朝食なんて食べたことないわ」
「ホントですか? いつもはどこで?」
「自分で作ったり、コンビニで買ったりかなぁ」
「あ、あの! 先輩の手料理食べたいッス」
はァ──ッ!?
こいつ、急にグイグイ来やがる。調子のんなよな?
「いい。疲れたからホテルで朝食」
「あ、はい。スミマセン……」
「もちろんご馳走してくれるでしょうね」
「あ、はい。それはもう」
ホテルに到着。つか、昨日聡美たちが泊まったのこのホテルじゃね?
そこで朝食か。若干優越感があるけど。
「なに食べます?」
「オススメは?」
「フレンチトーストのセットは?」
「じゃそれ」
おもむろにメニューをとって言われたセットを探す。トーストとコーヒーとスープ、サラダ、ヨーグルトで2000円……。クソ高い! これを毎日?
「伏見くん、親は相当なお金持ちみたいね」
「いやぁ、それほどでも……」
「褒めてないわ。伏見くん。親のお金じゃなくて自分のお金でなんとかしようと思わない? もう自立してるんでしょう? もともとお金があるって凄いと思う。だけどそんなんだから、仕事に身が入らなくて営業成績も上がらないんだと思うわ。営業成績が上がらない。イコール、利益が上がらない。会社にとってマイナスなのよ? 分かってる?」
伏見は口を開けて私の話を聞いていた。そのうちに彼の両眼から大筋の涙がこぼれだした。
うぉい! メンタル弱! これだから若いのはよぉ~。
「ちょっと。泣かないでよね。男でしょ? それにこんなホテルのレストランで泣かれてもさぁ」
人目に悪い。こんな男を改造できるんだろうか?
「嬉しッス!」
「はぁ?」
「自分、産まれて始めてちゃんと叱られました。そして人生の指標を指差して貰ったような気がします。そうですよね。自立しているのに親の金を使うなんて。自分のことは自分でやります。あと、仕事も頑張ります!」
ほぉ~。エラいエラい。育て甲斐があるわ。
改めて顔を見てみる。なんだその中途半端に長い髪わぁ~。
ショボい。LV1のザコ敵な顔してるわ。逆にそうそういないよ? こんなの。
──つかさ。LV1だからこそ伸び代あるのかな。
「伏見くん」
「は、はい。美味しくないですか?」
「ううん。違うの。ちょっと眼鏡取ってみようか?」
「え、あ、はい……。こうっすか?」
ふーん、前髪が邪魔だけど素材は悪くない。
眉毛も太くて濃いからそっちに目を奪われがちだけど、整えればなんとかなりそうね。
「食べたら、もう一度アナタの部屋に戻るわよ」
「ま、マジですか」
超うれしそうな顔。うーん。なかなかいい顔かも。笑顔がいいってのは営業としては最強の武器よ。
さて、どう料理してくれようか。
伏見くんの部屋に戻って、鏡、ハサミ、カミソリ、毛抜き、その他いろいろ用意させた。
「あの~、先輩。これでどうするんで?」
「ふふーん。伏見くんをいい男に改造しようと思って」
「か、改造ッスか?」
「そうね~。身長までは変えられないけど、今どきの顔にはなれるかな?」
身長は170cmの私よりちょい低め。165cmよりは少し高いかな?
肌質は悪くない。まずは目周りからやっていこうか。
「ちょっと手で前髪上げといて貰えるかな」
「は、はい」
私は伏見をイスに座らせ、美容師のように彼の顔をぐるりと観察した。
睫毛は長い。今までこんな財産を隠してたのね。
でも眉毛が暴れてるわ~。まぶた上のはカミソリでちょいちょいと。
眉毛ね~。全部剃って描いてもいいけど男の子だしね。カミソリと毛抜きで整えましょ。眉山も男らしく作って──。
「ど、どうすか?」
ナニコレ……。
若手イケメン俳優の雷名隼人にそっくり!
なにー!?
LV1のザコから一気にLV80になったぞ!?
たったこれだけで。
「伏見くん」
「は、はい」
「その、モゴモゴ笑うのどうにかならない? もっと口開けて白い歯だしてみなよ」
「は、はい」
「はい、スマイル」
「はい」
ニカーーーッ!!
太陽! まるで太陽だわ!?
なにこのスマイル!
見つけた!
スーパーダイヤの原石をッ!