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英雄親子は名誉を捨てる3「再会編」  作者: 筑豊ナンバー
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親子の再開

 圧倒的な力に対し複数の不器用な正義が今、集結する。

 これは「自由」のため「誇り」のため「家族」のために戦った英雄の物語。

この街での生活にもだいぶなれてきた。

 スーツをきて何時ものように鏡の前で服装を確認する。

 相変わらず、光のない赤い瞳が映る。

 ネクタイを締め直し、外へ出る。

 「おはよう。」

 「おはようございます。」

 丁度、隣の家から白い制服を着た少女が出てきた。

 制服は冬用から夏用に変わっていて、季節の移り変わりを感じさせた。

 「途中までご一緒しても良いですか?」

 「かまわないよ。」

 少女の名前はミカ、隣に住んでることもあり、友人として仲良くやっている。

 「明花の調子はどうだ?」

 「だいぶ良くなってますね。来週には退院できそうですよ。」

 ミカが通う学校は、俺の職場に近いのでたまにこうして話しながら通学、通勤している。

 「アレックスさんって独身なんですか?」

 短い橋の上を歩きながら答える。

 「‥まあそんなとこだな。仕事を優先しすぎてね。」

 「えーアレックスさんならいい人くらい居ると思うんですけど。あっほら夕さんとかお似合いだと思いますよ。」

 夕とは、「夕雨討」のことだ。

 仕事で俺のバディをやっている。

 「ないな。」

 「そんなこと無いと思いますけど?」

 俺にはもったいないくらいないくら位の美人だが、俺には家族を持つ資格はない。

 それに何より大切な者は目の前にいる。

 「うーん、合うと思うんですけど。‥じゃあ私はここで。」

 「じゃあね。」

 手を振りミカと別れ職場へ向かった。

 

 わいわい騒いでいる教室にはいり、自分の席につく。

 学校生活も普通の生活もだいぶなれてきた。

 「やあミカ。」

 「おはよう。」

 隣の席には眠そうに目をこする友人の姿があった。

 「どうしたの?」

 「昨日の稽古がきつくてさあ。寝ても寝たりないよ。それより『魔王』が復活したって噂聞いた?」

 「え?」

 魔王とは数年前の戦争で人々を恐怖のどん底に落とした存在だ。

 戦争で死んだはずだが。

 「確か『魔王教会』が復活させたとか。」

 「デマだよね?」

 「だと思うけどね~。」

 教室が何時も以上に騒がしいのはそういう事だったのか。

 よく耳をすませば皆、魔王の話ばかりだ。

 「うるせぇぞ。ここは3階だよな?一階職員室まで聞こえてんぞ。」

 担任の先生が、入室した瞬間教室が静まり返る。

 先生の機嫌を見たからではない。

 「先生!その傷どうしたんですか?!」

 生徒達が動揺している。

 当然だ。赤いジャージのズボンに黒いタンクトップを着ているのだが、見える肌には包帯が巻かれ、顔にはバンソーコーやガーゼが貼られているボロボロの姿だ。

 「これはあの、あれだ。馬車に轢かれた。」

 嘘が下手すぎる。



 朝のホームルームが終わり、5分休憩に入ると同時に、白夜から少し来いと廊下へ呼ばれた。

 「アサシンなのに嘘が下手じゃないですか?本当は放火魔退治してたんですよね。」

 「誰から聞いた?」

 「夕さんですよ。」

 「なんでお前が師匠と?」

 「明花のお見舞いでよく一緒になるんですよ。帰りにお茶したりしてますね。あっそういえば夕さんから聞いたんですけど白夜先生て昔、ふらr」

 「要件を言うぞ。」

 話をさえぎられた。

 「魔王復活の話は聞いたか?」

 「はい。噂になってますね。‥本当なんですか?」

 「証拠がないからなんとも言えない。だが、魔王のようなバケモノとクロがいる特殊部隊が交戦したらしい。」

 「どうなったんですか?」



 「特殊部隊が壊滅状態だ。」

 病室のベットで包帯に巻かれた男が愚痴るように言った。

 「クロ総帥、むちゃしすぎですよ。」

 「もう俺は総帥じゃない。やめろその呼び方。」

 今は情けない格好をしているがこの男はかつて国2つを恐怖のどん底に落とし入れた魔王軍の総帥だった男だ。

 今は、警備兵の中でも実力者揃いで構成された特殊部隊にぞくしている。

 先日、「西の国」へ調査に向かった際に「魔王」に似た化け物と交戦、特殊部隊のほとんどが戦死した。

 「で?結局魔王だったのか?」

 「お前は少しぐらいは、友人の心配したらいいんじゃないか?」

 「美人に心配されてるんだ。十分だろ?」

 「お前の女だろ。」

 ホルスターからハンドガンを取り出し、クロの頭上へ向ける。

 「面白い冗談だな。」

 「そうですね。セクハラで訴えますよ。クロ総帥。」

 笑顔で圧をかける。

 「怪我人に銃口向けやがって。本性出しやがったな。あと夕、お前は呼び方の癖直せ。恥ずかしい。」

 「あなたの態度次第ですよ。総帥。」

 舌打ちした。

 「わかったよ。一つ教えてやる。奴は「魔王」じゃない。本物は確かにミカが倒した。あれは「魔王の肉体を使った災害」みたいなもんだ。」



 

 「厄介な事になりそうだね。」

 「ああ」

 クロの実力は俺も知っている。

 当然だ。アイツは俺のバディだった男だ。

 そんじょそこらの軍人相手なら赤子の手をひねるような物、おまけに魔王軍では総帥を務め、今ではエリート揃いの特殊部隊にいる。

 そんな男が実力者とともに戦ってあのざまである。

 「放火魔捕まえてやっと一段落ついたと思ったのに。‥‥いやこのタイミングって事は「魔王教会」の仕業かな?」

 魔王教会とは、魔王を神と称えているテロリスト集団だ。

 「可能性は高いな。そういやファインズはどうなったんだ?」

 「目を離したすきに舌噛みちぎって自害したって。」

 ため息をつく。

 魔王教会の最も恐ろしいとこだ。

 何人か捕える事は出来たが、情報が漏れるのを防ぐためか迷わず自害する。

 そのせいで魔王教会に関する情報は限りなく少ない。

 階段を降り、二階で立ち止まった。

 「よって行かない?」



 「アレックス、師匠来てくれたんですね!」

 「元気そうで何よりだよ。」

 「しっかりご飯食べてるか?安静にしてるんだろうな?」

 「お前はおかんか!ミカと同じこと言ってんぞ!」

 せっかく病院まで来たので入院中の明花のお見舞いに行くことにした。

 ベットに横たわった明花は、前より包帯やガーゼの量が減っている。

 「ファインズの野郎はぶっ飛ばしてくれたんですか?」

 「私らは拘束しただけだよ。到着したときには半分は終わってた。」

 「‥兄貴ですか?」

 「うん。」

 明るく話していた明花の様子が、兄貴の単語が出た瞬間暗くなった。

 「なあ、明花ちゃん。俺は戦争で何があったか知らないけど国同士のいざこざで家族関係を壊すのは馬鹿らしいと思う。‥少しずつでもいいから白夜と仲直りするといい。」

 「ああ。‥‥わかったよ。」

 

 

 「忙しくなりそうだね。」

 「そうだな。」

 これまでに無い以上自体だが、ある程度なら予想はつく。

 「魔王の姿をした何か」に対処するため部隊を編成し、作戦を立てる。

 特殊部隊が返り討ちに合った相手だ。

 人手もそうだが実力者を集めなければ正気は無いだろう。

 病院から出る。

 「武器を捨てて跪け。」

 軍服を着た武装した集団に囲まれた。

 濃ゆい緑の軍服、警備兵だ。

 「どういう事ですか?」

 「夕雨討に『魔王』復活を手引した疑いがある。」

 「証拠は?」

 「元魔王軍、それだけで十分だ。」

 「ふざけるな。そんなのが通るわけ無いだろ?」

 「‥‥大人しくすれば悪くしない。」

 舌打ちして腰のホルスターに手をかける。

 悪くしないなんて嘘だ。

 捕まれば間違いなく夕雨討は殺される。

 「待って。それじゃアレックスまで捕まる。」

 「あいつの目は嘘をついてる目だ。」

 「でも!」

 「黙って合わせろ。」

 ホルスターからハンドガンを取り出し、警備兵に向けて発泡した。

 この時代には銃が普及していない。

 基本は剣や槍、弓だろう。

 人数は不利だが、装備ではこちらが上回っている。

 「捕えるろ!」

 警備兵達が突進してくる。

 何人かに玉を当て、動きを封じたが、数が多い。

 「逃げるぞ!」

 路地裏を全力疾走で駆け抜ける。

 背後から迫る警備兵に発泡しつつ頭の中の地図を使い、撒くためのルートを作る。

 「こっちだ!」



 ミカへの警告を終え、職員室へ向う。

 階段を降りる途中違和感を感じた。

 (追われている?)

 職員室のドアを開けるとそこには武装した警備兵達が待っていた。

 振り返ると先程からおっていたであろう警備兵が立っている。

 「何のようですか?」

 「元魔王軍、白夜。お前には『魔王復活』の手引した疑いがある。」

 見に覚えがない。

 未だに魔王に対して未練があるとでも思ってるのか?

 嫌、違うな。見るからにこいつ等の装備が厳重すぎる。

 「事情聴取ですか?」

 「まあそんなとこだ。」

 目を見ればわかる。

 嘘だ。

 おそらく、抵抗したから殺した事にするのだろう。

 「大変そうですね。」

 出来るだけ自然な動きで窓に近づく。

 幸い暑さ対策に窓は空いている。

 窓に手が掛かけた瞬間、勢いよく飛び出し、逃走した。



 「じゃあこの日に何やってたか聴かせてもらえる?」

 「その日は放火魔に病院送りにされたな。」

 アレックスと師匠の次に来たのは武装した警備兵だった。

 話によると最近「魔王復活」を手引きした疑いがあるとか。

 だが俺には、アリバイが有るのですぐに疑いは晴れるはずだ。

 問題は警備兵達が剣を抜いていること。

 事情聴取とは思えない殺気を感じる。

 警備兵の一人が廊下を確認し、俺に質問している男の耳元で小声で言った。

 「今なら殺れます。」

 やはりと言うべきか。

 こいつ等は俺を殺しに来たらしい。

 剣を持った警備兵達がこちらに近づく。

 「お前ら警備兵だろ?証拠もねーのに俺ら市民を殺すのか?」

 「元魔王軍が市民を名乗れるとでも?」

 バレないように毛布の下で手仕込んでいた糸を警備兵に向かって放った。

 「な?!」

 一人は糸に絡み動けなくなった。

 ここからだ。

 この部屋にはあと二人の警備兵がいる。

 怪我した状態でどこまでやれるかで生き死にが決まる。ベットがら立ち上がり、机に置かれた花瓶を手に取り机に叩きつけ割った。

 丁度良く先は尖がっていて刺殺には問題なさそうだ。

 剣を交し、首元に花瓶を振るうも当たらない。

 舌打ちして再び襲ってくる剣を交す。

 得物のリーチが何時もより短すぎる。

 花瓶を小さく割りすぎた。

 毛布を警備兵にかぶせてその上から糸を巻きつける。

 視界を奪われた警備兵の足を蹴り上て倒し、胸辺りに拳をめり込ませた。

 気絶したのか動かなくなった。

 残り一人。

 振りかざされる剣を跳ねるように交わした。

 その瞬間腹が疼いて、顔をしかめる。

 傷口が開いたようだ。

 それに気付いたのか、警備兵がこちらにゆっくりと歩いて近づいてくる。

 「死ね。」

 剣を振りかざされる。

 首に刃が当たる寸前で警備兵は勢いよく向かい側の壁に向かって吹き飛ばされた。

 「悪い。遅くなった。」

 そこには背丈ほどの大鎌を持った目の死んだ男が立っていた。

 ここに入院しているのか、全身包帯でぐるぐる巻きだ。

 「な?!クロ総帥!」

 「その呼び方やめろ。クロでいい。」

 見覚えがあると思えばやはりそうだ。

 元魔王軍最強の男、クロ総帥。

 戦場で何度か見た事は会ったが特に面識はなかったため、目が死んでいること以外の素性を知らない人物だ。

 「動けるか?」

 「すいません。傷口が開きました。」

 するとクロは、「しょうがねぇなぁ」と俺を背負い走り出した。



 授業が終わり、放課後は校内にある道場へ向かった。

 「あれ?ミカどうしたの?」

 「白夜先生が一緒に稽古しろって。」

 「へーなるほど。確かにミカは剣道をやるべきだよ。」

 「なんで?」

 「この前素振りしてたじゃん。その時、無駄な動きが全くなかった。それに」

 手を指さされた。

 「その手はかなり長い間剣を振るっていた証拠だよ。」

 「え?」

 何故てを見るだけで気づいたのだろう?

 驚きつつ手のひらを見る。

 「そんだけボロボロなら誰でもわかるよ。」

 言われてみれば確かに普通の手じゃない。

 豆や擦り傷でき、皮膚が分厚くなっている。

 「昔やってたんでしょ?」

 「え?あ、うん。」

 とっさにごまかした。

 本当は、殺し合いをやってたなんて口が裂けても言えない。

 「じゃ、着替えて。さっそく始めるよ。」

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 「あー疲れたー。」

 背伸びしながら通学路を歩いていた。

 稽古を終えた頃にはすっかり夕方になってしまったが、久々の運動に楽しさを感じている。

 殺し以外で剣を持つ日が来るとは夢にも思わなかった。

 「そういえばなんで白夜先生、来なかったのかな?」

 私を誘ったのは白夜先生だ。

 ランいわく稽古に来ないのはかなり珍しいことらしい。

 朝、ホームルームが終わったあと私を廊下へ呼んだ白夜はこう言った。

 「お前の力が必要になる。心構えをしておけ。」

 理由は、考えるまでもない。

 魔王を殺せるのは私だけだからだ。

 家に到着し、ポストを確認すると、一冊の新聞が入っていた。

 その場で開くと思いがけない記事が見に入った。

 「え?」

 そこには、魔王を復活させた元魔王軍とデカデカと書かれ、その下には元魔王軍の人間の似顔絵が並んでいる。

 中には知った顔もある。

 白夜、夕雨討、明花、クロ。

 そしてなぜかアレックスの顔まである。



 「ご協力ありがとうございました。」

 頭を下げる警備兵に「いえいえ」と手を降った。

 警備兵が去ったのを確認し教会へ戻る。

 木製の椅子がずらりと並び、奥には白く大きな十字架が立っている。

 「ありがとね。助かったよ。」

 「いえいえ。困った時はお互い様ですよ。」

 赤髪の美人と目の死んだ男が奥の部屋から現れた。

 「でも、いいの?私達指名手配犯だよ?」

 「無実なのは知ってますし、何より困ってる人間を救うのは教会の義務ですから。」

 「あの婆さんはどうした?婆さんならかコネでどうにかできるんじゃないか?」

 「あいにく不在です。腰が痛いって病院に行ってますからねぇ、戻るのは遅くなるかもしれません。」



 「人員不足のおかげで部屋は有り余ってるので」と教会のあいている、本来はシスターが寝泊まりする一人部屋を借りた。

 ホルスターから銃が飛び出し、影のように黒くなったかと思えば少女の姿に変わった。

 赤い瞳がこちらをみている。

 「どうした?」

 この少女は当然人間ではない。

 俺と契約した悪魔だ。

 「一度しか言わない…大切なことだ。」

 「…言ってみろ。」

 真顔で言った。

 「空腹だ。」



 「ほら、買ってきたよ。」

 「助かる。」

 パンパンの袋を受けとる。

 悪魔の存在は誰にも言っていない。

 変な混乱を避けるためだが。

 「よく食べますね。」

 「…ああ。」

 「私は、隣の部屋にいるので。何かあったら言ってください。」

 「分かった。」

 背を向け、歩き出すリンカを見送り、ドアを閉めた。

 袋を確認すると中には大量のパンが入っていた。

 「ほら、飯だぞ。」

 悪魔へ渡すと、袋からフランスパンを取り出し、まるでポッキーを食らうかのように完食した。

 その間たった3秒。

 だが、この程度で終わるはずもなかった。

 間髪入れず、袋から次のパンを取り出し丸呑みにしていく。

 「化け物め…」

 次々とパンが無くなっていく。

 甘い物、辛い物、全てが等しく食われていく。

 「馬鹿が、ちゃんと噛め!でなきゃ消化に悪いぞ!」

 忠告を無視し、メロンパンを丸呑みにした。

 悪魔は満足したようで、はらをなでている。

 袋の中を確認した俺は唖然とした。

 「空…だ…と?!」

 あれだけあったパンがわずか1分半で消えた。

 「すまないアレックス。お前のぶんを残し忘れた。」

 「…俺は大丈夫だ。」

 仕事がら空腹にはなれている。

 晩飯抜きぐらい晩飯前だ。

 「それより悪魔、なぜ魔王はあの力を維持している?お前がいなきゃ、ただの人間なんだろ?」

 おかしな話だ。

 悪魔は、人間と契約し力を与える。

 魔王もその一例だったらしい。

 なのに魔王は復活し、国一つ滅ぼす力を保持している。

 「魔王の願いは達成していない。本来は願いを叶える。もしくは死ぬ事で契約は解除されるのだが奴はヤツは死後、復活した。」

 「それと同時に契約が復活したってわけだ。」

 「あの凶暴性はおそらく、復活させた魔王協会の理想の姿だからだろう。魔王は魔王でも中身は全くの別物だと思え。」

 「魔王の願いってのは何なんだ?人類滅亡なんてもんのためじゃないだろ?」

 「ああ、表では人類滅亡ってことになっているが、本来は全く違う。アイツが私に願ったのは世界を滅ぼせる力だ。」

 「…つまり?」

 「アイツは絶対的な悪になることで本当は……今度話す。来客だ。」

 悪魔が銃の姿に戻ったのと同時に扉が勢いよく開けられる。

 「アレックス!」

 かなり慌てた様子で夕雨討は言った。

 「魔王が正門を突破した!」

 

 

 

 

 「ただいまー。」

 「おかえり。手を洗ってこい。飯できてるぞ。」

 「はーい。」

 部活終わりで遅くなったが、両親は何時ものように待っていた。

 手を洗い、席につく。

 隣に母、向かい側に父で夕飯を囲むのが家族の日課だ。

 スープを飲む私に父は心配そうに言った。

 「ラン、最近遅いが大丈夫か?」

 「平気だよ。竹刀を持ってる若者に手を出すバカは居ないって。」

 「分からんだろ。明日から向かいに行こうか?」

 父は昔からかなりの心配性だ。

 ボディービルダーのようなごつい外見とは裏腹に、かなりの慎重派で過保護、たまに鬱陶しく感じてしまうが私の事を思っていると思えばつい押し負けてしまう。

 「大丈夫だって。」

 「あなた、この子ももう17よ。」

 「しかしなぁ。」

 突然、外から爆発音がした。

 家が爆風に揺れ一瞬、軽い地震が起きたと勘違いしてしまった。

 「なんだ?!」

 「私、見てくる。」

 「なっ!まて!」

 家を出るとさっきまでの町並みは急変していた。

 あちこちで煙や炎が上がり、人々が、川のように逃げ惑う。

 城壁を見ると巨大な穴が空き、人形の黒い「何か」と警備兵が交戦している。

 だが、

 「何あれ?!」

 何十人もの武装した警備兵にたいし、「何か」はたった一人。

 なのに警備兵を圧倒している。

 あれじゃあ戦いというより、虐殺という方が正しいのではないか?

 目の前の出来事にただ呆然とたちすくしていた。

 すると巨大な影が頭上から近づいて来た。

 我に返り見上げたがもう遅い。

 巨大な瓦礫がこちらへ迫ってきていた。

 避けようにも間に合わない距離まで来ている。

 「きゃぁああああ!」

 その場にしゃがみ両手で頭を覆ったが、こんなのでは防げるわけがない。

 迫る瓦礫に絶望していた次の瞬間、目の前に人影が現れ瓦礫を真っ二つに叩き切った。

 「え?」

 見上げると、日本刀を持つミカの姿があった。

 「ラン!大丈夫?!」

 慌てた様子だが恐らくこちらのほうが動揺しているだろう。

 「だ、大丈夫だけど…?」



 緊急事態だったとはいえ、友人に力を見せてしまった。

 動揺している友人に声をかける。

 「ゲガは?」

 「大丈夫だよ。…それよりミカ。」

 「…」

 重い空気が辺りを包む。

 今まで普通だと思っていた友人が目の前で突然化け物に変わったようなものだ。

 ランは私の事をどう思ったのだろう?

 もしかしたらもう、私のことなんて…

 「すごい!どこで習ったの?!」

 「え!?」

 以外な言葉に戸惑う。

 「剣の才能はあると思ってたけどここまでなんて!」

 「これは…その…」

 返しに困る。

 戦争のために幼少期から叩き込まれた物、つまり正真正銘、殺すために習った物だ。

 そんなこと言えるはずない。

 「ラン!無事か?」

 家から父親が出てきた。

 かなり慌てた様子だ。

 「大丈夫だよ。」

 「そうか…」

 安心したようでホッと息をつきこちらを見た。

 「君は…確か…」

 「父さん!私の友達だよ。名前はミカ。」

 「ミカ!?じゃあ君があの!魔王殺しの?!」

 「え?そうなの?」

 かなり驚いた様子だ。

 「魔王殺し」の名前を知っているのは関係者のみのばずだ。

 お父さんは、元軍人だとランに聞き、出来るだけ会わないようにさけていたが力を見せてしまった以上、もう関係ない。

 「ラン…隠しててごめん。」

 背を向け、立ち去ろうとした。

 ランは学生になって初めて出来た友人だ。

 毎日たあいない会話をして笑い合ううちにいつしかお互い親友だと認めあった。

 だが、もう私のことなんて見捨ててしまうだろう。

 「待って!」

 呼びかけに立ち止まる。

 「気づけなくてごめん。」

 「…なんで謝るの?」

 謝るべきなのはこちらの方なのに。

 人殺しだと隠して普通を装い近づいたわたしにランは頭を下げている。

 「辛かったよね。…私は、気にしないから。誰にも内緒にするからさ、また稽古に付き合ってよ!」

 ああ、そうだ。

 ランはこう言う人間だった。

 身分を無視し、天才だろうがバガだろうが等しく接する事のできる彼女の心に引かれ、私は友人になったんだ。

 心配する必要は無かったな。

 「ありがとう。ラン…行ってくる。」

 これ以上、友人も家族も失うわけには行かない。

 その場を後にし、向かう。

 かつての宿敵「魔王」の元へ。

 

 

 

 魔王の元へ到着した。

 地面にはさっきまで戦っていた警備兵達が血まみれで倒れ、辺りの建物は跡形も無く瓦礫とかしている。

 ほんの数分でこの有様だと考えると、ほおって置けば数時間で国が滅ぶだろう。

 「あなたを倒します!」

 魔王へ刃を向ける。

 この場で終わらせ無ければ全てを奪われる。

 「オマエコロセ。ワレコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセ!!」

 「…!?」

 前、対敵した時と姿形は同じだが、中身が違う。

 本来なら、カリスマ性を感じさせながらも考えを読めない知的な雰囲気を持っていた。

 敵ではあったものの、尊敬される理由が一目見るだけで理解できる。

 それがかつての魔王だった。

 だが、復活した魔王はまるでただの破壊を繰り返すだけの化け物にしか見えない。

 跳ねるように距離をつめ、刃を振りかざした。

 「くっ!?」

 刃が、魔王の首元から先に進まない。

 これは!?魔術のバリアか!?

 「コロセコロセ」

 「っ!?」

 首を捕まれ半壊した建物へ投げ飛ばされた。

 「コロセコロセコロセコロセ」

 背中に激痛が走る。

 だが痛みにはとっくになれている。

 すぐさま立ち上がり、深呼吸をする。

 「やっぱり、この状態じゃ無理ですよね…」

 魔力で体を包むと同時に体が光を放つ。

 光がやんだときには白い袴姿へ変わっていた。



 指名手配中だが、今は警備兵もそれどころじゃ無いようで、国民の誘導、火災の対処で忙しく働いていてこちらを見向きもしない。

 魔王が現れたという城壁の方へ向かった。

 城壁が近づくにつれ、目に入る死体の数が増えていく。

 焼死体があれば、瓦礫の下じきになり、腕一本しかみえないものもある。

 俺はハンドガンを、夕雨討は短刀を取り出し、慎重に進んだ。

 現場に到着すると警備兵達の姿は無く、たった一人で魔王へ立ち向かう少女の姿があった。

 白い袴に見を包み、日本の刀を振りかざしている。

 赤い瞳には輝きが無い。

 「ミカ…か?」

 顔立ち、体型は間違いなくミカで間違いない。

 だが、何時もの面影が外見だけだ。

 「そうみたいだね。あの姿は恐らく『魔王殺し』の姿。神をも倒す希望の象徴だと聞いたけど…あれじゃまるで…」

 「…兵器…か。」

 大抵の人間は目を見ればある程度の感情を読める。

 だが、今のミカからは何も感じ取れない。

 考え、欲望、生気さえも。

 二本の刀を振るうミカに対し魔王は、二つの盾で攻防していた。

 両者の動きは早く、目で追うのでやっとだ。

 変に援護すれば邪魔にしかならないだろう。

 だが、ミカのほうがかすかに押されている。

 夕雨討もそれを感じったらしく冷や汗を流している。

 「夕、目くらましの準備をしろ。」

 「分かった。…でも逃げ切れるかな?」

 「考えがある。」

 確かに目くらまし程度じゃ時間稼ぎにならないだろう。

 だが、そろそろ警備兵の主力部隊が到着するはずだ。

 そしてこちらには、チート魔術師がいる。

 「今だ!」

 ミカが、弾き飛ばされた瞬間スモークをたき、辺り一面が白い煙に包まれた。

 それと同時に何もない空間にねじれが出現した。

 ねじれからリンカの声が聞こえる。

 「維持するのしんどいんで早めにお願いします。」

 「了解」

 ミカの元へ走る。

 煙の中でも地形を覚えていればある程度行動できる。

 ミカが弾き飛ばされた辺りにつくと頭から血を流し、袴姿から、制服姿にもどったミカがいた。

 「動けるか?」

 「…」

 気を失っているようで、ピクリとも動かない。

 胸に何かが刺さり激痛がる。

 「くっ!?これは?」

 槍だ。

 黒い槍が胸を貫いている。

 「クソが!」

 槍を引き抜き、銃を構える。

 槍が飛んできた方向見ると、薄れていく煙の中にこちらを睨む魔王の姿が見えた。

 こちらへ向かって歩いてくる。

 発泡したが、弾丸が何か見えない壁に弾かれている。

 「…悪魔、変形。ロケットランチャー、RPG。」

 「了解した。」

 悪魔との契約、それは力を貸すことを条件に魔王を倒す。

 力を貸すとは戦闘になった際に武器となり共に戦うことだ。

 ハンドガンが、影になり変形してロケットランチャーへと姿を変えた。

 「喰らえ!」

 魔王へ向けて発射した。

 一直線に魔王へむかい、直撃して爆発した。

 「…」

 だが、煙の中から出てきたのは、無傷の魔王だった。

 「…化け物が。」

 これだけの火力を持ってしても倒せないのか?

 魔王は、自身の影から槍を取り出しこちらへ投げた。

 避けようと動いたが間に合わず、腹に突き刺さった。

 胸の出血があっかし、意識が遠のいていく。

 その場に倒れ込んだ。

 体が思うように動かない。

 「せめて…ミカだけでも…」

 最後の力を振り絞りミカへ手を伸ばす。

 視界が薄れるのと同時に意識が遠のいていく。

 

 

 

 「アレックス!」

 返事がない。

 胸から血を流しながらその場に倒れ、動か無くなった。

 アレックスの方へ魔王が近づいていく。

 糸を結び、即席の網を作り出し、魔王へ向けて投げつけた。

 が、魔王は自身の影から槍を取り出し、網をいとも簡単に切り裂いてしまった。

 即席とはいえ、こんなにもかんたんに対処されるとは思わなかったが狙い通りに行ったようだ。

 魔王の票敵はアレックスから私に変わったようで、こちらへ槍を投げてきた。

 身をよじり交わす。

 「さてと…こっからどうするか…。」

 私が使える技や武器は、あくまでも対人用。

 あんな化け物相手に通用するとは思えない。

 こちらへ近づく魔王の圧に潰されそうになる。

 だが、こちらには作…否、技がある。

 網にまぎれて魔王に絡ませておいた糸を引っ張る。

 「糸ってこんな使い方もあるんだよ!」

 魔王は、槍を自らの首へ向けた。

 なぜこんな事ができるのか。

 それは長い間つちかった技術による物。

 夕雨討は元アサシン。暗殺、情報収集など様々な仕事をこなしてきた。

 だが、ほとんどが汚れ仕事。

 仲間割れや自殺にみせかける際にこの技を活用した。

 標敵の関節に糸を巻きつけ、操り人形のように操る。

 こちらの技や武器が通用しないならいっそ自害させればいい。

 「ガァアアアアアア!」

 槍が魔王の喉元へ迫っていく。

 必死に抵抗しているようで、操っているこちらが引っ張りこまれそうになる。

 「こ…の!」

 必死に踏みとどまる。

 次瞬間、魔王から飛んできた三日月型の何に右腕を切り飛ばした。

 「なっ!?」

 肘から下がなくなり、断面からは大量の血が流れている。

 魔王の操作は右腕でで行っていた。

 その右腕がなくなったため、魔王が自由を取り戻した。

 「あれは?!」

 魔王の足元には魔法陣が書かれている。

 やられた。

 恐らく、足で書いたものだろう。

 踏ん張るのに必死で気づかなかった。

 もう、打つ手がない。

 右腕を持っていかれ、唯一の対抗策も魔王相手に二度通用しないだろう。

 打開策が見つからず、ただ魔王を睨みつけるしか出来ない。

 その時だった。

 大量の手裏剣が魔王に直撃した。

 当然バリアに弾かれている。

 「すみません。遅れました。」

「白夜!!」





 「こっからは自分が。」

 何とか、アレックス達は無事なようでホッとする。

 師匠もアレックスも重症だがミカは軽症で済んでいるようにみえる。

 あとはどうするか。

 相手は魔王。

 理性が無いとはいえ俺じゃあ時間稼ぎにしかならないだろう。

 だが、それでいい。

 ミカさえ生きていればまだどうにかできる。

 「自分が相手するんで師匠は二人を。」

 「いや、弟子に囮役させるなんて出来ないよ。」

 「じゃあ、そんな体で何が出来るんですか?」

 「っ…」

 「足手まといですよ。」

 「分かった。…でも絶対死なないで。」

 「…」

 師匠はアレックスの元へ進みだした。

 「バカ弟子の最後の願い。聞いてくれますか?」

 「…何?」

 「明花に_____



 師匠を見送ったあと魔王を睨みつけた。

 「待たせたな。」

 死ぬなと言われたが、こんな化け物相手に無理な話だ。

 だが、ミカさえ守りきればまだ希望はある。

 ここで死ぬまで時間わ稼げば、この世界は救える。

 …違うな。

 俺が本当に守りたかったものは世界なんて下らないものじゃない。

 「なぁ…最後くらい妹のためだと思って良いよな?魔王さん。」



 「ごめんリンカ、助かったよ…」

 なんとか帰還させることは出来たが、現場にいたはずの人数ではない。

 「いえいえ…白夜さんは?」

 「…」

 「…そうですか。彼らしい最後でしたね。」

 「こんな最後!誰も望んでない!」

 「…!」

 初めて見る夕雨討の怒りの表情に底しれない悲しみを感じる。

 「なんで!あの子ばっかりこんな…!こんな…」

 「師匠?」

 そこには白夜の妹の姿があった。

 「明花…」

 

 

 

 「…兄貴らしいですね。」

 皆は気を使い明花と私、二人きりの部屋で話をさせてくれた。

 「本当は、私が死ねばよかったのに…ごめんね。」

 「いえ、状況が状況でしたから。…むしろ清々しましたよ。散々ほおっておいて今更兄貴ヅラするヤツですよ…」

 「でも白夜は!」

 「いいんですよ!」

 明花の怒りのこもった声が部屋中に響き渡り、静まり返った。

 「すみません…とにかく師匠は気にしなくていいんです。」

 明花は、背を向けあるき出した。

 このままじゃだめだ。

 白夜も明花も戦争で人生を狂わされ、未だに離ればなれになっている。

 戦争さえなければこの兄妹はごく普通の幸せな毎日をおくっていたはずだ。

 世界のために戦い続けたのにこんな終わり方じゃ悲しすぎる。

 「白夜の伝言。『約束守れなくてすまなかった。』って。…意味は分からないけど。」

 「…」

 そのまま明花は退出してしまった。




 やっとのおもいで警備兵を撒いたと思えば頼りの仲間は負傷、死亡と来た。

 おまけに魔王が攻めて来るという絶望的な状況、そろそろ腹をくくる時なのだろう。

 「じゃまするぞ。」

 リンカの部屋を訪れる。

 「あっ!クロさんお久しぶりです。」

 かつて、戦争時代に目の上のたんこぶ的存在だった魔術師は目の前でくつろぎ、紅茶を飲んでいる。

 「紅茶飲みますか?」

 「いや、すぐ出ていく。」

 時間がないので、早めに本題に入る。

 「二人の調子は?」

 「ミカの方は頭を強くうったみたいですね。まぁ外傷は大したことないですから大丈夫です。」

 「…アレックスは?」

 「胸に風穴が2つ。」

 「ハデにやられたな。」

 ため息をつく。

 「運良く心臓は避けてますけど、肺に刺さっちゃってますね。普通なら死んでますよ。」

 「治療したのがあんたで助かったよ。」

 「いえいえ。」

 聞きたいことは聞いた。

 ミカが無事なら、俺に出来ることをする。

 「魔王のとこへ行くんですか?」

 たいして話してないのにわかるものなんだな。

 「…そうだ。あれ以上暴れる魔王の姿を見たくないんでな。」

 「尊敬してたんですね。」

 「まぁ、そんなとこだ。…じゃましたな。」

 ドアを開け手を振りながら退出する。

 「バガ親子は任せる。」



 退出すると以外な顔が目に入った。

 「無茶すんな、夕。」

 かつての部下は、右手を失っているにも関わらず、戦うつもりなのだろう。忍者着を装備している。

 「あなたこそ。一人で時間稼ぎができるんですか?」

 ため息をつく。

 「バカな部下を持っちまったな。」

 「お互い様ですよ。」

 外へ向けてあるき出す。

 「どこまでやれる?」

 「足は無傷ですから、囮ぐらいならなんとか。」

 「囮やりたいのか?却下だ。」

 「ですよね~」

 「今日限りお前の右手はあいつに任せる。」

 「え?」

 教会の玄関を開くと、忍者着を着て武装した明花の姿があった。



 

 「明花?!なんで」

 「兄貴やられてだまってられないですよ。」

 「でも…あなたまで死んだら…私は」

 「師匠達が負けたら俺達も死にますよ。どうせ死ぬなら戦って死にたいですし…何より」

 笑みを浮かべた。

 「俺は兄貴の墓に文句言うまで、死ぬ気無いんで。」

 その言葉に確かな決意を感じた。

 兄を失って本当は、一人で泣き出したいはずだ。

 だが、彼女はすでに前を向いてあるき出そうとしている。

 死んだ兄の分まで。

 「分かった。でも無茶はしないでね。危なくなったら逃げること!」

 「腕失ってすぐに戦場に向う人が言っても、説得力ないですよ。」

 

 

 

 「さてっと、私もそろそろ行きますね。お二人は目を覚ましたらダッシュでお願いします。」

 アレックスとミカが眠る病室をあとにする。

 杖を持ち、黒いローブを身に着け装備を整える、教会の正面玄関へ向かった。

 夜の礼拝堂は、太陽の代わりに月明かりがステンドガラスを通して照らしていて、神秘的な空間になっていた。

 正面玄関を開こうとした時、背後から声がした。

 「どこに行くんだい?」

 振り返るとこの協会でお世話になっている、シスターの老婆の姿があった。

 ステンドガラスを眺めながら、椅子に腰をかけている。

 「ちょっと散歩に…」

 苦し紛れの答えに、老婆は笑い目線を合わせて言った。

 「物騒な散歩だね。気をつけるんだよ。」

 流石にバレているようだが止めることなく行かせてくれるようだ。

 「あはは、気をつけますね。…あなたは避難所には行かないんですか?」

 「教会だけなら捨てて逃げてるよ。長年シスターやってるが神が助けてくれた試しがない。命より大事なんて思ってないよ。」

 「じゃあなぜ?」

 「ここには怪我人がいる。何よりリンカ、ここはお前さんの居場所だよ。孫娘みたいなもんだからね。」

 「じゃあ孫娘からのお願い聞いてもらえます?」

 「なんだい?」

 「次の夕飯はステーキがいいです。」

 「…全く、最近の若者は…」

 「じゃあそろそろ。行ってきますね!。」

 扉を開き、教会をあとにした。

 「ああ、行ってらっしゃい。」




 魔王から逃げる人々が道を川のように流れていく。

 だが、目指すのはその逆方向、魔王が待つ最前線だ。

 「このメンツで足りますかね?」

 「たらすんだよ。」

 「あはは、相変わらずブラックですね。」

 元魔王軍と3人と英雄一人でどうにかなるとは思えない。

 それもほとんどは病み上がりだ。

 「英雄達は来ないんですかね?」

 「来るわけねぇだろ。勇敢なやつのほとんどは戦死して、残ったのは税金生活してる腰抜けだけだ。せいぜい頼れるのはミカとリンカくらいだろうよ。」

 「あはは!かつての敵で今だに差別してる元魔王軍が頼みの綱なんて、世も末ってこの事ですね。」



 「クソ!何なんだよ!あの化け物は!?魔王は倒されたんじゃなかったのかよ!」

 10万いた警備兵は今ではたった2万まで減り、今なお殺され減り続けている。

 「攻撃が通用しないってのにどうやって倒せってんだ!クソ!」

 警備兵は皆絶望し、逃げるものが現れ始めた。

 「おい!逃げんな腰抜け!」

 止めたところで止まらない。

 気持ちはわかる。

 戦況は変わらず絶望的、これじゃ死にに行くようなものだ。

 そんな状況に光が現れた。

 「おい!見ろよあれ!」

 警備兵の一人が指ざした方向を見るとそこには見覚えのある集団がいた。

 「あれは元魔王軍!?」

 英雄達のなかに元魔王軍のすがたもある。

 「なんで元魔王軍が?」

 すると、黒いローブを着た魔術師が杖で2回地面を叩いた。

 同時に頭へ直接声が聞こえる。

 (ここは私達が引き継ぐので皆さんは邪魔なんで市民の誘導にまわッテください。)

 それを聞いた警備兵達がいっせいに退却を始めた。

 ただ逃げたいだけでは無い、ここには英雄とそれに匹敵する元魔王軍がいるからだ。

 あとは安心して任せられると判断したのだろう。

 「さてと…どうします?」

 

 

 

 

 魔王に対し元魔王軍は容赦なく攻撃を繰り返した。

 常に弾幕をはり、すきあらば近接攻撃を繰り出す。 

 「明花!今!」

 「はい!」

 夕と明花の手から糸が放たれ魔王に絡みつく。

 すかさず糸を引っ張り、動きを封じた。

 「でかした。」

 クロの大鎌が魔王の首へ振りかざされる。

 「あークソ。だよなぁ…俺の攻撃が通るわけねぇよな…」

 クロの大鎌は魔王の首…その手前で止まっている。

 クロが止めたわけではない。

 魔王のバリアだ。

 一瞬だった。

 魔王が右手を頭上に上げ、下ろす。

 ただそれだけだった。

 たったそれだけでその場にいた元魔王軍は吹き飛ばされ、瓦礫に叩きつけられた。

 「チート野郎が。」

 「総帥!!」

 クロの胸に数本の槍が刺さっている。

 クロの実力なら交わすことも出来ただろう。だが、そうしなかったのは、恐らく私達を庇うためだったのだろう。

 「お前ら…後は任せた…」

 「…了解。」

 クロは倒れ込み、目を閉じた。

 人の死には馴れたと思っていた。

 目の前で人が死ぬのを見るのはこれが初めてではない。

 白夜が死んだ時も一緒だ。

 人が死ぬたび胸に穴が空いた様な感覚に襲われる。

 それでも仕事がら、悲しむ時間が惜しいと考えてしまう。

 「明花…もう一回拘束行くよ。」

 「はい!」

 魔王に向かって二人が走り出す。

 手から糸を放った瞬間魔王の姿が消えた。

 「な!?」

 魔王はすでに明花の背後にいる。

 槍を振りかざし、明花の肩を切り裂く。

 悲痛の表情を浮かべると思われた明花は以外にも笑っていた。

 「今更こんなもん痛くねぇんだよ!今だ師匠!」

 明花は魔王に向けて放った糸を夕に絡ませ思いっきり引っ張りこんだ。

 引っ張られる勢いを利用し、夕が短刀を振りかざす。

 「コロセコロセコロセコロセコロセ」

 「くっ!」

 それでも刃は届かなかった。

 魔王は槍を振りかざし、二人を吹き飛ばした。

 まずいと思い、杖をふるう。

 魔王の足元に魔法陣が開かれ無数の鎖が魔王を拘束した。

 「コロセコロセコロセコロセ」

 「一旦下がってください。1分位ならあれで稼げますから今のうちに治療します。」

 「いらねぇ。」

 「明花!…」

 「…分かったよ。」

 しぶしぶこちらへ下がってきた明花の傷を魔法で治す。

 治すと言っても応急処置程度しか出来ないがしないよりはましだろう。

 「コロセコロセコロセェエエエエエエエ!!」

 「な?!早すぎですよ!」

 魔王は鎖を力任せで引きちぎり、こちらへ向かって突進してくる。

 流石にどうしようもないと諦めた。

 攻撃も効かない。拘束も効かない。そんなやつ相手にどうしろと言うんだ?

 魔王が槍を振り上げた瞬間、何かが槍を弾き飛ばした。

 遅れて小さな、聞き覚えのある爆発音が鳴り響く。

 音がした方向を見ると、そこには、あの英雄親子が立っていた。

 「遅いですよ。アレックス、ミカ。」

 

 

 

 意識を取り戻した瞬間、半身を起き上がらせ薄暗い中で周囲を確認する。

 白いベットに薬品が置かれた棚、窓の縁にミカそっくりの悪魔が座っている。

 「安心しろ。ここは中央協会だ。」

 「…ミカは?」

 「無事だ。隣の部屋で眠っている。」

 「そうか…」

 安心すると、忘れていた胸の傷がうずき始めた。

 顔をしかめ、胸を押える。

 体中包帯で巻かれ適切な処置を受けているようだ。

 「なぜ助かったんだ?」

 「白夜が囮役を買った。」

 「…クソ!」

 怒りが込み上げてくる。

 白夜とはこちらの世界に来た時からの友人だ。

 そして、明花の兄であり、ミカの教師でもある。

 仲違いしたままの兄が死んだと聞いた時、明花はいったいどう思ったぬだろうか。

 「魔王はどうなってるんだ?」

 「現在魔王は、リンカ、明花、夕、クロが足止めしている。…だが時間の問題だろうな。魔王に攻撃をあたえられるのはミカの二刀流だけだ。あの四人では倒すことは出来ない。」

 「準備しろ。5分後に出る。」

 ベットの横に置かれたスーツを身に着ける。

 「無茶だ。自分の体を見ろ。」

 「俺との契約、忘れてねぇだろうな?」

 「…分かった。ただし条件がある。」

 ネクタイを閉め、ピンで止める。

 「死ぬなとか言うんじゃ無いだろうな?」

 答えは意外なものだった。

 「あんな化け物相手に『死ぬな』なんて無茶な話しだ。そんなこと期待していない。」

 「だったらなんだ?」

 「守りたいものを守り通せ。それだけだ。こちらも全力で、サポートする。」

 「最初からそのつもりだ。」

 悪魔は安心したのか、微笑み銃の姿になつてホルスターに入った。


 

 教会を出ると背伸びをするミカの姿があった。

 「何やってんだ。怪我人は寝てろ。」

 「アレックスさんこそ胸に穴が空いたらしいじゃないですか。」

 「今は、お前の話をしてるんだ。大体、子供をあんな化け物と戦かわせるはけないだろ。」

 「子供扱いですか?」

 「そうだ。大人しく寝てろ。」

 その場を立ち去ろうとした時、ミカは怒りに身を任せ俺の胸ぐらを掴んだ。

 怒り浮かべる瞳がこちらを睨みつけてくる。

 「ふざけんな!私だって好きで戦ってるわけじゃない!」

 「…」

 「私が戦わなきゃ皆死ぬ。白夜先生だって私をいかすために死んだ!このまま私が休んでいればまた誰が死んでしまう!…」

 こちらを睨みつけていた瞳から涙が流れ始めた。

 殺気だっていたの嘘だったように胸ぐらを掴む手の力が抜けている。

 「…ごめんなさい。…私…」

 弱り果てたミカを見て俺は、父親として最低な判断を下した。

 「準備は出来てるか?」

 「え?」

 もしかしたら一生公開するかもしれない。

 だがそれでも、実の娘から怒りの感情をぶつけられたのが嬉しかった。

 ああ、そうか。この子はもう…大人なんだな…。

 「お前の力が必要だ。ミカ。」

 

 

 

 「動ける人間は?」

 「私と明花は負傷したけど止血したら行ける。リンカは問題なし。」

 「あ?クロはどうした?」

 「そろそろ復活すると思うけど…」

 「え?」

 「クソったれ。まだ痛みが残ってやがる。」

 胸に突き刺さった槍を引き抜き、舌打ちしながら立ち上がるクロ。

 「総帥?!」

 明花が驚くのも無理もない。

 クロの最大の武器、それは死なないことだ。

 厳密には老衰以外で死ねない種族らしく、物理的な損傷は大小限らずすぐ治る。

 発動条件は死ぬ事、復活すことにかなりの体力が使われるため、基本は命に関わる傷のみを修復するらしい。

 酒屋でよく愚痴っていた。「俺が魔王軍総帥を任されたのは死なねぇからだ。…強いから死なないとかそんなんじゃなくて、物理的に死ねない。…そのせいで上の連中がめんどくせぇ危険な仕事を回してきやがる。」と。

 俺も間近で見るのは初めてだ。

 「なんで?死んだはずじゃ?!」

 「死んでほしいのか?」

 「違いますけど…」

 「「!?」」

 魔王が動き始めた。

 巨大な魔法陣を展開し、何かを召喚しようとしている。

 「何だ?!ありゃ?」

 魔法陣から出てきたもの、それは黒く巨大なドラゴンだった。

 「たく…めんどくせえな。」

 舌打ちをするクロの元へ自動車の3倍はあるであろう巨体が突進した。

 「魔王じゃなけりゃ…」

 クロがドラゴンの頭を大鎌で殴り上げた。

 「俺は死なねぇよ。」

 「ドラゴンは私らに任せて。」

 「分かった。…死ぬなよ。」

 「お互い様。」

 



 ドラゴンを夕達に任せ、魔王の前に立つ。

 「コロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセ」

 「少し待ってください。」

 「少し待ってろ。」

 白い光がミカを包む見込んだのと同時に、アレックスを黒い影が包む。

 光と影が消えたとき二人の姿が変わっていた。

 ミカは白い袴に二刀流。

 アレックスは迷彩服にスナイパーライフルを装備している。

 「魔王、死ぬ準備は出来たか?」

 「作られた運命、今正面から壊します!」





 「どう攻めますか?」

 クロの鎌をくらったドラゴンは怯んだもののたいしたダメージではなかったようだ。

 すぐに起き上がり空を飛び始めた。

 頭上から様子を伺っているのか?攻撃してこない。

 「全員傷だらけだからな。できるだけ素早く、楽に殺す。」

 「相手はドラゴンですよ。あの鱗は並の攻撃は受け付けないと聞きます。」

 「弱気になってんじゃねぇ。」

 明花の背中を強めに叩いたクロは大鎌を大きく構えた。

 「俺と夕で道をこじ開ける。明花、お前がぶっ殺せ。」

 「…俺が?…」

 「出来る?無理なら私が」

 「おい!戦場に来たからには役目を果たせ。それが出来ないなら帰るべきだ。無駄死にしたんじゃ兄貴に顔向けできないだろ?」

 そう言うとクロはドラゴンに向かって跳び、斬りかかった。

 「明花…やれる?」

 明花は自らの額を殴り、気合いを入れ答えた。

 「はい!」



 ドラゴンの爪による斬撃を避け、背中に大鎌を叩き込んだ。

 地面まで一直線に落ちたドラゴンの足に夕は、糸を絡ませ地面に固定した。

 これでドラゴンは飛べなくなった。

 「後は俺が。」

 短刀で、ドラゴンに斬りかかる。

 鱗に弾かれながらも何度も、何度も繰り返した。

 「くっ!」

 だが傷一つつかない。

 ドラゴンの爪がこちらへ振り落とされる。

 

 

 

 

 短刀でドラゴンの爪を受け止めた。

 刀身を切り裂かれそのまま吹き飛ばされる。

 「なぁ?お前の弟子死にそうだぞ。」

 「いえ、これでいいんです。今助けに行っても邪魔になると思いますよ。」

 「は?」

 地面に投げ出された明花は笑っていた。

 気でも狂ったのか?

 「クソ兄貴!遅えよ!」

 刀身が折れた短刀をドラゴンの胸に投げつけた。

 短刀はドラゴンの胸に当たり、ドラゴンに傷一つつけないまま地面に落ちていく。

 見込み違いだったようだ。

 あんなやけくそな戦い方だとすぐに死ぬだろう。

 「…俺達でやるぞ。」

 「いえ…言いましたよね?邪魔になるって。ここはあの兄妹に任せましょう。」

 地面に転がった短刀を忍者着の男が拾い上げた。

 「爪が甘いな投げるならもうちょい下だ。バカ妹。」

 「あ?!なんで白夜が?」

 死んだはずだ。確かに白夜は魔王に立ち向かい死んだ。

 「私ですよ。」

 かなり疲れ果てた様子でリンカが手を上げた。

 「…魔法か?」

 「はい。魔王を復活させた禁忌の魔法。普通は出来ないですし、やってはいけない。でも魔王復活に関する情報を集めていくうちに不明な点が理まりまして。…完璧では有りませんが」

 満面の笑みでリンカは言った。

 「やっちゃいました!」



 白夜と明花、二人が肩を並べて戦うのは何年ぶりだろうか。

 だが、師として…感動していた。

 教え子がここまで嬉しそうにしている。こんな二人をもう見れないと思っていた。

 「糸は後どれくらいで完成する?」

 「右手と翼。」

 「了解。久々にやるか。」

 「おう!」

 二人は同時に走り出した。

 ドラゴンにクナイを投げながら、攻撃を交わす。

 「翼は終わった。」

 「右手終わり!」

 二人はドラゴンから離れ、中指を立てた。

 「「終だ。」」

 ドラゴンは二人に飛びかかった。

 その瞬間、ドラゴンの体中の関節が逆方向に曲がり、骨が折れる音とドラゴンの悲鳴が鳴り響く。

 もがきながらも無理やり体を動かし前進していくドラゴンに吐き捨てる。

 「無駄だ。動けば動くほど糸は絡まりお前を襲う。」

 「斬る殴るが効かねえなら関節から折ればいい。」

 「まあ、お前ら下等生物にはわからないか。」

 先程から投げていたクナイは攻撃ではなく糸を絡ませるための手段だ。

 人間相手ならバレるだろうが、硬い鱗のせいで糸の感触に気づかないドラゴン相手だから可能だった戦術だ。

 ドラゴンは二人の手前で動きが止まり黒い影になって消滅していく。


 

 「…今度こそお別れだ。」

 「兄貴…」

 影になり少しずつ消えていく白夜に拳を出す。

 「…!」

 復活魔法が完全じゃないことくらいわかっていた。

 クロは生まれつきそういう種族、例外だ。

 魔王は復活した代わり暴走している。

 死んだ人間が完全に復活するなんて高望みはしない。

 「俺は…。」

 「兄貴!」

 笑顔で無理やり涙をこらえながら言う。

 ずっと言えなかった言葉を。

 「あんたを許す。…だから…」

 俺の拳に兄貴の拳が重なった。

 「ああ、ありがとう。楽しく生きろよ明花。」

 優しい笑みで白夜は消えた。

 

 

 

 「コロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセ」

 槍を構え、こちらを睨む魔王はいつ動くかわからない。

 凝った作を作る暇はもう無いだろう。

 「どう攻めます?」

 「…お前はただ真っ直ぐ突っ込め。飛んでくる攻撃は俺が撃ち落とす。」

 「…ノーガードでただ突っ込めと?」

 「成功する保証はどこにもない…ただ信じてほしい。」

 時間がないとはいえひどい作だ。

 いや、作と呼べる物じゃない。だが、それでもミカは俺を信じた。

 「乗ります。任せますよ。」

 そう言うとミカは指示道理に魔王に向かって一直線に走り始めた。

 「…」

 今まで数え切れない数の戦場で戦ってきたが、こんなにもあっさり命を任せてくれる者はいなかった。

 そこまで俺を信用してくれているのか?

 「嬉しそうだな。にやけてるぞ。」

 冷やかす悪魔に「集中しろ」と言い聞かせ、ライフルを構えた。



 ミカに向かって飛ばされる槍をライフルで撃ち落としていく。

 ミカは一切止まることなく走り続けていき、後魔王どの距離二十メートルまで迫っていた。

 「私達の出番無さそうですね。」

 明花の治療を終え、二人の援護に向かおうとしたがどうやら必要内容だ。

 「ああ、そのようだな。」

 「…頼んだぞ…アレックス!ミカ!」




 ミカと魔王の距離はかなり狭まった。

 悪魔の力なのかライフルの威力は凄まじく、槍を簡単に撃ち落とせる。

 だが、これでは足りない気がする。

 このまま、ミカと魔王が肉弾戦に突入して、ミカは魔王を倒せるのだろうか?

 確かに悪魔のライフルは威力は高いが、魔王には効かない。

 魔王への攻撃が通るのはミカの刀だけだ。

 ミカが魔王と接触したとき突破口が、ミカの考えがわかった。

 「なるほど…」

 ミカが持っている刀は一本だけだ。

 そしてもう一本は、足元に突き刺さっていた。

 

 

 

 

 アレックスさんの援護により最短ルートで距離を詰めれた。

 ノーガードでただ真っ直ぐ突っ込めと言われた時には正直どうかと思ったが、アレックスさんの支持に従うことにした。

 成功する根拠はどこにもない。

 少しでもアレックスさんが失敗すれば私は死ぬ。

 それでも、なぜか自然と体が動いた。



 

 「何故だ?何故奴を信じ私を殺そうとする?」

 真っ黒な世界にもう一人の自分がいた。

 ここには何度か来たことがある。

 ここは私の精神世界。

 辛い現実から逃げるために作り出した物だ。

 「私は逃げようとしていた。人を殺した現実から…そのせいで貴方を作り上げ、私はこの世界に逃げ込んでいたんです。」

 もう一人の私は怒りを表した。

 「それでいいだろ!戦場は辛い、痛い、悲しい場所だ!まだ大人にもなっていたないお前は逃げて当然だろ!」

 「ええ、そうですよ私はまだガキです。だからこそもう成長し大人にならなければならない。」

 「…」

 「何よりあなたにはこれ以上苦しんでほしくないんです。」

 「は?」

 拍子抜けしたような表情になったもう一人の私に別れをつける。

 「もう、大丈夫ですから…いままでありがとうございました。」

 「…そうか…私はもう楽になっていいんだな…」

 優しい笑顔を浮かべもう一人の私も別れを告げた。

 「もう、まけんるなよ!私!」

 「当然ですよ!」

 2つの精神は一つに戻りミカの瞳には輝きが戻っていた。



 アレックスさんはミス一つせず、私は無傷のまま自分の間合いまで距離を詰めることができた。

 そして

 「後は私が!」

 後は、魔王相手に私がどこまでやれるか。

 それが勝負の分かれ目だ。

 魔王から繰り出される槍を交わし、すきあらば刀を振りかざす。

 激しく槍と刀がぶつかりあいお互いの得物が小刻みに震える。

 ほぼ同時に得物を弾き返した。

 お互いすきだらけの体制になりどちらが先に体制を直して攻撃を繰り出すかのスピード勝負になる。

 だが、以外にもミカは自ら刀を手放しそのまま魔王の懐に入り込んだ。

 魔王の胸ぐらを掴み魔王の体重、力を利用し勢いよく引っ張りこむ。

 体制が悪かったせいか魔王は簡単に引き込まれ、地面に叩きつけられた。

 「グァアアアアア!?」

 「柔術ですよ。本来は刀が使えなくなった時に使う様にと習った技すが…あなたにスピード勝負で挑むよりは称賛があると考えました。」

 すかさず距離を取るため背後へ軽く跳ねる。

 魔王は素早く立ち上がり槍を振りかざしてきた。

 槍を交わしながら後ろへ下がって行き、先ほど手放した刀を拾い上げる。

 鞘に刀を入れ、大きく跳ねて魔王から距離をとる。

 鞘に入れた刀を握り低く構えた。

 魔王が間合に入った瞬間刀を引き抜きながら魔王との距離を詰め、魔王の首に向かって刀を振りかざした。

 古代から伝わる剣術、その中でも「居合斬り」と呼ばれる技だ。

 抜刀し、一撃で相手を仕留める。その動作はあまりにも早く、目で捕える事すら至難の技である。

 だが、魔王の前には通用しなかった。

 「倒せると思ったんですけどね…ですがこれで!」

 魔王は、左手を盾にし刃を防いだ。

 だがあたえたダメージが大きく、左腕を切り落とすことに成功した。

 「あなたの守りは崩せた!今です。アレックスさん!!」

 背後から近づく殺意に魔王は気づき振り返った。

 その瞬間一本の刀が魔王の胸を切り裂く。

 「とどめだ!魔王!!」

 

 

 

 

 ある村に一人の少年がいた。

 少年を含む村の人々は眩しいながらも平和で幸せな毎日を送っていた。

 そんなある日、「西の国」と「東の国」が戦争を開始したと情報が流れてきた。

 村はちょうど両国の間に位置するため、このままでは危険だと村長は判断し、村を捨て逃げることになった。

 そして村から出る当日。

 悲劇は起こった。

 「西の国」と「東の国」、両方の兵士が現れその場は戦場に変わった。

 かつて皆が笑っていた村が燃え、村の人々は皆、戦争に巻き込まれて死亡し、血まみれで地面に転がっている。

 少年は運良く…否、不運にも生き残りその風景に絶望した。

 そして少年は誓った。

 「必ず俺がこの戦争を終わらせてやる…」

 少年は草でも虫でも食べられるものは選ばず食べ、必死に体を鍛え上げた。

 魔術を学び、悪魔を自らの体に取り付かせ力を得た。

 力を手に入れた少年は仲間を集め、魔王軍を作り上げた。

 本名も本来の姿さえ捨て、「魔王」を名乗り、「西の国」「東の国」両方を追い詰めた。

 流石にまずいと思ったのだろう。

 「東の国」と「西の国」は同盟を結び魔王を殺しにかかった。

 魔王はもっとも信用出来る部下、「白夜」に敵になるよう命令し、魔王軍の人員のほとんどを解雇し、自ら不利な状況を作り上げた。

 何故そんなことをしたのか?

 それは魔王の目的は破壊でも復讐でもなく、終戦だったからだ。

 自ら圧倒的かつ残虐な人類共通の敵になることで戦争を終わらせようとしたのだ。

 結果予定通り人類は力を合わせ魔王を倒した。




 気づくと真っ黒な世界に一人立っていた。

 「今のは…魔王の記憶?」

 「なあ、異世界の人よ。」

 振り返ると、少年時代の姿をした魔王がいた。

 「私は間違っていたのだろうか?」

 「さあな。」

 「…」

 「だが、人間は失敗から学ぶ生き物だ。その点あんたは人間に戦争と言う名の失敗を学ばせた。誇っていいとは言わないが、無駄では無かったと俺は思う。」

 「そうか。」

 魔王は安心したように笑った。

 「ありがとう。異世界の人。」



 目が覚めると中央教会の医務室にいた。

 白いベットから体を起こし、周りを見渡す。

 「アレックス、よくやってくれた。」

 窓の枠に悪魔が座っていた。

 「ミカは?」

 「無事だ。…それより」

 悪魔は立ち上がりベットの横に置かれた椅子へ再び腰をおろした。

 「お前はあと数時間で死ぬ。」

 「…だろうな。」

 なんとなくわかってはいた。

 体は限界に限りなく近い状態だった。

 そんな体で悪魔の力を全身に身に着け本来、不可能な動きをしたのだ。

 逆に今生きていることが不思議に思う。

 「やり残したことがあるなら今すぐやっておけ。」

 「お前はどうするんだ?」

 「私は天界に戻ろうと思う。魔王を生み出したのは私だからな。必要だと判断しての事だったが、その責任はおうべきだろう。」

 「そうか…」

 「契約を守ってくれてありがとう。アレックス。」

 「じゃあな。悪魔。」

 お互いの拳を軽く当て別れを告げる。

 悪魔は窓から飛び消えた。

 

 

 

 

 悪魔と別れた後、次に現れたのは夕だった。

 「アレックス!目がさめたんだね。ミカちゃんが待ってるよ。行こ!」

 「ああ、そうだな。」

 俺の残された時間を知ってか、夕はどこか寂しそうな笑顔だった。

 夕に手を引かれされるがままについて行く。

 「なあ夕、一つ謝りたいことがあるんだが。」

 「いや、いいよ。あなたは気にしてるかも知れないけど、私には覚えがない程度のことだから。」

 「じゃあ礼を言わせてくれ。俺はお前の事を死んだ妻と重ねていた。その姿、話し方、性格がよく似てててな。」

 「へぇ愛してたんだね。」

 「愛していた。だがアイツはもうどこにも居ない。夕と俺の妻は似ているだけで別人だ。」

 「…」

 「だが、それでいい。俺は妻に似ているとか関係なく、お前に惚れた。」

 「え?!」

 驚いたように声を上げる夕。

 「冗談だ。笑え。」

 「ちょ!驚かさないでよ!」

 顔を赤くしながら怒る夕をなだめていると、手を離し立ち止まった。

 どうやら目的地に到着したようだ。

「ありがとな夕。お前のおかげで大切な者を思い出せた。」

 「アレックス!」

 「ん?」

 振り返った瞬間、夕が飛び込んできて、俺の唇に唇を重ねてた。

 「!」

 「私は貴方にとって妻の影でしかないかも知れないけど…私は貴方のことが好きだよ。」

 「お前…」

 「ほら!早く行かなきゃ!」

 背中を押されあるき出す。

 さっき、「妻に似ているとか関係なくお前に惚れた。」と言ったがあれは正直、本心だったのかも知れない。

 ミカは中央教会の中庭にいた。

 季節外れにも関わらず満開の桜の木の下で。

 

 

 中央教会の中には一本の立派な木が桜の花を咲かせている。

 その下には愛する娘が立っていた。

 「あっ!アレックスさん!…いや‥‥最後くらい父さんってよんでもいい?」

 「‥バレてたのか‥」

 「魔王に悪魔が関係していると聞いてピンときてたんだ。大悪魔の外見は見る人によって違うけど、共通点があって」

 「愛した人の姿。だろ?」

 「うん。私の場合は父さんだった。」

 まだ家族以上に愛している人間がいないことに安心した。

 もうすぐ死ぬというのに、娘を取られたくないと考えてしまう。

 体がいよいよ動かなくなってきたので、木の根本に腰をおろし背中を任せる。

 「出来れば父さんから言ってほしかったけど。」

 「そりゃこっちの台詞だ。気ずいてんなら、俺がわざわざ下手な演技をすることも無かっただろ。」

 「ふっ」

 「アハハハハハハハハハ!」

 二人で笑った。

 「どうやら、親子揃って不器用らしい。」

 「そう、みたいだね。」

 笑いすぎたせいなのか、別れが悲しいからか涙が出てくる。

 笑い終わるのと同時に首にかけたドッグタグをミカに渡した。

 「俺のお守りだ。」

 「良いの?」

 「もう死ぬから関係ないだろ。‥それにこれにこれには俺の家族の名前が彫られている物だ。」

 口から血が垂れていた。

 袖で拭き取りながら気づく、感覚が無くなった。

 いよいよ終が近いらしい。

 ドッグタグを見るミカに説明する。

 「一番下の『Alex』は俺の名前、その上の『Arisa』は俺の妻、つまりミカにとっては母親だな。そして」

 「『Alice』はわたしの名前。」

 「そうだ。べつに無理して名乗る必要はない。‥ただ覚えていてほしい。」

 「わかった。‥だから最後はこの名前で読んでよ。父さん!」

 力が入らない。

 だが、せめてこれくらいの願いは、叶えてやらなきゃな。

 精一杯の笑顔で言った。

 「幸せになれよ。『アリス』。」

 「うん!…もう大丈夫だよ。だから安心して。」

 泣く分けには行かない。

 目の前でアリスが涙をこらえているのに、父親の俺が泣いちゃいけないだろ。

 そう自分に言い聞かせ、涙をこらえながら、精一杯の笑顔で最後を迎えた。


 

 「さようなら。父さん。」

 不器用で口下手な世界の‥‥いや私だけの英雄は、十年と数カ月越しに娘と交わした約束を果たし、眠りについた。



 魔王との戦いから数カ月がたった。

 街の修復作業も進み、国は活気を取り戻している。

 元魔王軍への疑いは魔王討伐

に大きく貢献した事を理由になくなりそれぞれ元の生活に戻った。

 「じゃあな!」

 「本当に行っちゃうんですか?」

 荷造りを終えた明花と最後の別れを告げている。

 魔王との戦いで心変わりをしたらしく突然、旅に出たいと準備を進め今にいたる。

 「当たり前だ。前も言ったろ。兄貴との約束を思い出したんだ。もう、兄貴は居ないがな。」

 「…」

 「それに、いつまでもアリスの世話になってたら兄貴が化けて出てきちまう。何よりこれが俺よやりたいことだし。」

 「…分かりました。ただし、気をつける事。これは絶対ですよ!」

 「分かってる。じゃあな!」

 家を出ていった明花の背中を見て、自身も未来を考える。

 だが、何も思いつかない。

 首に下げたドッグタグを見る。

 「私はどうすればいいのかな?父さん…」



 明花さんがたびに出て数カ月、いよいよ進路を決めなければならない時が来た。

 自分以外の生徒は皆、何かしら進路を決め、勉強を始めていて、教室は珍しくペンを動かす音が鳴り響いていた。

 「ねぇ」

 何時ものように隣にはランが座っていて、その手元には警備兵入団試験の過去問が置かれていた。

 「アリスは進路決めたの?」

 「いや。まだ決めてない。やりたい事が思いつかないんだ。」

 「そろそろ決めなきゃ不味いよ。いい仕事は早めに決めなきゃ先を越されちゃうって先生言ってたし。」

 「う〜ん。」

 そうは言ってもわからない物は分からない。

 いまま私は自由を求め続けた。

 自由のために戦い続け、やっと手に入れた自由。だが、自由という漠然な夢であるがゆえに具体的な物がわからずにいた。

 「アリスの夢って何?」



 それからずっと考えた。

 私の進路を、夢を、やりたい事を。

 父さんの墓参りに中央教会へ向かった。

 父さんに自分の夢を伝えるために。

 中央教会の中庭の中央に一つの墓がある。

 墓には『Alex』と掘られている。

 「父さん!これ!好きだったよね!」

 和菓子の入った袋を墓の前に置く。

 和菓子は父さんの好物だ。

 「私、決めたんだ。…いや見つけたのほうが正しいかな。」

 墓についた砂を払いながら続ける。

 「私のこれからの事。…私は一度戻ろうと思う。私が生まれた世界に!」












 病院のような真っ白な施設。

 普段は静かなその施設はサイレンが鳴り響き、真っ白な壁や床は血で真っ赤に染まっている。

 白衣を着た科学者や武装した警備員が地面に転がっている中、2つの小型の鎌を両手に持った青年がつまらなそうにため息をついた。

 「…」

 青年の顔はフードで隠れており、カメラには映らないが、念の為に天井に設置されたカメラを警備員から奪った銃で破壊した。

 「動くな!!」

 背後の扉が開き武装した警備員が青年へ銃口を向ける。

 「まだいたんスね。」

 青年は振り向くと同時に左手に持つ鎌を、警備員へ投げつけた。

 鎌は警備員の喉に突き刺さり、一人を殺傷した。

 「撃て!!」

 警備員は引き金を引いた瞬間、まるで瞬間移動でもしたかのように青年は警備員との距離を詰めた。

 「な!?早すぎだろ!!?」

 警備員の喉を鎌で切り裂く。

 「俺は早くないっス。あんたらが遅いんスよ。」



 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 気分次第で「逆転移」編?を書こうと思ってます。

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