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五話「遭遇戦」

 トシアキの胸に銃弾が炸裂する寸前、胸から薄い青色の液体を噴出した。

 その空色の液体は銃弾がトシアキの身体を貫く寸前で受け止め、かろうじて身体を守った。

 トシアキは銃弾の勢いを踏みとどまって堪える。堪えきった後、その胸元からは撃ちだされた銃弾がそのままの形でぽろりと落ちていった。

「分かっていたが痛いな」

 トシアキは銃弾を浴びながら平然と立っていた。

 それにはストーマ―達も唖然としている。

「アンタにも苦しみって奴を味わってもらおうか」

 トシアキが腕を振ると、急にストーマ―のリーダーが苦しみ始めた。

 なぜなら、顔に張り付いた粘液が自律的に動き出し、リーダーの口腔に殺到し始めたからだ。

 そうして口腔に溜まった粘液は気管へと至る。すると、どうなるか。人間は溺れるのである。

「ゴボッ、ゴボボ」

 リーダーは陸上で溺れるという奇妙な感覚を味わいながら、喉を押さえせき込み、苦しむ。それでも助かることはかなわず、こん倒してしまった。

 周りのストーマ―はその異常な現象を、唖然とした表情で見ていることしかできなかった。

「よくやった。トシアキ」

 その様子を見ていたミアが声を張り上げた。

「統領が命じる。たかが一般人五人、改造人間の力を持って蹂躙せよ。戦ってデュラハンの威厳を示せ!」

 ミアの啖呵に、トシアキは統領の面影を見たような気がした。

「―――了解した」

  トシアキが構えると、案の定残り四人のストーマ―達も反応した。

「こ、この化け物め!」

「近づくんじゃねえ!」

 四人はそれぞれ叫び、言葉と共に銃のトリガーに指を掛ける。

 連射、連射に次ぐ連射の弾丸の嵐と罵詈荘厳がトシアキに浴びせられる。撃ち続けた銃はやがて弾切れを起こして、やっとその場の騒音が収まった。

 トシアキは銃弾の雨を受けてなお、立っていた。再び身体に淡い青色の液体を噴出させ、銃弾を全て受け止めたのだ。

 痛みは先ほどの比ではないが、まだ戦える。

 トシアキから染み出し、彼を包み込んだそれはただ滴るだけではなく、蠢き。ある種のモンスターに似ていた。

 そう。それは。

「新生デュラハン改造人間、コードネーム、スライムガイ。さあ、新生デュラハンの初仕事だ」

 トシアキは名乗りを上げ、すぐに行動に移した。

 トシアキは低く、鋭く駆け出す。

 ストーマ―達は己の危険を察知し、再び銃を握りしめる。しかし弾は出ない。先ほど、全て撃ち切ってしまったのだ。

 ストーマ―らが慌てて弾倉を変える間、トシアキは目の前に接近する。

 まずは近くにいる一人だ。そいつは他の三人よりも早く弾倉を取り換えて銃口をトシアキに向けていた。

「喰らえ!」

 引き金が絞られる。その寸前、トシアキは手の平にためたスライムのひと掬いを銃に浴びせた。

 すると絞り切ったトリガーにより、銃口の先から弾は、出なかった。

 飛沫したスライムが弾の排莢口のあるボルトを塞ぎ、中にある撃針の動きを止めてしまったのだ。

 慌てるストーマ―を傍目に、トシアキはゆっくり近づいて肘鉄をストーマ―の顔面に見舞った。

 ストーマ―の男はその一撃で鼻を潰し、流血しながら崩れ落ちた。

 残り三人。

「撃て! 撃て!!」

 残りのストーマ―三人が弾倉を取り換えて、慌てて銃弾を浴びせてくる。

 トシアキは倒れた男から飛びのくと、その足元で地面が爆ぜた。

 トシアキは飛びのきながらも、身体に弾丸を受ける。それを再びスライムの硬化作用、ダイラタンシー効果によって銃弾を止める。

 けれどもやはり勢いだけは殺せず、弾の衝撃にトシアキは平静を崩した。

 それでも銃の連射を耐えきったほどの痛みはない。

 トシアキは再び走り出す。

 今度は低く迫るかと思わせ、高く跳躍して銃弾を躱す。

 見上げる空中でトシアキは両の手の先からスライムを伸ばす。それは鞭のようにとぐろを巻いて伸び、三人のストーマ―のうち両端の二人を捕らえ、両腕を拘束した。

 トシアキは地上に降り立つと同時に、スライムの鞭を強く握る。鞭を強くひき、背負い投げるように肩にかけた。

「どっせい!」

 ストーマ―の二人はトシアキの凄まじい腕力で強くひかれ、宙を舞う。

 両の腕が拘束されているため、二人は空中を散歩した後、受け身もとれぬまま地面に殴られた。

 残るは一人である。

 最後の一人となったストーマ―は間の悪いことに銃が弾詰まりを起こして、必死にスライドを上げ下げしている。

 トシアキはそんな様子のストーマ―に一切躊躇することなく。伸びたままのスライムをストーマ―に向けて振り、銃に付着したスライムが彼から銃を取り上げてしまった。

「ミュ、ミュータントめ! 化け物め!」

 トシアキは眉をひそめる。ミュータントのどこが化け物だ。銃を持ったアンタ達こそ野蛮な獣のような存在ではないか。

 心の中で糾弾しながらも、トシアキは左手を振り上げ、手の甲でストーマ―の顎を打った。

 軽く振ったにも関わらず、ストーマ―は顎の振動が脳まで至り、脳震盪を起こしてあおむけに倒れてしまった。

 最後の一人を倒し、やっとその場で抵抗するものは誰もいなくなった。

「任務、完了」

 トシアキは自分から戻ってくるスライムの欠片を回収しながら、そう呟いた。


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