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十三話「豚男とスライム男」

 トシアキとブギーが向き合う中、二人の戦いは拮抗していた。

 トシアキの気道を塞ぐ攻撃はブギーの尋常ならざるくしゃみで無効化され。ブギーのハンマー攻撃はことごとくトシアキに避けられていた。

 トシアキは攻撃手段を変える。ブギーとの距離を詰めると、革のベルトを引き裂けるほどの膂力を持ったトシアキの掌底がブギーのみぞおちに吸い込まれる。

 手の平が衝突し、人体を殴る生々しい音がフロアに響く。手ごたえありだ。

 しかし、ブギーは平気な顔をして立っている。

「何かしたか?」

 触ってみて分かったことだが、ブギーの身体は変化によって強靭な筋肉が厚い脂肪の装甲を纏い、硬い。

 これでは大抵の衝撃は威力が殺される。

「こっちからいくんだぞ!」

 ブギーは雄たけびを上げ、ハンマーの槌を落とす。

 それをトシアキが躱すと、ブギーは続けてハンマーを持ち上げる。そしてすぐまたハンマーを落とし、連続攻撃を繰り出す。

 連続、と言っても攻撃と攻撃の間は長く。避けること自体は容易い。これなら少なくとも、すぐに当たることはない。

 ただ、これではジリ貧だ。方法を変えなくてはならない。

 トシアキは防御に極ぶりのスライムを攻撃に転じることにした。

 スライムは衝撃を与えることで硬化するが、与えずともある程度硬化させることができる。腕からスライムを垂らし、続いて硬化させることで長い刃をを造りだした。

 これで、即席の武器のできあがりだ。

 トシアキはブギーの攻撃の合間を縫って斬りかかる。刃は長く、いとも簡単にブギーの衣服と肌を切り裂いた。

 だが、それまでである。

 刃の鋭さは十分でなく、ブギーの厚い脂肪を斬ることはできない。つまり、薄皮一枚しか傷つけることができなかった。

 それでも、トシアキは何度も斬り結ぶ。相変わらず細かい傷はつくものの、ブギーに深刻なダメージは与えられず、徒労に見えた。

 刃もブギーを傷つけるたびに短くなっていき。消耗は激しかった。

 一方、ブギーの方はトシアキの動きに慣れたのか。ハンマーの振りが機敏になっている。時間と共に、これだけ順応しているのならトシアキの身は危ない。

 そんな時、トシアキの視線が揺れる。

 攻撃を食らったわけではない。足元にあった障害物に足を取られて姿勢を崩したのだ。

 それはバズーカを撃った際に出た事務机の残骸だった。

「くっ。こんな―――」

 途端、トシアキは横から殴られた衝撃に襲われる。

 ブギーのハンマーだ。どうやら腹に一撃重たいものをお見舞いされたようだ。

「当たった! 当たったぞ!!」

 ハンマーの打撃はかろうじてクリーンヒットを避けている。とはいえ、元の攻撃が常人のそれとは違う。

 トシアキは衝撃に身体を浮かせ、事務机や椅子の残骸の海に吹き飛ばされた。

「―――っち。痛いな」

 口で言うほどブギーの一撃は安くはない。内蔵の、おそらく胃を含めて出血したらしく、口腔内に血が溢れてくる。

 トシアキは壊れた事務机に腰かけたまま、口角に伝う吐血を拭った。

「どうだ、スライム男。今なら降伏を認めてやるぞ。お前は強い。俺の部下になれ」

 ブギーは勝利を確信したのか、トシアキに降伏勧告を行う。

「まさか、俺の従うのは悪の組織デュラハン、それ以外に考えられないな」

 トシアキは当然のごとく断る。

 それに、勝負はまだついていないのだ。

 ブギーは手心を与えるにはまだ追撃が足りないと判断したのか、座っているトシアキに迫る。

 トシアキは座ったまま手をブギーにかざした。

「そろそろ仕込みができあがっているはず、だがな」

 トシアキの手が握りこまれる。

 すると、急にブギーの様子が変わる。

 顔は青ざめ、手には震えが見え、立っていることさえ難しい顔をしている。

 もちろん、不調を訴えたブギー本人は当惑した。

「な、何をしたんだぞ!」

「大したことはしてない。刻んだ傷にスライムを流し込んで、身体の平衡を崩した。内蔵系、血管系は微妙な圧力や濃度で成り立っている。それを弄ったのだよ」

「いつのまに!卑怯者だぞ」

 ブギーは負け犬の遠吠えと共に膝を崩す。手に持ったハンマーを落とし、ハンマーの柄は鈍い音を立てて倒れる。

「卑怯は悪の組織の誉れ。それにスライムの量さえあれば心停止させる小細工もできる。加減をしてくれたと感謝するんだな」

 トシアキは動くことのできないブギーに近づく。そして、そっとハンマーの柄を掴むと容赦なく持ち上げた。

 重量級のハンマーがあまり体格的に恵まれていないトシアキの手によって、宙に浮く。

「これは俺からの餞別だ」

 トシアキはハンマーを振り上げ、容赦なくブギーの顎を打つ。

 ゴルフの球を打つように骨が弾み、軽い乾いた音と共にブギーの首があらぬ方向にぶれた。

 ブギーはその一撃に意識を狩り取られ、こん倒した。

 トシアキはハンマーを放り投げると、やっと一息をつく。

「それで? まだ戦う気力のあるやつはいるのか」

 トシアキはブギーの身体から染み出す、血の混じった薄紅色のスライムを回収しつつ、訊いた。

 残っていたストーマ―達は皆顔を見合わせて何かを悟ると、各々に武器を地面に放り投げて膝をついた。


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