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十二話「豚男」

 ストーマ―から全財産を奪っておきながら、あくまでストーマ―退治に拘るのはミアの一存によるものだ。

 結果的には仮本部の近くに恨みを買ったストーマ―の本拠地をそのままにするのは危険であるし、反対する気はない。

 ただミアは、そんな打算的なことよりも自分が襲撃されて屈辱を受けたことに痛く気にしており、頭から潰すという確固たる意志を貫きとおそうとしている節がある。

 観察している限り、このミアという少女。我を通すと言うことに躊躇しないタイプのようだ。

 実際のところ、統領が優柔不断で意思が弱いのでは組織を引っ張ることさえ難しい。それはそれで、統領として適切な能力と言える。

 現在、トシアキはそんなミアの命令の通り、囮を駆使した本拠地襲撃を敢行しているところだ。

 通りがかった通路で遭遇した居残り組のストーマ―は後ろから、能力のスライムを用いて窒息気絶させ。トシアキは奥へと進む。

 最終的にトシアキは、大きな事務室のようなフロアにたどり着いていた。

 扉に付いている小さな小窓から中を覗くと、大柄な男とその部下の男たち数人が話をしている。

「さて、どう入るべきか」

 トシアキは思案する。コソコソ隠れて近づいても、どこかで発見されるし。ここはミアをあやかって派手に登場してみようと、結論付けた。

 安っぽいスチール製の扉が開け放たれ、トシアキは堂々と名乗りを上げた。

「覚悟しろ、ストーマ―。新生デュラハン改造人間、スライムガイが今から―――」

 トシアキが名乗りを終える前に、ストーマ―達は迅速に行動していた。

 特にストーマ―のボスらしき大柄な男がその手に、丸太のようなものを背負い始めたのが見えた。

「バズーカ砲!?」

 トシアキは叫び、大柄な男のその筒が火を噴く寸前に横へ跳ぶ。

 バズーカのバックブラストの勢いで、珍しく残っていたガラス窓が内側からの圧力で粉雪のように砕けて散った。

 そして一瞬遅れて弾着、ガラスのなくなった窓は窓枠ごと外れて下界へ落ちていく。

 トシアキはバズーカの弾に直撃することを避け、爆発で飛び散る木片や鉄片から身体を覆ったスライムにより守っていた。代わりに爆発の威力で身体に被さった事務机や椅子に押しつぶされ、苦しみながらもそこから這いずり出た。

 ストーマ―達の様子を見ると、彼らもバズーカのバックブラストのあおりを受け、わずかに混迷していた。それでも、各自銃を持ち隊列を乱していない。

 大柄な男もやりすぎたことを自覚したのか、バズーカを捨てて自ら丸腰となった。

「さっきの奴は死んだか?」

「避けた様に見えたぞ。対戦車用の徹甲弾だ、破片で死んでいなければ生きているかもしれんぞ」

 ストーマ―は口々に言葉を交わす。聞いている限り、死んでくれたと思わせるのは難しそうだ。

 トシアキは意を決すると、自らストーマ―達に身体をさらした。

「いたぞ!」

「撃て、撃て!」

 トシアキは身体に銃弾を浴びる。だが、それも再び身体を覆うライトブルーのスライムが硬化して受け止め、衝撃だけが身体を貫く。

 ストーマ―達は一斉掃射を受けても、びくともしないトシアキに驚きたじろいだ。

「お前もミュータントか。ミュータント同士戦うのは久しぶりだぞ」

 大柄な男は周りのストーマ―達に撃ち方を止めさせ、前に出てきた。

 その腕には先ほどのバズーカとは違い、古典的な近接武器のハンマーを持っている。

「名乗りを上げたその勇気、このブギー様は評価するぞ。そしておののけ、このブギー様の変身を!」

 ブギーはそう言うと身体に力を込める。すると、筋肉が常人のそれとは明らかに違うほど隆起し、膨らんで体格を更に巨大なものにしていく。

 ブギーの身体が風船のように膨らみ終えると、そこには別人のような姿が現れていた。

「… …豚か?」

「豚は違うぞ。オークだブー」

 語尾はわざとやっているのだろうか。

 トシアキの目の前に出現したのは人間大の肉まんを三つ積み重ねたような、豚鼻とイノシシのような牙が特徴的なミュータントであった。

 トシアキが知る限り、肉体が人間と異なるミュータントは大体日常生活を不便なく送るために変化するよう進化している。

 単に巨大な人間のミュータントもいれば、実在架空を問わず何らかの生き物に近い姿を取るミュータントもいる。

 ブギーはまぎれもなく、後者のタイプのミュータントであった。

「ブーは冗談だぞ」

 そして、案外ユーモアというものをわきまえているようだった。

 気を取り直し、トシアキは片手の手のひらの中にスライムの液体を溜める。ブギーの方はその挙動が隙だと判断したのか、手に持ったハンマーを勢いよく振り回す。

「どすこい、だぞ」

 ブギーは扇風機の羽のように回したハンマーの槌の部分を振り下ろす。

 トシアキは咄嗟に後ろに跳んで躱すと、槌がフローリングの床を盛大に割る。

 おそらく、まともに受ければ大砲並みの威力だ。トシアキのスライムでも勢いは殺せず、頭をせんべいみたいに押しつぶされて絶命してしまうだろう。

 トシアキはその光景を思い浮かべ戦慄するも、手に掬い取ったスライムをブギーの顔目掛けて投擲した。

 狙いは正確だ。的が大きいのもあるが、トシアキのスライムはブギーの大きな鼻と口をふさぐように拡がる。

「ぶぶぶ、なぶだぞ」

 ミュータントでも人間でも、重要な器官の構造は一緒だ。鼻の奥には、口の奥には呼吸をするための肺があり、途中には気管が存在する。

 それを塞いでしまえば、もうこちらの勝利は確定だ。

 ブギーは口腔と鼻腔に侵入する異物に気付き、慌てる。しかし、もう遅い。

 トシアキが勝利を確信した時、異変は起きた。

「ぶぶ、ぶえっっっくしょん!!」

 人並みではない、台風の突風のような巨人のくしゃみがフロア全体を震動させる。

 くしゃみは異物に対する正常な生理現象だ。ただ規模が違う。

 普通ならくしゃみ程度では離れないスライムも、あまりの風圧で正面にいたトシアキの顔面に吐き戻される。

「き、きたねえ!」

 何度か人の粘膜に張り付いたことがあるスライムとはいえ、これは非衛生的と言わざるを得ない。

 ブギーはそんなこと知ったことかと主張するかのように、自分の鼻をすすっている。

「なんか鼻に入ってきたぞ。これがお前の必殺技か、スライム男。大したことないな」

「でかい鼻が気になっただけだよ。口うるさいとまた塞いじまおうか」

 とはいえ、自分の攻撃が効かなかったことには正直ショックだ。こいつは中々手こずるかもしれない。

 トシアキは見た目以上の強敵ブギーを目の前にして、次の攻略手段を模索し始めた。


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