夢硝子1 彼とテニスと白と
僕にとって夢は水中に沈むガラスのかけらのような感じがするのである。
白い建物がある。外から見たわけではないけどおそらくそうだ。部屋が真っ白だからだ。床も壁も何もかも。
僕も白いのではないだろうか。ふと自分の体を見下ろす。いや、そんなことはなかった。ちゃんといつもの私服を着ている。色が付いているのはわかるがどんな服かまでは認識できない。
椅子に座っているようだった。白くて表面が動いているが椅子だ。テーブルもある。こちらは普通のテーブルらしい。
人が部屋に入ってきた。顔は知り合いと教授の顔が混ざってくるくる入れ替わっている。うん、違和感はない。
≪テニスをしよう≫
どう聞いても日本語とはかけ離れている言語だ。けれど理解できる。
≪ああいいよ。≫
なんだ、僕も喋れるじゃないか。しかし僕にはテニスの経験がまるで無い。それどころか相手にもテニスとの接点は正直無いように思える。けれど、今の僕はテニスができるようだった。
ところが、僕らは釣りをし始めたのである。彼は釣りをテニスと認識しているようだった。部屋の床に僕らは釣竿を垂らし、白い床から黒くてうねうね動く塊を沢山釣り上げたのである。
≪一つにつき一点だからな。≫
彼は笑いながら僕に言った。
彼の顔はまた変わったらしく僕の従兄弟の顔をしていた。
僕は彼に微笑みつつ、内心彼につけられた点差をいかに埋めようと計算していた。。。
ボールペンを止める。今日はここで目が覚めたのだ。現実では絶対にありえない。しかし、彼と〝テニス″をした事実は僕の手帳に文字として残った。僕はまた煌めくかけらを拾えたようだ。彼の笑顔はなかなか眩しかった。次は負けないぞという少しの悔しさともに。