プロローグ ~初めての異世界転生?〜
―プロローグ―
俺が玄関のドアを開けるとそこは俺が見た事もない場所…空間?だった。
「おめでとうございます。あなたは異世界転生の対象者に当選しました!」
「はぁ。」
俺が気のない返事をすると女神(仮)は少し不服そうな顔をする。
「ンン?コホンッ、えっとですね?軽く説明を致しますと、あなたはこれから異世界に行くことができます。その際なんでも好きな能力、例えば『超怪力になる』とか『不死身になる』とかを得ることができます。あとはのんびり田舎で暮らすのなんかもいいですねぇ。仕事なんか放棄して自由気ままな異世界ライフ。…あーうらやまし。あたしも仕事しないで生きていけたらなぁ…」
後半から女神(仮)の欲望だだ漏れだな。
いやまぁそれにしたって
「現実に帰らえてはもらえないんですか?」
「…それは無理なご要望ですね。いちど異世界転生の当選者に選ばれた方は強制的に異世界に行くことになっております。」
なんでそんなことに。
「規則ですから。」
!!心が読めるのか…
「そりゃ女神ですもん。」
女神(仮)って便利だな…。他にも現実に帰りたいって言ったやつはいないのか?
「心の声で喋ろうとしないでくださいな。
…まぁそんな人は滅多にいませんね。そもそも異世界転生の対象に選ばれた人って現実で苦しい思いをしてもう死にたいって思った人が大半なんですよ。だから現実に未練もクソもない…みたいな?」
ちょっとキャラブレかけてるぞ。しっかり女神(仮)しろよ。…まぁ確かに俺も現実が好きなわけじゃないけど死にたいとまで思ったことは無いなぁ。なんで俺が選ばれたんだ?
「だぁから、心の声で語りかけてこないでくださいって…。そうですねぇ。あと他に原因があるとしたら偶然事故に巻き込まれて死にかけてるとかですかね。」
異世界転生の条件って意外とヘビーなもんなんだな…。でも俺は玄関のドアを開けただけでここに繋がったんだけど?
「だから心の…もういいです。っていうかそんなことより、その女神(仮)っていう表現の方が気になってきました…。それじゃあドアを開ける際に何か異世界に関することを強く思ったんじゃないですかね。そんな感じでゲートが開くこともあるし?」
投げやりだなぁ。それでいいのか、女神(仮)。
じゃあきっと俺が昨日徹夜でしたゲームの影響かなぁ。確かに朝出る時は学校行きなくねぇ、一日中ゲームしてぇって思ってたからなぁ。
「このままだとクズニートにまっしぐらの考え方ね。まぁ条件なんかどうでもいいわ。何の能力にするの?」
いや…だから行かないって。断る。っていうか敬語すら使わなくなってきたぞ。ゲームでよくある女神(仮)の威厳とは一体。
俺が心の声でそう返信(返答?)すると女神(仮)はプルプル震えだした。豊満なお胸である。
「…嬉しくないんですか?異世界召喚ですよ?自分の知らない世界に行けるんですよ?あなたのことを縛り付けていたこのクソみたいな社会から抜け出せるんですよ?なんでそんなに反応が薄いんですかぁ!ちょっと頭おかしいんじゃないですか?頭イっちゃってるんじゃないんですかぁ!?」
いや怖いわ。なんで俺がこの世界に縛り付けられてる設定になっちゃってるんだ。そして何故女神(仮)のくせに現実を知ってるんだ…。
…まぁ嬉しくない訳では無いんですけどね。
なんというか、もうちょっと現実にいたいというか。現実を噛み締めたいというか。高校生ってちゃんと現実と向き合わないといけない大切な時期だと思うんですよ。
「達観してるのね。」
そうでもありません。
「そうやって自分を客観的に見つめることができて、やるべきことを認識できてるのを達観してるっていうと思うの。私が君ぐらいの頃はもっとこう…激しく…恋に燃えていたというのにっ…なんで今はこんな薄暗いところに一人ぼっちでいつ来るかもしれない当選者を待っているのかしら…ブツブツ。」
ブツブツって口に出さなくていいと思うんです。
「いーーーのっ!!うるさいっ!揚げ足ばっかり取るんじゃないわよ!ほらっ!さっさとどんな能力が欲しいのか言いなさい!なんでも好きな能力あげるから!その能力持って異世界ライフしてきなさい!」
あーうるさい。分かりましたよ。じゃあ…
「『今後異世界転生イベントが起こった場合いつでも好きな時に現実に戻れる能力』ください。」
「分かったわよ!…はいっ!あげたから。さっさと異世界に行ってがんばってきなさ…はい?」
―その女神らしき人物が自らの大きな過ちに気づいた時、俺は既に現実に戻っていた頃だった―