向かい合う道
こんばんは。
今週の土曜日、オープンキャンパス一緒に行ってくれませんか。
お盆休みが見えてきて、暑さに体力が削られながらも職場がそわそわしてきた頃、榴からのLINEが来た。実に、一ヶ月ぶりだった。一人で考える時間も必要だろうと思ってわざわざ連絡しなかったけれど、彼からも今まで連絡は来なかった。
進路のことを話してよ、と送ったことを、榴は無視はしないだろう。その上手な解決策として、オープンキャンパスに誘ってくれたのかもしれない。
その有名大学は、二人の家よりももっと都会の方にある。オープンキャンパスか学祭かどちらかにはみんな行っているかも、というくらいの規模の大学だ。榴がどんな進路を希望しているのかはわからないが、学科数も多く、オープンキャンパスに行くことに疑問は覚えないような大学だった。
「バーベキュー、横井さんは来ないっすか」
「うん……予定があって」
坂巻はいつも昼は外に出ていなかったろうか。コンビニで買ったおにぎりとサラダ、といういつもの昼食を持ってランチルームに行こうと席を立って、すぐに目が合った彼は、ふーんと少し探るように首を傾げる。
「彼氏?」
「いやいやいや、違うから」
好きにはなれないタイプという評価は変わらないままでも、席も近くて、既に積極的に世話を焼いてくれる坂巻と遼乃は、そこそこ親しくはなっていた。適度な爽やかさと気さくさを兼ね備えた彼は、一年目にも関わらずフロアのほぼ全員とそれなりの人間関係を築いている。遼乃のキャピキャピした同期とも案の定仲良くなって、バーベキューなんて企画したらしい。
「なんだ、篠井さん達が、合コン誘っても来ないから、彼氏でもできたんじゃないかーって言ってたんですけど」
「えっ、何、それで探るようなこと言ったの?」
同期の彼女らはどこで知り合ったのか、社外の男性と合コンをセッティングするのが趣味のようなもので、当然、彼氏と別れたと告げてから、誘われることもあった。けれど、ようやく自分の中で、他人の中でも、終わったことにできて、次を探すような気持ちにはまだなれていなかった。
坂巻は篠井ーー遼乃の同期とも飲みに行ったのだろう。バーベキューも、そこで話が出たのかもしれない。
「引きずってるのかもしれないけど、前を向かなきゃ乗り遅れるよーって、言ってあげてって言われました」
最初の頃、少し皮肉屋な坂巻に声をかけられると肩が強ばっていたのを知ってか、適度に気の抜けた態度で雑談をしてくれていた彼も、突然にその爽やかな皮を全身に被る。かえって嫌味ったらしいことを、自分でもわかってやっているだろう。わざと、気に障るような言い方をして挑発しているんだ。
「篠井さんはともかく、坂巻くんに言われる筋合いはないです」
けれど、遼乃は挑発に乗ってしまう。坂巻には関係ないのだ。仕事もできて、人付き合いも上手い坂巻には。
狙った反応が得られて満足したのであろう、背中の方から坂巻が笑い声を堪える声が聞こえたが、遼乃は今度は無視をして事務室を出た。
「いいじゃん別に。先輩ではあるんだし、先輩に大学のこと相談乗ってもらってたってことにしようよ」
「お前、言ってること変わってねえか」
模試の志望校欄は、母親が薦めている大学と、匠が書いていた大学と、後は名前が有名な大学を適当に書いて埋めた。母親の頭の中に地元の大学に行ってほしいという気持ちがあることは知っている中で、それらを考えることから目を背け続けていたと、改めて思い知らされた。
「いやあ、俺も青春を生きる男子高校生だからさ。横井さんがあんな人だって知ったら、榴にとっての幸せがそこにあるかもしれないって思っちゃいますよ」
昔からマセてる匠は、適度にチャラくて、あの女子がかわいいだの付き合いたいだの言う割には、彼女ができたことがない。本人曰く、年上とか、他校とか、幻想を抱ける相手でないと本気になれないらしい。そして、遼乃に対しても勝手に妙な過大評価をしている。
「高校生に見える、って言うのさ、見た目がとかじゃなくて、ちょー純粋そうだったじゃん。めっちゃ年上なのに、守ってあげたい系というか。榴が嫌いなタイプの大人じゃないし、頼りにしたっていいじゃん」
「……大人は」
嫌いだ。自分の都合ばかり。遼乃だって世間体を気にしてお返しだのなんだのと言い続けているかもしれない。そうだったとしたら、公園にも全然行かなくなったにも関わらずオープンキャンパスに誘おうだなんて話している榴は、この逢瀬に何も責任を負っていないことになる。そんなはずはないのに。
「……少なくとも、俺以外の誰かにもちゃんと話せたら、悪いことじゃないと思うけどな」
彼女に踏み込ませて、困った顔をさせるのが、嫌だ。言い訳だとしても浮かんだその言葉を結局飲み込んで行動に移してしまうことは、利己的な大人への第一歩のようで辟易した。




