次の入り口
明かりの灯っていない電灯を見て、すっかり夏になったと気づく。梅雨の間は天気が悪い日が続いて、薄暗い夕方ばかりだった。こんなに明るい公園は、塞ぎ込んでいた春の暗い情景とあまりにも対照的だ。
サイダーの缶を片手に、ベンチに腰をかける。遠くの方から、野球の練習の雄叫びのような声と、バットの高く気持ちいい音が聴こえる。榴が来ないこともわかっていたけれど、梅雨が明けたらどうしてかここに寄りたくなった。
働いているだけだと、仕事以外のことがとてもゆっくりとしか進まない。同僚との世間話も、一週間かけてやっと一つの話題を話すという感じだ。結局、友人や会社の同期に、元彼の話をできないままだった。美味しいお店の話題になれば、一緒に出かければ、とか、お決まりのように言われる。そんなようだから、忘れることができない。
「浮気、か……」
あまり良い別れ方ではなかった。初めての彼氏だったのに。自分の恋愛に自信が持てなくなった。人間関係において大切なこと一つ一つさえも、満足にできていなかったのではないか、と。
彼にとっては浮気ではなかったのだ。私のことも大切にしてくれていた。それは、仲の良い友達として。それでも、恋人のようにデートしたり、家に泊まったりしていたのだから、そもそも彼自身の認識がおかしかったのかもしれない。
否、私の方がおかしいと思われていたのかもしれない。決定的な言葉なく、恋人面して、好きとか言って、色んなところについて行って。本命の女の人が知らない人で良かったと思ってしまった。私のことを知った時、彼女の方こそショックだったのだろうから。
結婚なんて考えていなかったけれど、就職すると結婚の話をする機会が増えた。考えた方がいいのかもしれないとは思った。それでも、具体的にいつとか、どんな手順を踏んでとか、そんなことを考えようとはしなかった。自分の思っていた通りに恋人同士だったとしても、いい歳になりつつあった二人は、いずれ上手くいかなかったのかもしれない。
彼氏と別れたら、新しい恋を勧められるというのは、他の友人を見ていたら容易に想像できる。けれど今は、強く感情を動かされたというでもなく、自然とこの恋を忘れられるほどの茫然自失だった。確かにショックだったけれど、悲しいとか、怒りとか、思い返して心を動かされるほどではなかった。一度吐き出しておかないと、後で急に来るのかもしれないけれど。
新しい恋をするなら。次はこんな人と。そんなことを、きっと考えるんだろうなあと他人事みたいに思う。何も、思い浮かばなかった。けれど、日々の彩りがなくなった喪失感だけはあった。
そのことを考えると、榴のことが真っ先に思い浮かぶ。単調で刺激のない社会人生活の中で、多感な高校生との付き合いは、正直に言ってとても面白い。こんなに人のことなんて心配できるのも、大学生以来だった。
もしかして、夏休みに入った頃だろうか。榴は毎日、どうやって時間を潰しているんだろう。あんな良い友達がいるのだから、きっと大丈夫。
彼の心の中に抱えたものは、日々をこなすことと別の軸で動いているのかもしれないということに、私はずっと目を伏せていた。