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見えない境界線

 かなり落ち着いてるし大人っぽいから、高校生男子ということを忘れていた。榴の鮮やかな食いっぷりに、年頃の男の子ってこんなに食べるっけとあんぐりしてしまった。


「りょーのさんってどこの大学だったの」


 大学名を伝えて、自分が高三の今頃に何をしていたかを考える。あんまり、これといった様子が思い出せない。


「榴くん、理系志望?」


「まあ、一応」


 先輩として何か言えるようなことがないか、首を曲げまくって考える。受験なんて、その時の流れですべてが進んで行った気がする。


「まだ悩んでるけど、その成績じゃ厳しい、とか言われるの嫌だし、真面目に勉強してる」


「……えらいんだね」


「別に。暇だし」


「友達と遊んだりしないの?」


 こういう勉強だって、本当なら友達と行けばいいのだ。彼くらいちゃんと勉強してる男子なら、友達は結構いそうな感じがする。


「みんな部活ばっかだったし」


「あれ? 榴くん陸上部じゃなかったっけ?」


「あーうん、でも、俺は部活は真面目にやってないから」


 以前そんなことを聞いた気もする。けれど、陸上部なら走り込みとか、真面目な彼はちゃんとやりそうな気もするけど。


「でもほら、榴くんって細マッチョだし、彼女とかいないの?」


「谷北って堂々とそういうのしてる人全然いなくない? そもそも俺、女子とほとんど喋んないし」


 思ったままを言っただけなのに、妙に強い語気で返されて少し圧倒される。でも確かに、私の時もそうだったかもしれない。

 飲み終わったストローを指先でくるくるいじってしまう私とは対照的に、榴はじっと肘を付いている。制服姿だと、ジャージを着ている時より彼の体型がよくわかる。すらっとしているけれど、縄跳びなんか一生懸命やっているおかげか、弱々しい印象を与えない。


「りょーのさんは谷北で恋愛してたの」


「へ!? するわけないじゃない! 私なんて全然、目立たなかったし、へっぽこで」


 高校の時のモテない話なんて恥ずかしすぎる。少し機嫌が悪いかもしれないと思っていた榴は、早速ニヤニヤしている。


「へえ」


「この話終わり! 大人をからかわないの!」


「その格好で言われてもな」


 思わずスカートのプリーツを撫でる。制服以外では触れない肌触りが、なんだか懐かしいような、酸っぱいような気持ちになって、羞恥心があやふやになってしまう。


「進路、どうしたらいいんだろう」


「……何に悩んでるの?」


 榴の語気は途端に弱まる。どんなに大人っぽいとしても、彼はまだ高校生だ。進路を決めることを経験したわけではない。その点では、大学も選び、就職先も選んでいる私にも何か手助けできることがあるかもしれない。

 トレイの上に目を落とす榴の、前髪が目蓋にかかっているのをずっと見つめていた。彼は、何か喋ろうともせず、そうやって数十秒黙っていた。


「榴くんって」


 家族のことだろうと思った。大学進学の選択を一人でする人はほとんどいない。両親の顔色を窺って、自分の選択を後押ししてもらわないと、精神的な負担がかなり重たくなるのだから。榴が言いたがらない家族のこと。家の事情を、言い当てるべきか悩む。赤の他人が口出ししていいことじゃない、と。


「あ」


「ん?」


 榴の視線が上がる。向こう側を見るように顎を上げた彼につられて振り向くと、こちらをじっと見ている男の子。谷北の制服を着て、トレイを持って目を見開いていた。え、の口をしていた彼は、唇を結んで、すたすたと歩いてくる。二人の方に。


「榴!」


 榴の名前が呼ばれた。遼乃を一旦素通りした男の子は、二人の前の机にトレイを半分だけ乗せる。そして、遼乃を振り返って、また榴を見た。


「……どういうコト?」


「…………」


 茶髪の男の子が何度か首を振って遼乃と榴の顔を見比べる。二人とも、片や気まずそうに笑い、片や不機嫌そうに眉を潜めた。


「……『りょーのさん』……じゃないよね?」


「えっ? え、ええと、あの、私……」


「匠、とりあえず座れ」


 いつの間にか後ろ側から持ってきたのか、通路側の彼のお尻に椅子を押し付ける。男の子は、口元を固くして考えている風だが、大人しく椅子に座った。


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