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うまくいえない

「いや、ごめん。間違えた。と思う」 


 不自然に言葉を切り、水を浴びた犬みたいに頭をぶんぶんと振り回す。ぽかんと口を開けているしかできない。頭の回転は速い方ではないのだ。彼の言動の意味を考えるまでにも至っていない。何故なら、驚きすぎた。


「えっ、いや、いいんだよ? 結局、お礼らしいお礼はできてないし」


「えっと、それは嬉しいんだけど。そうじゃなくて……」


 なんなんだか、自分たちでもわからなくなっている。前言撤回するのかと思いきや、故障したロボットみたいに頭を振って言葉を捻っている榴は、まるで歯に何か挟まったみたいな顔をしている。


「多分、二人で出歩くのはちょっと変だし」


「それは、そうだね」


 ここにいるのだって、まあ示し合わせてはいるものの、二人で遊びに来たというわけではないから誤魔化せるような気はするが、未成年と遊ぶのは犯罪だとはよく言ったものだ。実際にどのようにいけないのかは、わからないが。


「…………」


 変な顔をしたまま、榴は足元の小石を見つめて黙りこくってしまった。なんだか、初めて彼を年下らしいと感じた。何かはわからないけれど、何かにすごく困っているような素振りをしているから。


「ど、どうしたの」


「困ってる」


「……どうして?」


 こちらを向いた彼の瞳が、上目遣いに射抜く。あ、かわいい、と思ってしまう。さすがにそれはいけない。未成年相手に、いかがわしい感情を抱くなんて。


「同級生とかだったら、飯奢ってよ、とかで済むのに無理だし。かと言って、代わりに財布拾ってもらうのもできねぇし、貸しを返してもらう方法がないから」


 なんだろう、この気持ち。律儀なことを言うな、と思うのは、それほど意外なことではない。けれど、何故か無条件に認めてあげたくなる。そんなことを言えるなんて偉い、それだけでいいよ、と言ってあげたくなる。それは面倒な子だと思うからではなく、健気すぎてこっちが不安になるくらいだからだ。


「りょーのさんは、多分、借りを返さないといけないと思う大人だろうなって」


「……へ?」


「このままだと、ずっと年下の俺に引け目感じるんだろうなって」


 想像してみる。確かに、飲み物やお菓子をあげたところで、返せている気はしない。その上、話を聞いてもらったりしているから、借りはどんどん増えていく。そのことを申し訳ないと思う自分は易く思い浮かぶ。


「じゃ、じゃあ!」


 慌ててジャケットのポケットを漁る。こんなに気を遣ってもらって、そのまま何もできないんじゃあ、それこそ借りを返せない。大人らしく、頼もしくいなければ。


「LINE、交換しよう。困ったことあったら連絡してよ。勉強とかは、自信ないけど……。その、友達には相談しづらいこと、とか」


 気にならないと言ったら嘘になる。けれど、二人がここで出会うその発端を作った抱えている荷物は、積極的に繙いていいものではないことは自分がよく知っている。もし、彼が話したくなった時、聞いてあげることができるのは自分だとも思う。

 ふ、と笑って、少し意地悪そうな瞳で遼乃を見る。何が言いたいのかわからずぽかんとしていると、榴くんは慣れた手付きでQRコードを表示した。


「俺、成績めっちゃ良いから、勉強はたぶん教わることない」


 QRコードを読み取る手が震えた。この生意気なガキめ、と思わないでもない。頭は良さそうだとは最初から思っていた。


「その、進路のこととか、せ、政治のこととか……」


「うん。そーゆーのは、大人の方が得意だよね」


 冗談めかして笑う。この子は、きっと年上を立てるのがとても上手い。それは、彼が家庭環境に何かを抱えていそうなのと関係がありそうな予感がした。まだ大人に支えられて当然の子供という立場なのに、遼乃に気を遣って、何枚も上手に立ち回る。そんなこと、普通に生きていてできることじゃない。


「上手く言えないけど」


「うん?」


「榴くんって、優しいね」


 正しい表現ではないと思った。でもきっと、伝わるだろう。それでは上手く言えないのだ。優しいとは何なのか、彼が気を遣うのは何故なのか、全てがふんわりと噛み合わせればはまるような気がするだけのピースで、そう型にはめることに意味はない気がした。

 けれど、彼はびっくりしたみたいにまばたきをした後、少しだけ嬉しそうに笑った。


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