第二話 初めてのジーン・ダンジョン
第三話です。
進みが遅い&短いですが、是非お愉しみいただけましたら幸いです。
次回から三人での初戦闘になる予定です。
ジーン村から、徒歩三十分のところにそのダンジョンはある。
川があるところに文明が栄えるように、ダンジョンがある場所に人が集まり村や街が出来る法則がある。それは何故か、古来よりダンジョンがいつどのようにして発生するかは定かではないが確かなことがあるからである。
――ダンジョンには、財宝がある。
――ダンジョンには、旧文明の遺産がある。
――ダンジョンには、素材や食材がある。
――ダンジョンには、強さがある。
あらゆる点において人々の生活には、ダンジョンが必要不可欠であるという普遍的な理由。
故に多く村はダンジョンに肖り名前が名付けられる。
その中でも、この「ジーン・ダンジョン」は、今から五十年以上前に発生したダンジョンで比較的新しいダンジョンである。
新しいダンジョンというものは、話題になり近隣の村や街から冒険者の移住が相次ぐが、珍しいことにジーン村ではあまり見られない。
それは、このダンジョンが他のダンジョンより――――。
「狂暴で、賢いダンジョンであるからです。」
ハインは、ギルドを出る前にダンジョンの簡単な注意事項をリッキーから聞いた時の、言葉を思い出していた。
今、眼前にはまさにその入り口ともいえる洞窟が悠然と姿を見せている。
これが、ジーン・ダンジョンかと見上げる一方で彼は一抹の不安を感じていた。
不安というのは、ダンジョンに対してではなく――後ろの二人にである。
(不味いぞ。ここに来るまでに全く話が弾まなかった、いや寧ろ、弾むどころか……。)
ほぼ無言――。
人並みに社会性はあるハインなので、勿論ダンジョンに到着するまでにお互いの情報や、自身の能力や戦い方を共有しようと話を振ろうと何度か試みていた。
ドワーフの少女、メリーとは微笑みながら世間話程度には会話はできた。
彼女はどうやら仲間の回復や補助を得意とする「白魔術師」であるということがわかった。背負った身の丈以上のメイスで近接攻撃もできるとのことだった。
ハインは彼女のスタイルに驚きはするものの、王都以外では主流なのかもしれないと思い直した。
しかしながら、彼の認識通り本来後衛である「白魔術師」が最前衛で戦うことなど類を見ないし彼女しかいない。更にいえば「ドワーフ」という種族で「白魔術師」に就こうと考えるものも物好きや変人の部類に入る位珍しい。
「ドワーフ」という種族は他の種族より初期魔力が低く、知能もずば抜けて高いとはお世辞にも言えないからである。一方で、腕力や脚力といった身体能力は抜群に高く、「戦士」や体力を必要とする「鍛冶職人」に適している。
敢えて「ドワーフ」として「白魔術師」を選んだ彼女の意図を訊かれることもなかったためか、彼女自身も語ることはなかったので彼の認識は改められずにそのままとなった。
一方、肝心のもう一人の彼女の方とは――。
会話どころか、視線も合わせてもらえずにいた。
ハインは、後ろの彼女を盗み見るように視線を向ける。
盗み見たつもりだったが、メリーと視線が合ってしまい、微笑み返されてしまう。
(もちろん、三人しかいないこの場で盗み見るという行為そのものが愚行ともいえるが。)
(――何故だ。俺が何をしたっていうんだ。)
多少ぎこちない自己紹介だったものの、礼儀は欠いた覚えはなく、同意の握手もしたはずだと彼は困惑する。
だが、彼女の拒絶はまるで厚い鉄板のようで真意どころが、感情も読めない。
途方に暮れる彼だったが、ふとギルドを立ち去るときに集会所で小耳にはさんだ単語を思い出す。
『あの、蒼色の一閃が……パーティーだと?』
あれは、彼女の渾名なのだろうと推測する。つまり、渾名が付くほどには腕に自信はあるだろう。だから、新参者の自分とは態々作戦会議などする必要はないと考えているのだろうか。と彼は、思考に耽る。
(ならば、俺がお眼鏡にかなった「条件」とは何だ……?)
依頼は小手調べに選んだ「ゴブリン騎士5体の討伐」であるので、Bランクでも下の扱いのモンスター――大した相手ではない、Aランクなら猶更だろう。手に入れることができる素材も役に立たないものが多い。他の依頼でも変わらないはずである。
(王都出身であること?新参者であること?勝手を知らないから優位に物事を運べるとかか?いや、しかしそんなタイプには見えないしな……)
――っ、あのぉ!!
そこまで思考の迷宮に迷い込んだところで、誰かに揺り戻される。
ハインは、意識を浮上させ慌てて焦点を合わせた。すると、メリーが覗き込んでいた。
「あ、ああ。悪い、初めて見るもんだから、驚いてな。」
ダンジョンについてである。半分は悟られないよう誤魔化す為だったが、半分は事実である。メリーは「驚いた」という言葉に対して文字通りに驚いて返した。バレンシアも意外だったのか、僅かだが視線をハインに向けた。
「え!?王都のダンジョンはこんな形じゃないんですか?」
同じ驚きを共有できてささやかだが嬉しく感じたハインは、説明するように言葉を続ける。
「ああ、王都のものは、恐ろしいことに城の直下にあってね。勿論厳重に魔法陣で封印されていて地下にあるが、もっと人工的だし、人為……いや魔族為的かな。」
魔族とは、唯一モンスターを使役することができる種族である。
ハインは更に補足として「昔は魔王がいたから、その分造りが異なるのかもしれないな。」と付け加えた。かくもいうも、その魔王の討伐からこの国は始まったともいわれている。
メリーが感心したように頷く。バレンシアは瞬きをし、何事もなかったように目を伏せる。
多少は、バレンシアの興味を引けたことを上々ととったハインはそれではと口を開く。
「初のダンジョン、いざ尋常に勝負とさせてもらおうかな。」
危険は伴うのは重々承知だが、冒険心を抑えきれず彼は冗談めかすように――。
★★★
いざ、ダンジョンに踏み入れてみると視界いっぱいに木々が広がっており、ハインは圧倒されたのか半歩下がる。
「これは……凄いな。洞窟の中に、森……とはね。」
その光景は、ここが外界とは全く異なる次元に作られた空間であることを如実に証明していた。洞窟なのに、空がある、広々とし奥行がある、澄んだ空気、太陽がないのに美しく育っている花々の香り。ハインの感嘆の声をよそに、メリーが先ほどのお返しと言わんばかりに説明を始める。
「ジーン・ダンジョンは現在百層まで攻略されています。魔王の可否は不明ですが、稀に他のダンジョンとは異質なモンスターが現れます、階層の深さは関係なしに……。それが、このダンジョンが狂暴である一端です。」
後ろから聞こえてくる説明に周りを適度に警戒しつつ、ハインは相槌を打つ。
車椅子を押す金属音と共に、メリーの声が響く。心なしか、ぴりと空気が緊張で張り詰めたのを彼は感じ取り、疑問に思う。
「なるほど、それは物騒だな……」
メリーが階層の説明をしたように、ダンジョンそれぞれで形やその性質は異なるものの共通して階層という数え方ができる。そして、階層ごと生息しているモンスターのランクや属性は決まっている。そのため、対策や知識さえあれば滅多なことでは死なないはず。余程の阿呆でなければ。
メリーの話によれば今回の目的である、「騎士ゴブリン」はちょうどど真ん中である五十層に生息している。ということで、三人は階層に一つギルドで設置している「転移装置」で一気に五十層まで移動することになった。
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