第11話 その名は外道
真汰は夢を見ていた。
その夢は自分が元の世界で、学校に登校している為に通学路を歩いているところ。
[俺は…元々異世界転移だなんて無理だったんだ。憧れていたけど、現実なんてそんなものだ]
前からずっとマンガやアニメであった異世界転移に憧れて、まさかクラスメイトと一緒に起きた事から心の中ではワクワクもしていた。だが、実際に自分はなんのスキルも職業もなく。クラスメイトや異世界の人達からはひどい扱いをされる始末。
などと諦めながらも歩いていると、目の前が暗くなってしまった。
「え?そんな…ここどこ!」
慌てた真汰はとにかく走り出して、この暗い空間を抜け出そうとした。
しかし途中で突然倒れてしまう。後ろを振り向くと、両足が無くなっていた。さらに右腕が無くなって右目から血が流れている。
「あ……う…うわああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
そしてこの姿に恐怖を感じて大きく叫んだ。
「はっ!」
しかしこの悪夢から目を覚ますと真汰は布団の上で、隣にはカナが壁に寄りかかって寝ている。
「夏内さん…たしか俺は爆発に巻き込まれて…」
汗で濡れた顔を手で拭うと、なぜかタンベエに斬り落とされた筈の右腕があった。
「この腕は?」
「起きたようですね」
不思議がる真汰だが、いきなりミカルが部屋に入って来た。それと同時にカナも目が覚める。
「んん…隊長。あっ、春本さん、気が付いた!」
「もしかして…ずっと、俺のことを?」
「彼女は、一ヶ月近くも間。アナタの看病をし続けたのですよ。まぁ、ずっと寝続けてたので気付いていないみたいですけど」
まさかあれから一ヶ月も寝続けていたなんて思いもよらなかった。しかもカナがそんな自分を、看病していた事も知らずに。
「カナ、アナタはとりあえず部屋を出なさい。休まずに看病したんだから、疲れたでしょ?」
「そうですね。じゃあ、後はお願いします」
カナはミカルに頭を下げて部屋を出た。そして真汰は今、自分の体がどうなっているのか気になってしょうがない。
「あの、俺に何を…」
「真汰さん、アナタはあの爆発ですでに死にかけた体だった。けれど、この2つを埋め込んで命を繋げました」
するとミカルが袖から取り出したのは白く輝く小さな宝石と、形は同じだが黒い宝石。
真汰は2つをそれぞれ見比べる。白はなんだか不思議と心が洗われるように優しい感じがしたが、黒のは反対に禍々しく恐ろしい何かを感じた。
「白いのは我々天道が霊力を固めて作り出した天珠。黒いのは地獄道が作った魔力と妖力がある地珠というもので、昔の戦利品です」
「もしかして、これと同じ物を俺に?いや…それよりもこの腕は!?」
改めて右腕は明らかに自分の腕じゃないと気付きながらも聞き出す。
「それからアナタに欠けた体の一部を移植しました。たとえば、その右目と両足はあの戦場で死んだ餓鬼道と狼族の畜生道。そして右腕は真汰さんの為に命を落とした」
「まさか…ガンスケの!?」
なんとか起き上がれながらも、鏡を見つけたので自分の姿を見た途端に驚愕する。まず修羅道、つまりガンスケの右腕に畜生道・狼族の両足。右目は餓鬼道で髪の一部が少し赤く染まり、背中には右が白い羽と左が黒い羽。そしてよく見たら背がかなり伸びて筋肉もついていた。
すぐに真汰は水晶を手に持って今の自分のステータスを見てみた。
《春本真汰 種族・外道 職業・不明 レベル・20 魔力・200 体力・200 スキル・修羅道の右腕 畜生道の両足 餓鬼道の右目 天道の右羽と霊力 地獄道の左羽と妖力》
明らかに誠司以上にレベルが上がっていて、さらに移植した腕や足がステータスになってた。しかし真汰が気になったのは、自分の種族が外道というのに変わっていた事。
「外道って…一体?」
「つまり、人間道でもなければ天道でも修羅道でも…ましてや畜生道に餓鬼道に地獄道にも入らない。全てから外れて外道となったのですよ」
ミカルの説明を聞いて改めて驚愕する。知らない間に、自分の体が改造されて外道と呼ばれる存在にされたから。
「そ…そんな事って。なんでこんな事を!?」
勝手に自分の体を外道にしたのかミカルに向けて大声で言う。
「予言…と言うよりは、気まぐれですかね。アナタを死なせないという気まぐれ」
「気まぐれって」
「とにかく、アナタは生きているからそれでいいでしょ」
などと軽く流してミカルは部屋から出た。当然、真汰にとっては納得いかない様子。
それから夜の縁側に座る真汰は夜空の月を見ながら、ガンキチの右腕を見ながらグーパーと動かして見る。
[本当に、これはガンキチの腕なんだな]
今日初めて会ったのに自分を助けようとしたガンキチの腕が、移植されて自分の腕になっている事に未だに信じられない。すると花柄の浴衣姿のカナがやって来る。
「夏内…さん?」
「えっと、どう?体の調子は」
などと体の調子を尋ねながら隣に座る。
「まぁ……流石に一ヶ月も眠ってたから、ちょっと体が重いかな。だけど、一番驚いたのは背が伸びて筋肉が付いたって事かな」
前まで真汰の身長は165と小柄な方だったが、今は180ぐらい伸びているのがはっきりと分かる。
「たしかに、前は私と同じぐらいだったのに今は完全に背が追い越してるね」
「これって天珠と地珠の影響って奴かな?」
「きっとそうかもね」
2人で会話するとなんだかとても楽しくなってきた。それから2人で月を見上げると、ルリが上空で楽しそうに飛んでいる姿を発見。
「あれって、七浜さん?」
「うん、空を飛ぶのが本当に好きだから」
するとルリはゆっくりと翼を動かしながら降りてきて2人に近づく。
「春本くん!目覚めたんだね、カナの精一杯の看病のおかげかな」
真汰が元気になっているので安心したのかルリは2人の隣に座り始める。
「んで、これからどうするの?」
「いやだから…この先、アナタはこれからどう過ごすのか聞いてるの。元の世界に帰るのか、それとも前に転移した世界ってところに行くのか?」
ルリは今後の真汰の行動とかについて聞いてみる。それには真汰も大きく悩む。
これから元の世界やバンデフ王国のあった世界に行ける方法が分からない上に、仮に戻ったとしても今の自分の姿を見られたら、周りはどんな反応するのも分からないからだ。しかし今、この間のように神道組と魔道隊の激戦で不安定なので、帰る手段を探すのは大きく時間がかかる可能性が大きい。
[このまま元の世界に戻ったり、あの世界に行く方法だって分からない。なによりも由里と獅子谷の事も]
あの穴に一緒に吸い込まれた由里と誠司も、この世界にいるかもしれないと考えると何かを決意した。
「良し…決めた!」
「「え?」」
「俺、神道組に入る」
それは自分が神道組に入るという事。突然の宣言に2人は少し固まったが、いつ早くカナが動いた。
「入るって…本気なの!?いきなりこの世界に来た上に、そんな姿になって」
「ああ、たぶんこの世界にやって来たのは、俺だけじゃないと思うんだ。それに一応、元の世界に戻れる方法も探すつもりだし」
神道組になれば由里と誠司はもちろん、もしかしたら元の世界に戻る手段も分かるかもしれない。そう考えて入ると決断した。
「なるほど、コイツの覚悟は本物らしいな」
そこに徳利を片手に着流し姿のガンテツがやって来た。
「「ガンテツさん!」」
「あっ……」
すると真汰はなんだか気まずく感じた。だが、無理もない。なんたって自分のせいでガンテツの弟のガンキチが死なせてしまったから。これにはどうしようもないと心の中で後悔する。
「おい、なにいきなり黙ってんだ?」
「……別に」
「ガンキチの事だろ?仕方ないさ、俺達は修羅道で神道組…いつでも戦で死ぬ覚悟はあるのさ」
徳利の酒をラッパ飲みしながらも気にすることはないとガンテツは言うが、それでも落ち込み続ける真汰。
「それに1つ言っておくが、ガンキチは死んでねぇ」
「え?」
「こうしてお前の右腕として、今でも生きているんだ。だからお前が生きてる限り、その右腕に宿るガンキチの意志は消えねぇよ」
真汰の腕として移植されたガンキチの手を優しく触りながらも、その意志は消えてないとガンテツは語る。
これを聞いてたしかにその通りだと気付く。
「そうかもしれないな…きっと元気出した方がガンキチが喜ぶかもしれないし。俺が神道組にはいる事も賛成するかも」
「だろ?だから、お前はお前の決めた道を進むんだ」
そのまま真汰の肩を組んで自分の決めた事を信じろというガンテツ。この話を聞いて、カナは真汰の手を握る。
「ガンテツさんの言う通りだね。私もアナタが立派な神道組の隊士として、侍として精一杯協力してあげる」
「本当なの、夏内さん」
「それでさぁ、これからは真汰って呼び捨てで呼んでもいい?私の事はカナって」
「もちろん、私も呼び捨てOKだよ!それから霊術や空を飛ぶのも教えてあげるね♪」
カナとルリの2人は自分達をお互いに呼び捨てで呼んで、さらにこれからの特訓に協力してあげると真汰に言う。
これには真汰は3人がここまで自分に協力してくれて、本当に嬉しい気持ちでいっぱいに。
「ありがとう。カナ、ルリとガンテツさんも」
改めて3人に感謝のお礼を言う。そしてその様子をコタロウがこっそりと見ていた。
[私が出るまではなかったな]
どうやらコタロウもなんとか真汰を元気付けようとしたが、カナ達が何とかしてくれたので安心してこの場から静かに去る。
ついに真汰が外道と呼ばれる存在になりまして、そのまま神道組に入ることになりました。