第10話 本当の戦場
真汰達が出撃した頃、ミカルは自室で印を結んでいた。これはミカルが千里眼で遠くの地と近い未来を見る為のもの。さらに部屋の端には万が一の為に、髷をしている天道の隊士が待機していた。
「ん……」
ミカルは汗を流しながら、これから先の未来を見た。そこで予知したのは爆発に巻き込まれた真汰とガンキチの姿。
「はっ!!」
「隊長!大丈夫ですか?!」
目を開いて激しく呼吸をするミカルに慌てて駆け寄る天道隊士。
「大丈夫よ…それよりも、シュウゾウ。私の馬を出しなさい」
「え!まさか、隊長も行かれるのですか…」
立ち上がりながら天道隊士の堅巻シュウゾウに馬の用意を言って、タンスから2つの木箱を取り出す。
「隊長、それって…」
「もしもの時の為よ。たとえ、掟を破るかもしれないけど…」
ミカルは2つの木箱からそれぞれ白と黒の宝石を手に取った。
一方、白戸原では真汰達が馬を走らせて魔道隊の陣に突撃している。
「神道組だ!」
「鉄砲機道組、構えろ!そして放て!」
1人の地獄道の指示で、鉄砲を持った機道20体が銃口を真汰達に向けると一斉に撃った。
「全員、散開!式道にはそのまま前進を!」
「了解!」
コタロウの指示でそれぞれ散り式道がまっすぐに前進すると、鉄砲を撃ち続ける機道を何体か薙刀でなぎ倒した。しかし撃たれてしまった式道は札に戻る。
それでもカナ達はその隙を見逃さずに馬から降りて天道以外全員は刀を抜く。
「おのれ!」
だが、畜生道と餓鬼道も刀を抜いて戦闘に入る。
「はっ!」
「くっ!」
カナは素早く刀を降って畜生道を斬りかかる。だが、相手の狼獣人も抵抗して鋭い爪で斬り裂こうとしたが
「えい!」
「ぐわっ!」
なんとか交わすとそのまま軽く皮を斬る程度だけど斬りつけた。それからコタロウは餓鬼道と機道5体を相手にした。一度、刀を鞘に納めるコタロウに機道が一斉にして襲い掛かる。
「……はっ!」
だが、コタロウが鞘から刀を抜いた瞬間に、一気に機道5体を斬りつける。その結果、機道は全てバラバラになった。
「ぬ…流石は抜刀のコタロウなだけはあるな」
この光景を見た餓鬼道は少し冷や汗を出す。
「なんだ?怖じ気付いたか?」
「…そんな訳なかろう!」
「ふんっ!」
「がはっ!?」
挑発に乗った餓鬼道が襲い掛かったが、素早く避けて刀を抜いて斬り捨てた。それから平沢が大太刀を構えて機道を斬り、遠山も刀と鞘で二刀流のようにして戦った。
「流石は機道…そう簡単にはいかないね」
「いや、それでも俺達が何とかしなきゃいけないんだ」
お互いに会話し合って再び刀を振る。
その頃、ガンテツが虎獣人の相手をしていた。
「本当に楽しくなりそうだ。最近、こういうのが少なくてな」
「へ~~~五番隊って、案外暇な部隊なんだね」
などと虎獣人がへらへらと笑いながら挑発して来たが、ガンテツはそんなの気にせずに笑い返す。
「がははは!何度でも言え!ただ、俺が来たからには」
そして片腕を軽く動かして刀を抜いて大きく振ると、そこから風が起きてガンテツはそのまま虎獣人を睨む。
「死ぬ気でやるぞ」
「上等だ」
同じく睨むと虎獣人は顔と体から体毛が出て、そのまま手足が毛深く完全な虎の顔になると刀を抜いてガンテツに向かって走る。けれども、ガンテツも刀を構えてお互いに刃で打ち合う。
それからガンキチとハレマルと土居も機道と畜生道と戦う。
「おらおら!全員ぶった切るぜ!」
ガンキチがチンピラみたいに刀を振り回して機道を倒す。だが、蛇獣人は体をくねらせて刀を避けたり、兎獣人も素早くジャンプして攻撃をかわす。
「クソ…避けやがって」
「当たり前だよ。ちゃんと相手を判断してやらないと!」
注意しながらハレマルも刀を真っすぐに構えたまま、機道に向かって突進。そして機道を3体貫いて破壊。それから土居は刀と一緒に羽織の袖から、分銅を出して猪獣人と戦おうとしていた。
「ぐへへへへ、俺の相手はアンタか?」
「そういう事だな」
猪獣人が金棒を振り下ろしたので、すぐ土居は避けて分銅を投げつけると相手の額に直撃。
「あがががが…どへ」
「ざまぁみろ!」
などと猪獣人は分銅の一撃が効いて目を回しながら倒れたので土居は笑う。
それからルリも式道を使役しながら機道と戦おうとする。
「じゃあ、私も」
ルリは手をかざすと光のブーメランを出した。これも霊術の1つで自分の霊力で武器を作り出す。
「そりゃ!!」
さっそくブーメランを投げ飛ばして機道を2体破壊して、戻って来たブーメランをキャッチすると剣のようにして別の機道を叩き潰した。
「はっ!」
「ぐっ…!?」
「ふんっ!」
「ぎゃっ!?」
本多は山羊獣人の腹部に拳で強く殴って倒して、それから栗鼠獣人は柔道の背負投げに似た技で投げ飛ばす。さらに手から光のナイフを出して、地獄道と餓鬼道に向けて発射。だが、地獄道は妖力で黒い壁を出して身を守り黒いエネルギー弾を作り。
「そらっ!」
「おっ!?」
本多に向けて撃ってきて、すぐに避けたが地面に当たって爆発。一方、サクラも短刀と苦無である程度まで機道と戦う。だが、コタロウに近づく。
「私の手助けはここまでだ。後は、お前達がやれ」
「分かってる。ありがとう」
などと、コタロウが返事をするとサクラはこの場から去った。
それから真汰は、ただこの戦闘に呆然としていた。
[本当の…本当の殺し合いだ!!]
バンデフ王国にいた頃の魔獣退治は、ゲームとかでやってたので少しは慣れていた。しかし、この世界で今立っている場所は戦場で合戦。まさに殺し合いで、慎太は足が震えている。
だが
「はっ!?」
後ろに機道がいて真汰を斬りつけようと、刀を振り下ろしたので慌てて避ける。とっさに剣を抜いて構えたが、機道が剣を掴むと握り折った。
「ええっ!そんな…」
あっけなく折られた剣を見て驚くが、再び機道が刀を大きく振り下ろそうとした。けれども、今度はコタロウから借りた刀を抜き。
「てやっ!」
つい掛け声を上げながら機道の首を突き刺した。すると機道はカタカタと音を立てると、そのまま倒れて機能停止する。
「やった…倒した」
「ほ~~~やるね!」
「よそ見するな!」
それを見たカナは感心するけども、狼獣人が刀を振るい続けて襲い続ける。
「うわっ、こっちもピンチなのは同じだから、負けられないからね!」
「うぐっ!ぎゃはっ!?」
カナは袖から小刀を2本出して投げつけると狼獣人の喉と胸を突き刺すと、そのまま刀で斬りつけて倒す。
それから真汰は倒した機道を一応、調べてみると首の内部に札が張られていた。
「もしかして、この札で」
「ああ、俺達の妖力を込めた札で動いている」
だが、そこに青い髪をして慎太と同じ年の地獄道の少年が近づく、
「俺は魔道隊が地獄道の野井タンベエ。随分、戦いには慣れていないけど…アンタは何者だ?」
地獄道の野井タンベエは手から妖力で作った刀を出して構えた。真汰も刀を構えながら名乗り返す。
「……春本真汰。2回異世界転移した」
「異世界転移?何訳の分からない事を!」
先にタンベエが動き出して妖力の刀で斬りかかったけど、なんとか避けることが出来て真汰はすぐに刀で突き刺した。だが、刺した瞬間にタンベエは消える。
「なっ!?」
「残念だが、幻だよ」
いつの間にか幻術を使って残像を出していた事に気付かずに、真汰の後ろには本物のタンベエがいた。
「そらっ!」
「うがっ!?」
そしてタンベエは刀を大きく振り下ろして右腕が斬り落とされた真汰。
「「「「「なっ!?」」」」」
「は…春本さん!?」
この光景を見たコタロウ達は驚き、とくにカナは大声で真汰に向けて叫んだ。
「うが、ああぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
当然のように、想像を超えるように激痛に慎太は叫び続けた。切断された肘の上から大量の血が流れて、切り落とされた右腕をタンベエは容赦なく踏む。
「本当に誰だか知らんが…俺達、魔道隊に関わるから悪いんだよ。さぁ、此処で死ね!」
刀を消すと今度は両腕に妖力の鉤爪を出して引き裂こうと襲い掛かった。だが、真汰は心の中でここで死んでたまるかと感じ。
「うおおぉぉぉぉぉぉ!!」
なので真汰はこの激痛を死ぬ気で我慢してすぐに刀で、タンベエを右肩から左の脇腹まで斜めに斬ると、さらにその顔面も横一文字に斬った。
「ぐわあぁぁぁぁぁ!!」
突然の攻撃と激痛に戸惑って、体と顔面に大量の血が流れる。
「お返し…ざまぁみろ!」
手ぬぐいを右腕に巻いて簡単に止血をしながら言う真汰。だが、タンベエは強い怒りに満ちた目をして睨み。
「おのれ…」
すると両手から大量の妖力を溜めたので、ヤバいと感じた真汰は離れようとしたが後ろに現れた機道が羽交い締めにした。
「なっ!?」
「逃げられると思ってるのか…」
そのままタンベエは羽を広げて空を飛ぶと、地上の動けない真汰に向けて巨大な妖力の弾を放とうとしたが、その様子をガンキチが見逃さず。
「危ない!?」
「ガンキチ!?」
ガンキチが急いで走って自分から盾になろうと真汰の前に立った瞬間。
「はっ!!」
「うわっ!?」
「くっ!?」
そしてタンベエが妖力弾を放つと、真汰とガンキチがいる所が大爆発した。
「は…春本さぁぁぁぁぁん!?」
「ガンキチ!?」
この光景を見てカナとガンテツは2人の名前を叫ぶ。だが、地上に降りたタンベエは体と顔の傷と、さっきの妖術の技でかなり体力と妖力を消耗したらしく。激しく息切れしていた。
「はぁ…はぁ…出直すぞ」
すぐに魔法陣のような図形を展開して、魔道隊の全員に退却を支持する。
さっそく壊れてない機道は失神した猪獣人と山羊獣人と栗鼠獣人を背負ったけど、死亡した狼獣人と餓鬼道を置いて生き残ったメンバーが魔法陣に集まった。すると魔法陣が光って、魔道隊は影も形もなく消えた。
しかしカナ達は、そんなの関係なく真汰のいる所に向かう。
「春本さん!大丈っ、はっ!?」
「これは…」
「そんな!!」
カナ達はこの光景に何も言えず絶句してしまう。
さっきの爆発の影響で両足を失って右目からも血を流す慎太と、腹部から大量の血を流して倒れたガンスケの姿。
「早く…ルリ、早く回復を!」
「待ちなさい」
いつのまにかミカルが馬に乗ってやって来た。
「隊長…いつから」
「ついさっき」
コタロウの質問に答えながらミカルはそのまま慎太に近づくと手をかざす。
「このまま普通な回復術では無理です。死んでしまいます」
すると袖口から小箱を取り出して蓋を開けた。何かに気付いたのか、小箱の中身を見た本多は驚く。
「隊長、それって!?」
「分かってます。これを使う事は許されない…けれども、私はどういう訳か、彼に懸けてみようと思います」
「懸けるって…」
「この神道組と魔道隊の戦いに…決着をつける為に」
じつはさっきの千里眼でミカルは、また別の未来の様子も見えたらしく。その未来では真汰は強い戦力となる可能性があると気付き。なので、ミカルなんとしても救おうとした。
「でも…彼には右腕も両足もないし、右目も!」
ルリは今の右腕と両足が失った真汰の姿を見て、戦う事なんて出来ないという。
「ま…てよ……」
「え?」
「が、ガンキチ!」
しかし未だに腹部からの出血を続けるガンキチが、弱弱しく声をしたのでガンテツはすぐに駆け寄る。
「なぁ、兄貴に隊長…俺の頼みを」
「ガンキチ…ああ、なんだ?早く言ってみろ」
「俺…コイツが本当に、気に入ったから助けてくれよ…その為だったら、俺は…この腕を…」
そう言い残してガンキチは目を閉じて死んだ。だが、そこに羽織に何かを包まった上に、さらに右手は血まみれで何かを持っているカナが来た。
「カナ、それは?」
「見て分からないの。畜生道の狼族の足と餓鬼道の右目」
羽織を広げるとたしかに両足で、右手の中身も眼球。
「ルリ、それから隊長に本多さん!これも使って助けてください。お願いします」
そのままカナは土下座しながらも畜生道の両足と餓鬼道の眼球を、真汰に移植してと頼んだ。
「ああ、俺からもお願いする。ガンキチの為にもな!」
ガンテツは刀を大きく振り下ろしてガンキチの右腕を切断して、未だに虫の息の真汰のところに置いた。
「もちろん、今から彼は生まれ変わるのです」
するとミカルは右手に白い光を、左手には黒い光がでながらも真汰の胸にかざした。
この二色の光は瀕死の真汰が生まれ変わる光だった。
本当に一年ぶりです。今回で真汰は新たな世界での戦場に来ましたが、瀕死の重傷を負ってしまいました。
しかし次回では、真汰がプロローグの姿になるのでお楽しみに。