第9話 神道組出動
真汰は今、日本の戦国時代か江戸の末期に近い異世界で、神道組5番隊支部屯所にいた。そこで出会った侍少女の夏内カナに部屋まで案内される。
「ここ、使っていいよ」
部屋に到着して襖を開けた。そこは4畳半のまさに和風の部屋で、押し入れと文机と灯明皿がある。真汰はまるで本当にタイムスリップしている感覚だった。
「さてと、ご飯でも食べる?」
「ご飯?」
「お腹空いたでしょ?台所でなにか作って貰いに行こう」
カナは真汰の腕を引っ張って台所に向かった。台所に到着すると、そこには髭を生やした中年の男が料理を作っている最中。
「マツヒロさ~~~ん」
「おっ、カナじゃねぇか!任務から帰ったのか?」
「そうだよ。それで悪いけど」
「分かってるさ。今ちょうど飯が出来上がったところよ」
「本当、サンキュー!」
などと楽しそうに会話している2人で真汰が入る様子がない。だが、しばらくしてカナは男の紹介をした。
「この人は5番隊の料理当番で、人間道の大谷マツヒロさん。それで彼は別の世界から来た春本真汰さん」
「そうか?じゃあ、もしもなんかリクエストがあったら作ってやるよ♪とりあえず、ほら」
大谷マツヒロが2人に出したのは、白米とわかめの味噌汁に漬物と小さめのアジの開きという少し質素な料理。
「久々の日本のご飯だ」
しかしバンデフ王国の時はクラスのみんなと違って貧しい食事だったので、真汰にとって和食は本当にひさしぶりと感じた。とくに白米と味噌汁が懐かしく感じる程に。
「ありがとうございます。大谷さん」
「では、さっそく」
「うん」
お礼を言って2人は料理が置かれたお膳を部屋に持っていくと、さっそく2人は料理を食べた。
「美味しい!」
「そうでしょう♪」
最初に白米のご飯を食べて、次に味噌汁を飲んだ。そこでご飯の甘みと食感とちゃんと出汁を取った味噌汁がマッチして気に入る。さらに大根の漬物も良く着けていて、アジの開きも香ばしくて口の中で旨味をいっぱい出す。
それから2人は食べ終わる。
「ごちそうさま」
「マツヒロさんのご飯、美味しかったでしょ」
「本当だね」
などと微笑みながら言うカナに真汰も笑いながら返事を返す。
「それでさぁ、春本さんが最初に転移した世界の事と元の世界を教えてくれない?」
「え?なんでいきなり…」
「だって、気になるでしょ?異世界から来た人なんて」
好奇心満々な目で真汰から異世界の事を聞き出そうと迫るカナ。話すのは面倒だと感じたけども、こんな目で見られたら逃げられないと思い。
「まぁ、俺って話すの下手かもしれないけど…いい?」
「別に構わないからさ、下手でも」
ストレートに宣言するカナだけど、さっそく真汰は話し出す。
「それじゃあ、なに?アナタにスキルというのが無いからって、そんな扱いをされ続けてたの!」
「まぁ、そう言う事になるかな?」
「酷い!勝手に召喚させておいて…」
話を聞いてカナは怒り出した。バンデフ王国の真汰に対する扱い方が酷いから仕方ない。
「んでもって、その穴に吸い込まれて此処に?」
「うん……結局何だったんだろう?」
この世界に転移のきっかけになった時空の穴は謎のままだが、そこに隊士の男が顔を出す。
「カナ、召集だ。すぐに中庭に来いとさ」
「分かった。せっかくだから一緒に行こう」
「え…うん」
さっそく2人は呼びに来た隊士と一緒に中庭に来てみる。そこにはすでに集まっていて、カナとコタロウを含んだ人間道は23名。ガンテツ達修羅道は17名でルリの天道は10名。
全員が集まった途端に、ミカルがやって来た。
「先程…千里眼をしたところ、南の白戸原で魔道隊が近づいていると見えました」
「白戸原って私達5番隊の領地の中で、重要ポイントの1つ!」
「そこを突破されたら、この土地が3割を奪われるかもしれませんね」
話を聞いた全員が少し騒めき始める。事情を知らない真汰だけども、これは大変な事だと理解した。
「とにかく…近づくのは13人らしいけど、今からこちらは10人ほどメンバーを決めた。心して聞くように」
「「「「「「はい」」」」」」
さっそくミカルはメンバーが書かれた紙を広げて発言した。
「まずは人間道。夏内カナ、田村コタロウ、平沢トウエモン、遠山サンジロウ」
「はい!」
「承知しました」
「同じく」
「暴れてやるか」
人間道はカナとコタロウの他に、長身で髷の少し優男な感じの平沢トウエモンと、大きなたてがみをした少し歌舞伎風メイクの遠山サンジロウ。
「続いて修羅道は古舩ガンテツと古舩ガンキチと佐々木ハレマルと土居タキスケ」
「俺達か」
「待っていたぜ」
「了解です!」
「楽しくやるか♪」
次に修羅道からはガンテツとガンキチとハレマルと、角が出すようにと頭に手ぬぐいを巻いた土居タキスケ。
「そして天道は七浜ルリと本多ヨシカズ」
「「はい」」
そして最後に天道からはルリと坊主頭で太眉毛が特徴の真面目そうな本多ヨシカズとなった。
「では、各自準備をしてから馬に乗って向かう事。分かりましたか」
「「「「「「はい!」」」」」」
また大声で返事を返すカナ達。この様子を見た真汰は、これは全員が本気で戦いに行くという目をしているのが分かり。もしかしたら死ぬのを覚悟している事も。
ダンジョンではあんまり役に立たなかった真汰だが、この世界でもそんな気になって仕方がなかった。そこで彼は
「あの…」
「ん?」
「俺も…行きます!」
自分もこの任務に付いて行きたいと言う。
「なに?」
「ちょっと、いきなり何を!アナタは、転移者で上も下も分からない身だよ!」
「そうだ。第一これは殺し合いだ…危険な目には合わせたくない」
「2人の言う通りだから、絶対に死んじゃうかもしれないよ!」
カナと平沢とルリが危ないから止めようとしたが、それでも真汰は引き下がる気はしなかった。
「俺も…ある程度までなら戦えるように鍛えて貰ったし、このままなにもしないままいるのも嫌だから、お願いします!」
頭を下げて頼み続ける真汰。そんな姿をミカルはただ見続けると、なにか真汰から何かを感じた。それは彼の中に隠された力か、もしくはこれから近い未来に起きるモノだと。どんなものか分からないが、彼女の出した答えは。
「そこまで言うのなら、付いて行くのを許可しましょう」
「ミカル様!?」
「隊長!?」
まさかOKを出されたのでカナとルリはもちろん、殆どの隊士達も驚いたりざわき出したりする。
「全員静かに。田村は彼に羽織を渡しておきなさい」
「御意のままに」
それでもミカルは真汰に服装などの仕度をコタロウに頼んだので、返事をして彼を連れて行った。
「ミカル様…なぜ彼を?」
「私にも分からないけど、彼は近いうちに最強になる可能性が高いわ」
「え?」
本多の質問に少し分かりにくい形で答えるミカルだった。
それからコタロウの部屋に入った真汰は、神道組の羽織を着てみた。
「うん、馬子にも衣裳って言うが…中々似合うな」
「この世界にも、そんなことわざが」
「さてと、最後は」
するとコタロウは刀掛けに置かれた太刀を手に取って真汰に渡す。
「ほら、受け取れ」
「え?良いんですか…」
「当たり前だろ?なかったらどうやって戦うんだ?」
「でも俺には武器が」
流石に使うのは失礼だと思い、自分が持っている剣を見せたりする。
「良いから、御守り代わりに持っていな」
「あの…なんで」
「私には隊長の考えていることは分からないけど、きっとなにかあるって信じているから…それに、カナが君を気に入ってる」
笑いながら言うので真汰は太刀を受け取るとベルトに差し込んで装備。2人は馬小屋に行くと、すでにカナ達は馬を出していた。
「あ!コタロウに春本さん」
「どうも…どうかな?」
などと神道組の羽織と刀を装備した姿をカナに聞いてみた。
「うん、似合ってるけど…その太刀は?」
「私のさ。彼に御守りとして持たせた方が良いかなって」
「そっか…まぁ、とりあえず早くモモスケに乗って」
「はい」
そのまま真汰を含めた11人が馬に乗って目的の白戸原に向かった。
「あの、冬城さんが千里眼をしたって言ってたけど…」
「天道の霊術の1つ。遠くの場所や近い未来を見ることが出来るのよ」
「ミカル様が得意な霊術なのです」
カナと隣で馬に乗るルリが霊術の説明をする。
「そういえば、君や本多さんは刀を持ってないけど…」
「私達、天道は刀や槍といった武器を持つ事を禁じられているの」
ルリの説明によれば、元々天道はこの世界の種族ではないので、武器を使って戦う事は自分達を否定すると考えられている。それは地獄道も同じ事だという。
「じゃあ、どうやって…」
「もちろん、霊術と天連法っていう武術を使って巧みにね」
「七浜…もうすぐ白戸原だ。空から様子を見るぞ」
「OK」
するとルリと本多は羽を広げて空を飛ぶ。しかも乗っていた馬は、飛んだ2人を追いかけるように走り続けた。
「本当に天使みたいだ…」
白い羽で飛ぶ2人の姿に思わず見とれる真汰。それからしばらく馬を走らせると、目的の白戸原に到着。そこは草が多い茂る野原と丘で、とてもきれいな光景だった。
到着した途端にルリと本多の馬が止まっていたので、カナ達も馬を止めて降りる。
「へ~~~随分とのどかな場所だね」
「でも、今から戦闘になるから気を付けてね」
「そうだ。新人か知らんが気を着ける事だ」
「うわっ!誰?」
いつの間にかミニスカートの神の字がある忍び装束を纏って、黒髪の口元に頭巾をした少女が立っていた。当然、いきなりなので真汰は驚く。
「私は青式サクラ。神道隊10番隊に所属する忍道だ」
「忍道って…この世界の忍者なの?」
「そうだけど、春本さんの世界にもいるんだね」
この世界の忍者改め忍道がいる事に驚いたが、ちょうどそこにルリと本多が降りてきた。
「ミカル様の言う通り敵が近づいてくるよ!」
「遠眼鏡で覗いてみろ」
「…分かった。一緒に見よう」
「うん、いいよ」
2人は遠眼鏡で覗いてみると、この白戸原に段々近づいてくる15人の集団。
狼の耳と尻尾や猪の鼻と牙に山羊の角と虎の耳と尻尾や、兎の耳と尻尾と蛇の鱗と目に栗鼠の尻尾をした、多種多様の獣人がいる畜生道が7人。さっき真汰を襲って来たのと同じように赤い目とエルフ耳の餓鬼道が5人。そして背中に黒いコウモリのような悪魔の羽を持つ地獄道が3人。
さらに服装はカナ達神道組が白い神の字が書かれた羽織と、青い着物と灰色の袴という全員同じ格好とは対照的で、魔道隊は黒い魔という字の羽織に着物と袴の者から着流しに鎧で装備とそれぞれ自由な感じをしていた。
「魔道隊。後ろに機道も」
「機道?」
カナの言う通り、魔道隊の後ろには60近くの鎧武者の集団が歩いていた。それも刀と長槍や弓矢に鉄砲を装備。
「地獄道の妖術で、自分で動けるようになったカラクリ人形だ」
「カラクリ人形…」
「だったら、私達も兵士を出すとしますか」
そう言いながらルリと本多は、懐から札を10枚ほど出すと投げつけた。すると札から顔を布で隠して刀と薙刀と弓矢を装備した僧兵が60人近く出現。
「式道。天道の霊術で動く兵士達よ」
「さてと、では私も任務として協力してやろう」
「はいはい、今日もお願いしますね」
のん気に笑いながらお願いをするカナだが、サクラは真汰に近づく。
「お前…こことは違う匂いがするが」
「俺はこことは、全く違う世界から来ましたので」
「こことは違う…違うだと?」
「もしも生きていられたら、話しますね」
無事にいられるか心配になりながらも、サクラと約束する真汰。それから全員が再び馬に乗るとコタロウが全員に
「では、みんな。魔道隊から絶対にここを死守するぞ!」
「「「「「「「おーーー!!」」」」」」
「出陣!!」
コタロウの掛け声と一緒に全員は馬を走らせて、そしてサクラと後ろの式道の部隊も走って真汰達に付いて行った。
この世界の食事で、真汰はひさしぶりの日本食を楽しみましたが、そのまま戦場に行く羽目になりました。
そして忍道の青式サクラを始め新キャラが登場して、これからどういう戦いになるのかはお楽しみに。