第九十七話 相談
「おはよう、イッシー」
「おっはー、杉田ー、三井ー」
「……おはよう、石井……盗聴したテープはどこにある……」
「三井ー?目が危ない人になってるよー?とりあえず落ち着こうかー?」
「貴様が盗聴したテープを渡したら、今すぐにでも落ち着いてテープを叩き割ってやる」
「ちっとも落ち着いてないじゃないか、旦那」
「やかましい。基はといえば貴様らが昨日つけてきたのが悪いんだろうが!」
「あー、石川さんー」
「!?」
「きゃー、逃げろー」
「よしきたイッシー」
しまった!こんな古典的罠に二度も引っかかるとは!?平常心を失うにもほどがあるだろ俺!そして石井!男子がキャーとか言うな!気持ちが悪い!
そんなこんなで教室に辿り着いてしまった。……辿り着いてしまった。
「三井?テンションが低いな。予習でも忘れたのか」
「……原君か。今日ほど学校に来たくない日はなかった……」
いや、予習(英語と古典)は終わってるんだが。
「……?事情があるならあれだな。よくわからんけど、相談くらいなら乗るぞ?」
「ある人と会いたくないなら、どうすればいい?」
「その人がいる場所に行かなければいい」
「その場所が同じ学校の場合は?」
「しかも同じクラスとか?」
「そうそう(笑)」
「諦めな」
「そんな!?相談に乗ってくれるって言ったじゃん!」
「泣きそうな表情で言われても……」
「助けてくれよ、ハラえもん!」
「誰がハラえもんだ」
「何か道具で助けてくれよ!」
「……単語帳ー」
「効果は!?」
「勉強していることで現実逃避できる」
「現実逃避している間に来たらどうすんだ!」
「勝手に期待してそんなこと言われても……」
「……すまん。動揺してた」
「で?誰と何があったんだ?」
……数少ない常識人(能力値は異常だから正確には違うかもしれない)である原君なら、まともなアドバイスをもらえるかもしれない。
「実は……ってことがあってだな」
説明する間、彼は何も言わずじっくりと聴いてくれた。……そして聞き終わってから一言。
「……今までと何が違うんだ?」
それだけ言うと、呆れた顔をして自分の席へと戻っていった。……なんですと?
「……え……それだけ?」
アドバイスは?助言は?同情は?なんなのあの呆れた表情は?
「俺には味方がいないのか……」
そんなことをつぶやく間にも、ホームルームの時間は近づいてくるのだった。