第九十四話 訳
「……とりあえず、涙ふけよ」
「……え?……あっ……ほんとだ……」
タツミ自身は涙が出ていたことに気づいていなかったようだ。慌てて涙をぬぐったが、その慌てた様子が余計に気になった。
「どんな夢見てたんだ?少しうなされてたぞ?」
楽しくなるための酒で、嫌な気分になったんじゃ本末転倒だ。これだから酒は……。未成年の飲酒はダメ。ゼッタイ。
「……言わないとダメ?」
「俺の横で泣かれてたんじゃ、俺が原因かと思うだろうが。ちゃんと説明しろ。出ないと俺の目覚めが悪い」
「……原因はなおくんだよ」
俺のせいかよ!
「……俺、何した?揺らし過ぎたとか?もしくは……ま、まさか変なところ触っちまったとかか!?だとしたらすまん!」
気付かないうちにセクハラしてたとかなら洒落にならん!この状況(夜道で男女二人きり。しかも女性は酔いつぶれてて意識なし)では、俺に何の悪意がなかったとしても信用度ゼロだ!訴えられたら負けるし、何よりタツミに申し訳ない!一生消えない傷になったらどうしようもない!ここは謝る一手に尽きる!
「申し訳ない!悪気なんてなかったし、触ってしまったなんて気づきもしなかったんだ!信じてくれ、俺はそんな人間じゃない……」
「落ち着きなよ、なおくん。そんなんじゃないって」
「……なんだよ、それなら早く言ってくれ」
勘違いで寿命が数年は縮んだぞ、まったく。
「……あのね、なおくんがまたいなくなる夢を見たんだ」
「いなくなる?」
「昔、一度私の前からいなくなったじゃない?」
そうだな。親父の転勤でこの町に来たから。
「その時も物凄く悲しかったんだけど……今、また急にいなくなる夢見ちゃって……すごく悲しくなっちゃった」
……そうか。
「たぶん、私の中では昔よりも、なおくんの存在が大きくなってるんだと思う。……だからね、……突然いなくなるのはもう嫌だよ」
何もなくても二年後にはバラバラになるだろとか、クラス替えで疎遠になるかもしれんだろうとか、笑い話で済ますこともできた。……ただ、タツミの目が真剣で、かつ潤んでまたすぐにでも泣きだしそうからだろう。俺らしくもなく、真面目に、後から考えると悶絶するほど恥ずかしいセリフで答えた。
「……わかった。俺はもう二度とお前の許可なしには、いなくなったりしない。お前の傍にいて、少しくらいなら心の隙間を埋めてやる。これから……北高を卒業するまでに、俺自身でなく、思い出だけでその隙間が埋まるよう、濃厚な日々を送らせてやるから覚悟しとけ」
夏コミの資金ってどれくらい持ってくものなんでしょうか?最終日だけの参加ですが。