第八十八話 打上
「さーて、皆、グラスは行きわたったかー?」
「きてるぞー!」
「さっさと始めろー!」
「いいみたいだな……。それでは!文化祭の成功と体育祭の健闘を祝して!」
「「「かんぱーい!!!」」」
打ち上げ会場は焼き肉屋。量は少ないし金も高いが、近いことを理由にここに決まった。もったいないことこの上ない。いくら文化祭の儲けがあるにしても。
「……ふう……」
「旦那、どうした?辛気臭い顔して」
「いや、二学期の主要イベントが早々に終わったと思ってな……。これで日常に戻れるかと思うと、ホッとする」
日常生活も、この学校では非日常なことが多いけれども。それが普通になってるんだから、人間の適応能力は底が知れない。
「三井ー、ちょっと女子が呼んでるよー」
「断っといてくれ」
「よしわかった……っておい。用件も聞かずに断るなよ」
だって面倒な匂いがプンプンするんだもん。
結局、呼ばれたところに連れられてきてしまった。……用件を聞くのが怖い。
「……用件は?三秒以内に言え」
「辰美ちゃんと付き合え」
ちっ、三秒で答えよった……って……え?
「はあ!?付き合えって……ちょっ……はあ!?」
「旦那動揺しすぎ」
「いやー、辰美ちゃんが酔っぱらっちゃってねー?相手するの代わってほしくてー」
……そういうことか。……お酒は二十歳になってから。
「断る」
「じゃあこっちにいるから。よろしくねー」
無視ですか。俺に拒否権はないんですか。ないんですねわかります。
「……やっぱ面倒事じゃねえか……」
「それが旦那の生きる道」
面倒事を一手に引き受ける人生なんて嫌じゃ!
「ああ、そうそう」
「なに?」
「……酔っぱらってるからって、襲っちゃ駄目だよ?本人の同意……意識がはっきりしてる時にしっかり確認しないと、そういうことしたら?」
しねえよ!俺をなんだと思ってんだ!?
「男は皆、狼なんでしょ?本で読んだよ?」
「何の本じゃ!?そういうのは……そう!一部!清水みたいな一部の男子だけだから!」
「そこで俺をたとえに出すのは、悪意があるからと理解していいか!?」
「だって事実じゃん」
狼には違いない。
「これは心外!おかしいよな!皆!三井の返答は明らかにおかしいよな!」
「「「いや、全然」」」
「苛めだ――――!!!」
……そう思うなら日頃の行動を改めろ。人の印象は日頃の行動で決まるもんだ。