第八十六話 運動
体育祭もいよいよ大詰め。花形種目のリレーも数種目が決勝を終え、残すは男子九百メートルリレーのみ。我がクラスの精鋭(清水除く)で構成された切り札である。予選でも好タイムを弾き出し、優勝候補の一角にまでなっている。
「ガチンコでの勝負は燃えるよねー。青春の象徴って感じでー」
「勝負の場に立ってないから言えることだな。決勝なんて緊張しっぱなしになるだろうに」
俺ならバトンパスの失敗とかフライングとかを気にして、百パーセントの力なんて発揮できん。できたところでたかが知れてる能力だけど。
「そうでもないみたいだよー」
「ん?」
見ると、集合地点にいるクラスメイト(柳、深谷、兼子など)は気合い十分で円陣を組んでいた。
「いいかー!俺たちが目指すものは一位のみ!ミスなど気にするな!一かゼロか、結果はどちらかでいい!様子を見て妥当なところに落ち着く……そんな大人になるのは嫌だ!」
「「「「「「おおお―――――!!!」」」」」」
知らねえよ。そんな士気を上げる役割で、円陣の中心にいるのは清水。選手じゃない(しかも怪我人)にもかかわらず、当然のようにその位置にいる姿は風格すら感じさせる。でも集合場所にまで行ってやることじゃない。他クラスの迷惑になるから帰ってこい。
「いやいや、鼓舞激励するのに清水以上の適任者はいないだろ」
「……それにしても、戦略を清水に託すのはどうかと……」
猪突猛進、振り向くことのない清水の性格がよく表れた作戦(と言うか意思表示)。しかしそれは、失敗すれば失うものが大きすぎる。
「そうですよねえ。転倒でもしたら一巻の終わり……タイムなどより勝つことを重視してほしいものです」
あ、健三さん。
「今、藤田先生のクラスとの差はほとんどありません」
「まあ負けてはいますけどね」
「黙りなさい。あの人のクラスも残念ながら決勝に出ているので、それに負けたら完全敗北となってしまいます」
「それなら、状況に応じて……」
「そんなこと言ったところで、あの洗脳に掛かった人たちは聞かないでしょう。一位しか狙いませんよ」
洗脳て。まあ清水の激励で、あのメンバーの目の色が変わったのは事実だが。
「はあ……負けたら藤田先生に何を言われることやら」
勝ったら勝ったで健三さんも嫌みの一つや二つ言うでしょうに。
「体育会系の人たちの脳構造が理解できません」
「俺もですよ、健三さん」
なんであそこまで盛り上がれるのかとか。
「……だから旦那も体育会系だろ……」
球技以外に興味はありません。
「旦那水泳部!」