第八十五話 拝借
応援合戦と言う種目がある。赤(奇数クラス)と黒(偶数クラス)に分かれ、北高の応援歌を歌うという何が楽しいんだかわからない種目である。責任者は何を考えてこの競技を入れたのだろうか。
「つまらん競技だ……」
「まあまあ旦那、ストレス発散になるかもしれんぞ?」
「……ストレスの原因が何を言ってやがる」
昼休みに逃げ続けられた後、集合がかかってから義人と石井の二人は揃って現れた。さすがに教職員のいる前(特に藤田先生とか小倉さん)で暴力を振るうのは自殺行為に近い。しぶしぶ我慢していたというのにこいつは……。
「とよはーしきーたこーうこーう!」
運動部の連中は声が大きいな。意味もないのに、よくあんなテンションを保てるもんだ。感心する。
「旦那も運動部だけどな」
「それは言わない約束だ」
応援合戦も終わり、次は色モノ競技、障害物リレーである。パン食い競争、アメ探し、などの障害物がある各コーナーに代表者を選び、クラス対抗でリレーをする種目。その中で義人が出場するのが借り物競走である。
「どなたか!どなたか水筒を持っている方はいませんか!?」
ふむ。水筒なら持っている人も多いだろう。いい借り物を引いたな、あのクラス。
「誰か!誰かバドミントン部の人来てくれ!」
ものだけでなくて人もあり得るのか。義人は何を引くか見ものだな。
「おーい、この中に「なんとか還元水の戯言で有名な、自殺した農林水産大臣の名前がわかる人」いないかー?」
なんだその借り物!?クイズじゃん!松岡元大臣だろ!わかるよ!
「機内にお医者様はございませんか!?」
ここ機内じゃないよ!陸上だよ!
「百万円持っている人いないか!?あなたのお子さんが事故を起こしまして……」
振りこめ詐欺だ!誰か詐欺事件が起きてますよ!
「PSPが欲しいです」
勝手に買えよ!
「旦那、来い!」
俺を直接指名するなよ、義人!
「……では、借り物の確認をします。よろしいですね?」
「オッケー」
「……なあ義人、借り物は何だったんだ?」
同じクラスの人、とか?もしくは水泳部とか、一年とか……男子、とか?
「<ツッコミ>ですね」
「ツッコミじゃねえよ!」
「合格です」
しまった!つい反射的に……!
「いやー、旦那のおかげで助かったよ。全体でも上位だってさ」
「……俺の存在意義はツッコミなのか……?」
「まあいいじゃん。いい順位だし」
……釈然としない……。