第八十四話 再認識
悪いことは重なるもので、二人三脚で女子と出場→疑惑+嫉妬の視線に晒される→順番待ちしてたら転んでタツミを押し倒す格好に→注目度がさらにアップ……という事態に陥ってしまった。それでもまだスタートしていないとは、何と人生とは辛いものであるのか。
「いちゃいちゃいちゃいちゃしやがって……俺の隣になったのが運のつきだ……正々堂々と潰してやるからな……!」
一学年上の先輩(つまり二年)が凄んできた。……もっとも、涙目なので迫力は薄れているが。
「落ち着いてくださいよ、名も知らぬ先輩」
「後輩のくせに、彼女と仲の良さを見せつけるための参加とはいい度胸じゃねえか」
「そんな目的ありませんよ。そもそもタツミとはただの友達で―――」
(ぎゅっ)
「なっ……!タツミ、冗談は後にしてくれ!笑って済ませられる状況でなくなる!?」
「ちくしょう!俺に何が足りないというんだ!」
「しいて言えば出会いだろうね、落ち着きたまえ」
騒ぎ立ててた先輩のパートナーは、冷静な人だった。というか、大人?
「女子と組んで二人三脚に出るなんて、変わってるね?なにか事情でも?」
「そうなんですよ!実は本来のパートナーが、部活で怪我して出れなくなったんです。困ったものですよ」
よかった、良識人で……。これなら下手に妨害されたり……ってことはないだろうな。……あれ?なんで俺、こんな当然なことに喜んでるんだ?末期症状?
「ところで、質問してもいいかな?」
「どうぞ?」
常識人には誠意ある対応を見せる、それが俺の信念だ。
「……競技中はギア2まで使うってことでよろしいかな?」
「よろしくないですよ!どんな化け物ですかあなた!?」
……不覚……!やはりこの高校に常識人など望むべきではなかった……!
「だいたい妨害自体反則ですから!ギア2で俺を殺す気ですか!?……いや、そもそもギア2使えたら人間じゃない!出場停止でしょう!」
「いやだなあ、冗談だよ。本気にしないでくれたまえ」
「……ですよね?」
「ただ第三形態まで変身が可能なだけだよ」
「だけって言いません!それは明らかに人としての領分を超えてます!」
「まあ、第三形態になったらそれだけで十八禁映像になってしまうけどね」
「どんな秘密を隠し持ってるんですか!?」
「裸になってしまうし」
「そういう意味か――ッ!!」
駄目だ、この先輩もおかしい人だ。キャラが濃い。勝てる気がしない……!
まあ、勝たなくていいけど。
「位置について」
ようやくスタートか。疲労も最高潮だぜ。
「よーい……」
にゃおーん。
「スタートしてください」
「今の合図かよ!」
そんなんでスタートできるか!?
「なおくん、もうみんな走ってるよ?」
できるのかよ、おい!
「…………」
で、隣の先輩方は早速こけてるし!なんだかなあ、もう!
「一度もこけることなくゴール。二十四組中、タイムで十四位は立派な成績だと思うんだ」
「そうかもな、旦那」
「それはそうと、俺はお前に言いたいことがある」
「手短に頼むよ」
「……辞世の句はそれでいいのか?」
「なぜ!?」
「……あれだけ人の醜聞を広めてくれて、よくもまあ……」
「お、お祭りだからいいじゃないか」
「そうだな、お祭りだから派手なものが欲しいよな」
「そうだな!応援用のメガホンでも作ってくるから俺はこれで―――」
「十字架を応援席に挿しておこうか……人を括りつけて」
「ひいいいいいい!旦那、目が本気!冗談になってない!」
「当然だ……本気だからな」
「ぎゃあああああ!」
「まてこらあああああ!」
……残念ながら、義人と石井(義人と違い、俺が返ってくる前から逃亡)の十字架をさらすことはできなかった。……ちっ。