第八十三話 只管
「位置について……よーい」
パン!
「位置について……用意」
バン!
「位置について……ヨーイ」
ズギュウウウウウウン!!!
「待て!?最後のスタートの合図だけ、明らかに別物だったぞ!?」
「落ち着きなよ、なおくん」
しかもジョジョ風ってどういうことだ!?しかもそれに構わず、一糸乱れずスタートする連中……訓練されてるのか!?突っ込みを入れないように調教されてるのか!?
変な噂を助長しそうなタツミの行動、それに過剰反応する一部の生徒のおかげで、俺は協議開始前から疲れ切っていた。五、六ペアが同時にスタートして、それを五回繰り返しタイムを競うのがこの種目のやり方。最終組に登録されている俺とタツミのペアは順番待ちで、足を繋がれたまま直射日光のあたるグラウンドの中央で座っていた。日陰くらい作ってくれればいいものを……生徒(と言うか俺)が脱水症とか熱中症になったらどうするつもりだ。もしなったら盛大に騒ぎ立てて問題にしてやる……!
「なおくん、それは日頃から直射日光に当たってる水泳部が言うセリフじゃないと思うよ?」
「それでもあえて俺は言う。インドア派の人たちのためにも……!」
「後ろ向きな発言をそこまで真剣にされても……」
なんやかんやしているうちに、四組目がスタートした。次が最終組、つまりは俺たちの出番だ。
「ほれ、行くぞタツミ」
「待って……あっ!」
すっと立ち上がった俺だったが、一つのことを失念していた。今、俺とタツミは足が繋がれているのである。よって俺一人が立ち上がっただけではバランスが崩れる。バランスが取れなければ人間は立っていられなくなる。つまり――――。
「おおっと!?旦那が石川さんを押し倒した――ッ!!」
「三井ー、いくら耐えきれなくなったからってー、白昼堂々人目があるところで押し倒すのはどうかと思うよー?欲望に忠実なだけではけだもの同然だよー」
人聞きの悪いこと言うんじゃねえお前ら!タツミの上に倒れ込んでしまっただけだろうが!俺が全面的に悪いのは認めるが、騒ぎを大きくするな!
「すまんタツミ、すぐどくから!」
「…………」
顔を真っ赤に染めてしまったタツミに罪悪感を覚えながら、すぐに立とうとする俺。しかし立っても足が繋がれている事実は変わらない。そんな当然のことにも気付かないほど俺は動転していたらしい。同じ過ちをもう一度繰り返してしまった。
「二度目!二度目!」
「旦那!もういいや!そのまま行け!俺が許す!」
「いいよー」
よくねえよ!写真撮るな!こっちに注目するな!競技中……ああもうゴールしてるし!
「ごめんな、タツミ。本当にごめんなさい……」
やっとのことで足の手拭いがほどけ、どくことができた。その後はひたすらタツミに平謝りである。
「……この件は、後でゆっくり話そう?」
「わかりましたごめんなさい」
「もう二人三脚もスタートするし……」
「そうだなごめんなさい」
「い、今は競技に集中しよう?」
「可能な限り頑張るごめんなさい」
「……なおくん罪悪感芽生えすぎでしょ……」
そんなことはないぞごめんなさい。