第七十七話 厳命
「あなたたちに厳命を下します。藤田先生のクラスに絶対に勝ちなさい」
「何かあったんですか健三さん」
また藤田先生とトラブルですか。厭きないですね、本当に。
「あの藤田先生、朝の会議でほんの十五分ほど寝ていただけで「いったい山本先生は何歳児ですか?乳幼児並みの睡眠時間を取らないと生きていけない奇病にでもかかっているんでしょうね。可哀想に」などと仰るんですよ?これは宣戦布告ととらえて構わないでしょう」
「……ちなみに会議は何分ほどかかったんですか?」
「十五分ですが」
時間いっぱいかよ!出席した意味ねえ!藤田先生もそりゃ怒るよ!血管そのうち切れるよ!
「そんなことありませんよ。会議は出席することに意義があるんです」
「……その会議での連絡事項はわかりますか?」
「さあ」
さあっておい!しっかりしてくれ担任教師!
「どうせ校長が気取って「生徒たちには北高生らしい毅然とした態度を守らせるように〜」とか、「体育祭で求められるのは結果ではなく過程だ〜」とかの、聞こえは良くても中身のない話を延々と繰り返しただけでしょうから」
校長の話を〈中身ない〉呼ばわり!?しかも聞いてもいないのに!?実際校長が毎回そんな話するのは事実だけど、それを教師が堂々と言っちゃうのはどうかと思うんだ!……それと……。
「……何気に校長のモノマネがそっくりですね」
「去年の忘年会での隠し芸ですから」
……そういう無駄なところへかける努力と情熱を、ほんの少しでいいから会議に使ってくれたら、藤田先生もイライラで高血圧に苦しむこともなくなると思うんですが。
「私の貴重な睡眠時間は、どなたであろうとも削らせません」
「……あれ?それにしては文化祭の準備の日、わざわざ学校に来てましたよね?あの日は家でじっくり休めなかったんですか?」
「訂正します。私の貴重な睡眠時間は、妻と娘以外には削らせません」
……つまりは、家にあんまり居場所がないんですね……健三さん……。
「受験生だからという言い訳は卑怯ですよね」
どこか遠くを見ながらつぶやく健三さん。……やはり世の中のお父さんの一人には違いないんですね……。
「なんか、健三さんに同情したくなりましたよ」
「同情するなら私のために働きなさい」
高圧的だ!
「……健三さんのためにも、頑張るぞー!」
「「「……おおーっ!」」」
……クラス間の空気が微妙だ……。