第七十六話 弾ける
体育祭当日の朝。体と心の疲れは未だ回復していないというのに、長縄の練習をやるとのことで朝もはよから登校。例によって寝ていた義人をたたき起こし、時間どおりにグラウンドに集合(体操服には着替えた)したのだが……。
「……人口密度高いな……」
どこのクラスも考えることは同じなのだろう。二つあるグラウンドは生徒達の練習風景で埋め尽くされていた。やる気に満ち溢れてるな……落ち着けよ。
「どのクラスも燃えてるな……お祭り騒ぎがそこまで好きか」
「そりゃ好きだろ。中でも二年の先輩方は盛り上がりが異常だ」
「理由は何かあるのか?」
「それはねー、二年が優勝の可能性が一番高いからだよー」
「三年じゃなくてか?」
「うんー。だって三年は部活引退してー、体力が落ちてるからねー」
「なるほど。それなら二年の先輩方のやる気にも頷けるな」
ただ、三年の先輩もやる気がないわけではない。はっちゃけ具合ではトップだろう。そんなに受験勉強は大変なのだろうか……?背中に旗(〈三年四組ばんじゃーい〉と書いてある)を挿しながら、縄を回す姿はなかなかにシュールだ。
「……はっ!まさか笑わせて他のクラスの戦意を喪失させる作戦か!?なんて恐ろしい……注意が必要だな、旦那!?」
「いらねえよ!もしその作戦だったとしても、出オチじゃねえか!」
「こ……これは負けてられねえ……」
「清水!怪我人が何考えてんだ!?対抗しようとしなくていいから!そういう勝負は種目にないから!ちょっとどこ行くんだ!」
「開会式までには戻るから練習はお前らだけでやっとけ!」
清水はそう言い残すと、松葉杖を突きながらも、かなりの速さで去っていった。……一体何に対抗意識を燃やしてんだ……あいつは……。
「……掛け声はあいつが出すって言ってたのにな……夏目?練習どうする?」
「やるだけやっとこう。清水がいなくてもできるってことを証明しとこう」
そうは言ったものの、結局朝の練習では記録は伸びず。不安を残したまま本番に臨むこととなった。……まあ、いい記録が出なかったところでペナルティがあるわけではないし、いいんだが。
「ただいま!待たせたな!」
「清水、いまさら待ってねえよ。もうすぐ開会式だから並ぶぞ」
「何持ってんだ?競技に必要ないなら置いてこいよ」
「ふふ、これこそクラスの士気を盛り上げる秘密兵器だというのに……」
「はいはい、妄想も大概にしておけよ?」
「反応冷たっ!?」
「〈覇王 優勝は我が手にあり〉?ダサいな」
例の三年の旗に触発されてだろう。清水が作ってきたのは旗だった。文化祭で余っていた段ボールで作ったようで、即席にしてはそこそこ良くできていた。……文章にセンスが見られないのは致命的欠陥だと思うが。
「そのくせネタばれして、挙句の果てに酷評だと!?」
「……そんなことに時間かけるなら、練習手伝えよ」
「声出しはやるって自分で言ってたのに……清水君って自分の発言に責任をもてすらしないんだね」
「このKYが」
「四面楚歌だ!この俺が、そんなに空気読めないと!?」
「いや、K Yだ」
「ひどい!あまりにもひどすぎる!」
「ま、まあ清水君も悪気があってやったわけではないんだし……」
「石川さん結婚してください」
「いくら清水君が駄目人間でも、正直に言うのはよくないと思うよ?」
「やっぱり敵だらけだ!」
……今になって気付くとは、哀れなやつ。