第七十五話 掛声
「声出しは俺がやるから、あとに続けて叫べ!」
叫ぶのか。むしろそっちの方が飛ぶよりも疲れそうだ。
「せーの!ワン、トゥー、スリー!」
「なぜ英語!?」
普通にやれ、普通に!
「おおー、三井が突っ込みを入れたねー」
「疲れてるだろうに……旦那の本能が疲労に勝ったのか」
やかましいわ。俺の本能は突っ込みに特化してるのか。嫌だぞそんな本能。
「一致団結するかと思ったんだが」
「どういう理屈で!?いないよ!掛け声が英語になったら一致団結する、アメリカンな人はここにはいないよ!」
「I want to eat beaf bowl」
「知らないよ!何を証明したかったのかは知らんけど、「私は牛丼を食べたいです」ではアメリカンな感じは一向に出ない!牛丼って日本人丸出しじゃねえか!」
「そうか……訂正しよう」
……やっと声だしが普通になるのか。清水が納得してくれたようでなによりだ。
「I want to eat girl」(性的な意味で)
「訂正するのそっちかよ!しかも悪化してる!?「私は女の子を食べたいです」!?犯罪臭がバリバリするわ!危ない人だ!危ない人がここにいますよ!」
「しまった……つい本音が」
「本音!?本気で言ってたのかよ!?」
思春期の男子なら少しは考えるのもやむを得ないかもしれんが、声に出して言うなよ!女子いるのに!クラスの女子が勢揃いしてるのに!
「…………」
うわー!女子が清水のことをけだものを見る目で見てる!でも半分くらい「清水だしそのくらい考えてただろうよ」みたいな達観した表情なのが気になる!清水の評価は、女子内でどんだけ低いものになってんだ!?
「そんな目で見るなよ。俺が変な趣味に目覚めたらどうするつもりだ!?」
清水は清水で反省の色なしだし!こんなんで大丈夫なのか、このクラスの長縄は!?
「……はーい、では長縄続きやります」
清水が普通に戻った!テンションが下がるとそれはそれで不気味だな!
「ワン、トゥー、ヒアウィーゴー!!」
全く改善してないし!
……その後一時間かけて練習した結果、最高記録十八回、平均十回程度は飛べるようになった。なんだかんだで清水の声だしはかなりの効果があったようだ。
「でも隣で練習してたクラス、最高三十回飛んだみたいだな」
「本番勝負だからな……うまくいけば最高記録更新できるだろ」
皆の集中力も格段に上がるだろうし。集中すれば長縄はなんとかなると思うんだがどうよ?
「まあ回数飛べなかったからって、何かあるわけでもないしな」
「うわー、旦那ネガティブ」
「いつものことだろうが」
「それを自分で言ってるのはー、終わってると思うよー」
何が。
「人生」
スケールが大きいわ!